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素直な兎 2
しおりを挟む「きみが気になるから。それじゃ理由にならない?」
「…………ええ、と。その、誤解だったら申し訳ないんだけど……もしあなたが私に色恋のような関係を求めているなら」
「そうだよ」
ティナが言い終わる前に、ロベートは答えた。
それにまた驚いて彼女は顔を上げる。
月は、ロベートが隠してしまって見えない。月光を背にした彼は背徳的な色っぽさがあって、ティナはますます落ち着かない。
「俺はきみと恋人になりたい」
「……それは、無理だわ」
「なぜ?」
「だって、あなたはαで私は」
「そんなの、俺には関係の無いことだ」
「な………」
ばっさり切って捨てられたティナは目を見開いた。まさかこの国で、そんなことを言うひとがいるとは思わなかったのだ。
ロベートはティナの顎に指をかけて、彼女の顔を持ち上げた。
「ティナ、俺たちは数日前に体を重ねたんだよ?体からの関係になってしまうけど、でも少しでいいから俺のこと、考えてみてくれないかな」
体からの関係、その言葉にぼっと火がついたようにティナの顔が赤くなる。月光の元であってもなお分かるくらい顔を赤く染めたティナに、ロベートが声を上げて笑った。
「ははは。ティナの反応を見るに、脈ナシってわけじゃないのかな」
「……私、もう恋はこりごりなの。しかも、αとなんて」
「αだからってひとくくりにしないで欲しいな。確かに大多数のαは番を持ち、番に執着するのかもしれないけど俺は別だよ。猫の女の子だって、βの恋人がいるんだろう?」
暗に、ロレリーナのことは信頼できるのにロベートのことは論外として、可能性すら考えないのかとティナは言われた気分になった。
いや、実際彼はそう言った意図をもって口にしたのだろう。
ロレリーナのことは信頼している。その彼女のことを持ち出されたら、ティナも頭ごなしに彼を否定することは出来なかった。
「……………」
沈黙が続く。
ロベートはティナの手を引いて歩き出しているが、どこに向かっていくのだろうか。
もしかして自分は、あの酒場で自宅の場所すらこの青年に教えてしまったのかとティナは自身の危機感の欠如に情けなくなってくる。
ふと、ティナは四日後に控えたβの集まりを思い出した。
ロレリーナ曰く、出会いを求めた場所でもあるらしい。それを思い出すと、落ち着かなくなってくる。ソワソワした彼女に気がついたのだろう。彼は尋ねた。
「どうかした?」
「あの……私」
言葉に悩んだティナは、あちこちに視線をさまよわせてからようやく小さな声で言った。
「四日後にβの集まりに行くの」
「βの?珍しいね」
βの数が少ないので、その集まりがあるということに彼は驚いたのだろう。ティナは頷いて答えた。
「そこは、出会いを探す場でもあると聞いたわ。ロレリーナから聞いたの。……私は、まだ恋愛をするつもりはないけど、友達は欲しいの。βの友達って、私いないから」
ロレリーナの恋人、セルバロスは知り合いの枠内だし、薬屋のおばあさんは、ティナにとって恩人だ。友人にはなり得ない。
彼女の言葉をどう受けとったのか。
ロベートは思案するように黙ったが、やがてティナに尋ねた。
「それを俺に教えてくれたのは、俺がきみと恋人になりたいと言ったから?」
「……ええ。私、あなたの恋人にはなれない。でも、このまま何も言わないで集まりに行くのは……なんだか、あなたに不誠実な気がして」
俯きながらもはっきり答えたティナに、ロベートは吹き出した。
なんてこの子は素直なんだろう、と思ったからだ。ティナが言わなければ、βの集まりがあることなどロベートは知るはずがないのに、ロベートに気遣ってあえて教えてくれたのだろう。
肩を揺らしてくっくっ、と笑う彼に、ティナはなぜ彼が笑うのか分からず彼を見上げた。
だけど、体を震わせて笑いを抑えようと試みる彼を見ているとじわじわ、なぜか自分が笑われていることに気がついた。
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