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狐の獣人 3

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 雑貨屋で本日納品分のレースコースターを並べていると、ちりんちりんと来客を知らせるすずが鳴った。振り返ると、昨日別れたばかりのロレリーナだ。
 
「こんにちは、ティナ。あら、新しい商品ね?見せて見せて」
 
「こんにちは、ロレリーナ。そうなの、一昨日完成したばかりなのよ」
 
 ちょうど一昨日、恋人に振られる前日に作り終わった作品たちだ。ティナがほんの少し寂しげに笑うと、ロレリーナはそんな彼女を心配するように見つめた。
 
「……ティナ、昨日はどうだった?先に帰ってしまってごめんなさいね」
 
 ロレリーナは、商品を見たいというのも理由の一つかもしれないが、それ以上にティナを心配して店まで足を運んでくれたのだろう。それがわかってティナは取り繕うようにはにかんで笑った。
 
「ううん、大丈夫。昨日は……」
 
 そこまで言って、ふと青年のことを思い出してしまう。
 そして、連鎖的に今朝目にした彼の肌まで思い出してしまったティナは、首筋まで真っ赤に染めた。
 それに目を丸くしたのはロレリーナである。彼女はティナに詰め寄るようにして尋ねた。
 
「ちょ、ちょっとちょっと!どうしたの?何かあったの?もしかしてあの美青年と……」
 
「違う!違うわ、何も無い!」
 
「……ほんとう?」
 
 明らかに怪しんだ顔をして、ロレリーナが目を細めた。探るような目にいたたまれず視線を逸らしたティナに、ロレリーナは諦めたのか、ため息を吐いた。
 
「ま、それはともかく……あのひと、どこかで見たことがある気がするのよね」
 
「え?」
 
「昨日は気づかなかったんだけど……帰ってから、なんとなく。見覚えがあるような気がして……」
 
 ロレリーナの言葉にティナも記憶を辿る。
 だけど過去、王都で彼を見た覚えはなかった。狐の獣人はそれなりにいるがあの雪のような銀色の髪と、ターコイズの瞳は目にした覚えはない。ティナが首をひねっていると、ロレリーナが苦笑した。
 
「ごめんなさい、勘違いかもしれないわ。それよりティナ、あなたに朗報があるのよ」
 
「朗報?」
 
 首を傾げるティナに、ロレリーナは楽しげに目を細めた。そして、人差し指を立てて得意げに口にした。
 
「βだけの合コンがあるらしいの!どう?あなたもいってみない?」
 
「え……?」
 
 思わぬ言葉にティナは目を瞬かせた。
 
「昨日、ティナはもうαなんてコリゴリって言ってたでしょう?だから昨日、セルバロスに聞いてみたのよ。βだけの集まりってないかしら?って。あ、もちろんティナのことは伏せたわよ」
 
 βは数が少ない。
 絶対数が少ないので、人口の多い王都でもなかなか見つけにくいのが実情だ。
 だけど、その中でも出会いを求めるβのためにひっそりと集まっている会があるらしい。それを、ロレリーナは昨日恋人から聞いてきたようだった。戸惑うティナに、ロレリーナは自信満々に言った。
 
「言ったでしょう。恋の痛みは新しい恋で癒すのよ、ティナ!」
 
「それは………」
 
 正直、ティナはもう恋なんてとうぶんごめんだと思った。αやΩといった、運命の番がいる獣人との恋愛は絶対に嫌だし、そもそも恋愛に対して疲れていた。
 それに、ロレリーナに言われるまで昨日の騒動を忘れていたのだ。今朝のことが衝撃的すぎて。
 どうやって断ろうか迷い、視線をさまよわせたティナにロレリーナはさらに言い募った。
 
「ね、何事も経験と言うでしょ?一回だけ行ってみない?もしかしたらいい出会いがあるかもしれないわよ?恋愛関係じゃなくて、友達になれる人がいるかもしれないし。この集まり、友達が欲しくて行く人もいるみたいよ?」
 
 (友達……)
 
 その単語に、ぴょこ、と兎耳が跳ねた。
 ティナは自覚がないが、彼女が思う以上に彼女の耳は感情豊かだ。
 友人は、確かにティナが求めているものだった。ティナの知り合いのβといえば、ロレリーナの恋人、セルバロスか、王都に来てすぐお世話になった薬屋のおばあさん、オアール以外知らないのだ。

 (βの友達が出来たら、β同士相談とかしやすいかも……)
 
 ティナはロレリーナに頷いて答えた。
 その集まりは定期的に開催されていて、次の開催日は一週間後とのことだった。
 
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