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眠れない夜 3
しおりを挟む「急かしてしまって、ごめんね」
彼は彼女の頭に数度、口付けを落とした。優しい手つきでそっと腰を抱き寄せる。ティナは彼の胸に体を預けたまま、胸を抑えた。
心臓が早鐘のように早く、そして大きく鳴っていたのだ。
「ティナ。きみの心が追いつくまでは待つよ。だから、俺を好きになって」
ひたすら甘い、優しい声だ。
どんな生クリームよりも、カラメルよりも甘ったるい。砂糖をふんだんに加えたような、そんな声。加えて、その声はティナのすぐ耳元で聞こえてくるのだからたまらない。瞬く間に彼女は顔から耳から首筋まで真っ赤に染めあげた。
「……今日はもう、何もしないよ。でも次は、もう少し俺に許してくれたら嬉しい」
「………もう少し、って?」
掠れた声で、ティナが小さく言った。
ただ気になったのだ。もう少し、とはどの程度のことなのか。彼との夜の記憶が無いティナには、男女の交わりというものが分からない。口付けの次は、何があるのだろう。
彼女がそっと顔を上げると彼は愛しいものを見るように目を細めていた。
ティナの長い髪を一房指ですくうと、髪先に口付けを落とす。
「もう少し、きみの肌に触れたい、ということだよ。許してくれる?」
「わたしの、肌……」
繰り返したティナは、すぐにその意味を悟って顔を真っ赤にした。薄暗い室内であってなお、それでも分かるくらいに顔を赤く染めあげた彼女は、もはや羞恥で涙を滲ませながらくちびるを引き結んだ。もう、何を言えばいいかわからなかったからだ。
そんな彼女に、ロベートは苦笑する。初心な彼女にはこれが限界だろうと思ったのだ。
「朝になったらまた起こしに来るよ。まだ夜だから、ゆっくり眠って」
そう言って、彼が立ち上がろうとしたので、ティナは思わず彼の服の裾を掴んでいた。驚いた様子のロベートが彼女を見る。しかし、彼女もまた、なぜ彼を引き留めたのかわからなかった。
「どうかした?……ああ、お腹すいちゃったかな。軽食ならすぐ用意できるけど──」
「行っちゃうの?」
「え……」
「もう少し……いて、ほしい。……あの、私が眠るまで………」
ティナは恥ずかしさのあまり、思わず兎の耳をへにょりと折り曲げた。彼女の目はいつ零れ落ちてもおかしくないほど涙が膜を張っている。
寂しい、と思ってしまったのだ。
言葉は咄嗟に口から零れ落ちていた。
男たちに乱暴されそうになった記憶は、すぐに眠りに落ちてしまったせいか現実味がない、夢のような感覚になっていたが、それでもひとりになるのは心細かった。
何より、彼の──。
『もう大丈夫だから、安心して』
その言葉に、ティナは心底ホッとしていた。彼がいれば大丈夫なのだと、その時に思ってしまったのだろう。だからこそ、彼が離れることを怖いと思った。
自分からこんなことを言い出して、破廉恥なのではないか、迷惑なのではないかとそろそろとティナが顔を上げると、しかしそこには、ティナに負けず劣らず顔を真っ赤にさせたロベートがいた。
目を見開いた彼は、肌が白いせいもあり、顔が赤くなるとわかりやすい。ティナが驚いて彼を見ると、ハッとしたように視線を逸らし、その口を手で覆う。
それから、ややあって彼は小さな声で答えた。
「……添い寝で、いい?」
その言葉に、ティナは断られなかったことにほっとして、顔をほころばせて頷いた。
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