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曇り空の下で 2

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「──以上、お話した通りです。アドリオン・オーガスターを、男たちに聞き出した場所に送り出します。いずれ、男たちと結託していた人間が港に顔を出すかと思いますので、そこを捕らえればよろしいかと。その男どもに話を聞けば、手を貸している貴族の名も分かってくるはずです」
 
 身を清めたロベートは、謁見の間で父に淡々と報告した。それを聞いた父王は頷いて答える。
 
「うむ。ご苦労だったな。して……ロベートよ。つい先程、私の耳に入ってきた報告がある。お前も聞くとよい」
 
「……は」
 
「バルトロは二年前に結婚した。お前ももう二十二だろう。そろそろ妻を娶ってもいいのではないか?」
 
「………」
 
 ロベートは沈黙を守った。
 父である王が、この後何を切り出すか予想がついたからだ。
 
「お前はこの国の王子だ。相応しい身分の娘を迎えるべきだと私は思うが……それ以上に大切なのは、お前が想いを寄せる相手であるか、ということだと私は思っている」
 
「………」
 
「王都の酒場で、ずいぶん派手な真似をしたらしいな。娘を抱いて店を出たと聞いているが」
 
 王は、先程ロベートが報告を上げていた時とは打って変わり、楽しげに口角を上げた。事実、王は楽しんでいるのだろう。今まで、恋愛ごととは程遠かった息子の初めての|醜聞(スキャンダル)だ。
 相手が身元もしれない町娘、という点がネックだが、それにしてもこの息子が女性と親密になる、など過去になかった。
 ロベートと町娘の姿は、一部では既に噂となっているがまだ揉み消せる程度だ。これを機に、ロベートが女性に興味を持てればと王は考えたのだった。
 
「仰せのとおり、私は二十二となります」
 
 うんうん、と王は頷いた。
 ロベートは変わらず片膝をつきながら、さっと顔を上げる。彼は狐の獣人だが、見目は母譲りだった。王妃と非常に似た顔立ちをしているのだ。不義を疑われてなお、両親に愛されたのは王妃と似通った面立ちをしているから、というのも理由の一端かもしれない。
 
「妻に迎えたい娘がおります。どうか、お許しを」
 
「……それは、今日お前が共に行動した、町娘か」
 
「はい。私は彼女を妻にしたいとずっと思っていました。……ずいぶん長く時間がかかってしまいましたが、必ず彼女を口説き落とします。ですので、王よ。許可をください。彼女を私の妻にします」
 
 王は、息子の端的な言葉に目を丸くした。
 息子がこうも情熱的に女を求めるなど思ってもみないことだったし、例え自分が認めなくても彼はその娘を勝手に妻にしてしまいそうだった。
 息子の発言は強引で自分勝手だった。これは王へ許可を貰う発言ではなく、宣誓に違いない。
 
 思い返せば、この息子は一度決めたら誰になんと言われようと意見を覆さないところがあった。
 過去、ロベートが王族の影とも呼ばれる暗殺部隊に入りたいと志願した時もそうだ。王はもちろん、王妃やバルトロも反対したが最終的にはロベートの国家の役にたってみせる、認めないのなら議会を通して正式に承認を乞う、という言葉に仕方なく王は折れたのだった。
 王は過去のことを髭をなぞりながら思い出す。
 
「……まだ、口説いている最中なのか」
 
 王の言葉に、ロベートは僅かに息を飲んだ。
 そこを聞かれるとは思わなかったからだ。
 ややあってから、彼は硬い声で答えた。
 
「はい」
 
「であれば、まずは娘の説得からだ。それからでないと、私は話を聞かん」
 
「ありがとうございます、父上」
 
「……王族の結婚である以上、必要最低限のマナー、教養、知識は身につけてもらうぞ」
 
「仰せのままに。私が教えます」
 
 お前が教えるのか、とまたも王は意外に思った。息子はどうやらずいぶん、その娘とやらに惚れ込んでいるらしい。
 答えた彼の瞳は王が見たこともないくらいに優しい色をしていたし、いつもは抜き身の刃のような鋭い冷たさが、今はない。柔らかく優しいその声に、王はため息をついた。
 一体いつの間に、ロベートはそんな娘を見つけたというのだろう。
 もう行け、というように王が払う素振りを見せる。
 ロベートは立ち上がると、頭を下げて謁見の間を後にした。
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