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βの集まり
しおりを挟むそれからロベートは次の日も、その次の日もティナの帰りを待った。
完全なストーカーだ。不審者と憲兵に通報してもいいくらいだが、ティナは彼が嫌ではなかった。
しかし裏手の扉を開けて彼の銀色の髪を見ると、またか、という思いは込み上げる。
彼は相当な暇人なのか。いつ仕事が終わるとも分からないティナのため、寒空の下ずっと待っている。そんな彼にティナは何度も、待たなくていいと言ったが『夜、女の子がひとりで歩くのは危ない』と言われてしまった。
実際、ティナの家までの帰り道は街灯が少なく夜になると薄暗く、人気もないのでロベートの申し出は有難かったのだ。
彼は、ティナの恋人になりたいと言っている。それなのに、彼の言葉を拒んでおきながらここ数日ずっと家まで送って貰っていて、こんな状態でβの集まりに行ってもいいのかとティナは悩んだ。
ティナ自身、恋人ではなく友達欲しさにその集まりに行くのだが、恋人を求める場であることも間違いではない。
夜、ベッドの中でなかなか寝付けず考え込んでしまったティナは、最終的に、『ロベートには待たなくていいと何度も言っているし、集まりと言っても恋人を探すわけでもないから、いいか』 で決着した。
しかしそれよりも、なぜロベートが自分の恋人に、というのか。そっちの方が分からない。
αで美しい顔をしているロベートなら引く手あまたはずだ。
(気になってる、って言ってたけど……)
それは一時的な興味本位なのではないだろうか。好奇心にも似た。
きっと彼は、ティナが酒場で大泣きして、αの恋人に振られたばかりだったから物珍しいのかもしれない。しかも、その少し前にティナは大通りでこっぴどく振られ、街中の噂となったはずだ。
ただでさえαとβが付き合うなど珍しいのだから。
彼がただ、興味本位でティナと付き合いたいと言っているのだとしたら、やはり付き合わない方がいい。
このまま放っておけば、きっとロベートはティナから興味を失うだろう。今はただ、珍しい、と言うだけ。
βの集まりの当日。
王都の東区域の酒場が、集合場所だった。
その日は、幹事の獣人が二階を貸し切っていて、ティナもまた二階へと向かった。
この建物は三階建てらしい。
一階と二階は酒場。三階は、宿となっていて、宿屋と併設しているようだ。
いつもより少しだけオシャレをして、ティナは緑のシャツに白のエプロンワンピースを着てきた。この服は、安く購入した緑のシャツと白のエプロンワンピースを自分でアレンジしたもので、彼女のお気に入りの服だった。髪もいつもは遊ばせておくか、仕事中邪魔でポニーテールにするかの二択だが、今日はサイドアップにしてみたのだ。ドキドキするティナが二階に向かうと、既に何名か揃っていた。
男性より女性の方が少ないが、それでも二名いた。
開始時刻になると、やっと全員揃うがそれでも十名に満たない。
βの数が少ないのだからこんなものだろう。むしろこの数が集まっただけでもすごい。ティナは初めてこんなにたくさんのβの人と会った。
幹事の獣人が木製のジョッキを掲げる。
ティナも自分の前に置かれたジョッキを手に取った。中に入っているのはエールのようだ。
ティナはエールが苦手なので、できたら蜂蜜酒が良かったが贅沢は言っていられない。
「今回も、βの集いが開催出来ました。みなさんお集まりいただきありがとうございます。では、いい出会いを!」
乾杯!の言葉にみながジョッキを掲げた。
ティナも同様に持ち上げ、ぺろりと舐めるように口をつける。途端、口内に溢れるのは苦味で、すぐにティナはジョッキをテーブルに戻した。
ティナがそうしているうちに、ひとりの男性が近づいてきた。丸い耳が特徴的な青年だ。何の獣人だろうか。
「はじめまして……お嬢さん。初めて見る顔ですね」
「はじめまして。友人の恋人にこの集まりのことを教えてもらったんです」
ティナが答えると、前の青年はなるほど、と頷いた。灰色の髪はロベートを思い出させるが、目の前の彼の髪は象牙色で、少しだけロベートと色合いが違う。
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