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素直な兎 3

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「どうして笑うの」
 
「ごめん。あまりにもきみが素直だから」
 
「そう?だめだった?」
 
 ティナは自分が気まずいから彼に伝えただけなのだが、なにかおかしなことだっただろうか。
 彼女は、表情以上に、その兎の耳に感情が現れやすい。不思議そうきぴょこぴょこ横に揺れる耳を見て、ロベートが笑みを浮かべる。
 
「だめじゃないよ。教えてくれてありがとう、ティナ。だけど、恋人でもない俺はきみを止める権利を持たない」
 
「………」
 
 そう言われると、なんだか気まずくて押し黙ってしまう。
 それと同時に耳もへにゃりと折れた。
 可愛い。触れたい。
 ロベートはそう思うも、言葉にすることはもちろん、急に触れるなんて真似もしなかった。
 
 気がつけば、ティナの家はもう近かった。
 やはり、酒場で自宅を教えたのだろう、とティナは考えた。初対面のひとに自宅を教えるなど、あまりにも不用心だ。
 どうしてあの日、記憶を無くすくらい酔っ払ってしまったのかは分からないが、これからお酒を飲む時は気をつけようと自身を戒める。
 
「恋人じゃなくて、友達ができるといいね」
 
 ロベートは、ティナの自宅まで送ってくれた。
 自宅の前で、彼が穏やかな笑みを浮かべてティナを見る。その優しい瞳は、やはり知り合って数日の人間に向けるものでは無いような気がして、ティナは落ち着かない。
 
「あ、でも同性だけだよ。男はだめ」
 
「……どうしてロベートに命令されなきゃならないの」
 
「これは命令じゃない。お願いだよ。俺にはまだ、きみの交友関係を縛るほどきみに許されていないから」
 
 (……恋人になったら交友関係って縛られるものなの?)
 
 ロベートの思わぬ発言にティナは目が丸くなる。
 過去の恋人とは、互いの交友関係などあまり詳しく話さなかった。彼の親しい友人は数名知っているものの、名前だけだ。
 目をぱちぱちさせるティナに、また彼は優しい瞳をして、笑みを浮かべた。
 
「ほんとうは、ここできみのおでこにでもキスをしたいんだけど……。それはだめだよね」
 
「!?」
 
 さっと、思わずおでこを隠すように前髪を抑えたティナに、ロベートは苦笑した。
 ティナは狼狽えながらも前髪を強く抑えて、ロベートをじっと見つめた。
 
「だめ、です」
 
「そっか、残念だな」
 
「…………」
 
 ロベートは長居するつもりはなかったのか、ティナに「冷えるから早く家に入って」と言うと、そのまま帰って行った。
 
 
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