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αとβの導く先 2

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「生憎だけど、お嬢さん。俺はΩの誘惑フェロモンを感じ取ることが出来ない」
 
「え……」
 
 女性が掠れた息をこぼす。
 目を見開いた彼女に、彼は自嘲した。
 せせら笑うような、皮肉げな笑みだ。
 
「俺はαとして欠陥品。きみの番になることはできない。ごめんね、ほかを当たってほしい。俺は、きみにふさわしくないよ」
 
「で、でも……噛むことは……」
 
 なお言い募る彼女に、彼は首を横に振る。
 
「フェロモンを感知することができない以上、俺はきみに欲情しない。番になっても、子作りができないんじゃさいあくだ。きみはヒート期間、今まで以上に辛い思いをする」
 
 Ωは、ヒート期間に入ると番のαと子作りする。
 それは常識的な知識だ。
 だけど、彼は誘惑フェロモンを感じ取ることが出来ないから、彼女を抱けない──そう、はっきり口にしたのだった。
 女性は零れそうなくらい目を見開いて、そしてくしゃりと顔を歪めた。
 彼女が嗚咽をこぼして泣き始めると、遠くの方から足音が聞こえてきた。
 
「憲兵がきたかな。さっき呼んでもらうよう言っておいたんだ」
 
 彼が立ち上がる。
 女性はもう、ロベートに縋るような真似はしなかった。
 
 憲兵が来ると、彼らは女性に一言二言声をかけ、その手に抑制剤を渡していた。
 
「あとは彼らに任せよう」
 
 ロベートのその言葉にティナも頷き、彼はその場を後にした。
 憲兵が来たからか、いつも静かな道は少しだけ騒がしい。
 彼女は、沈黙に耐えかねて話題を探し、そして気になっていたことを口にした。
 
「いつ帰ってきたの?」
 
「今さっき。ずっと馬上だったから、汗臭いかもしれない。気になったらごめんね」
 
 ロベートの言葉に首を横に振る。
 もっと聞きたいこと。言いたいことはあるはずなのに、彼女はそれを口にすることはできなかった。
 
「思ったより早くてびっくりした」
 
 ティナの言葉に、彼は二週間より早く戻ってこれたことを言っていると気がついたのだろう。
 頷いて答えると、彼はため息をついた。
 少し疲れているようで、疲労を感じさせる声だ。
 
「少し早く片付いたんだ。あとは、きみに会いたくて急いだからかな」
 
 天候にも恵まれたしね、と彼は付け加えた。
 帰り道の途中だったのもあり、あっという間に彼女の家は近づいた。
 
 彼女の自宅に辿り着くと、彼はティナと向かい合った。
 
 夜空を背景にした彼は、やはり美しくてどこか現実味がない。真っ白な狐の耳も、新雪のような純色の銀髪も。氷の表層のような、アイスグリーンの瞳も。
 全てが、きらきらとして、神秘的で、白昼夢のように彼女を魅了した。
 彼は困ったように眉を寄せて、少しだけ切なげな瞳をした。
 
「ねえ、ティナ。俺の妻になってくれる?」
 
「──え」
 
 一瞬、何を入れているか分からなかった。
 瞬きを繰り返す彼女に、彼が苦く笑う。
 
「今すぐ、決めなくてもいいよ。でも、俺は妻を迎えるならきみがいい。きみを、妻と呼びたい」
 
「それ、は」
 
「答えは急がないで。……俺は、良い返事しか聞きたくないけど、きみを急かすつもりはないんだ」
 
 彼が、彼女の両手をそれぞれ握った。
 彼女を軽く引き寄せて、彼女を抱きしめながら彼は言った。
 
「きみと一緒に住みたい。家族を作ろう。俺と、きみと、俺たちの子供。きっと、幸せな家族になる」
 
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