宝石姫は二度死ぬ

ごろごろみかん。

文字の大きさ
上 下
1 / 6

1

しおりを挟む

「シェリア、今日はなぜ陰気なお前をわざわざ呼んだかわかるか………?」

分からないわけないだろボケ。
思わず口をついて出そうになる言葉を必死に飲み込んで笑みを作る。そう、こういうことは慣れてるの。何せ生まれた時からずっと身につけてきた技なのだから。

「さぁ………なんのようでございましょう?」

「ふんっ…………相変わらず頭が空っぽだな。その真っ白な見た目と言い、中身もなんもない。つまらない女だ」

うるせぇなぶっ殺すぞ。
今の私は98%殺意でできていると言っていい。目の前の彼ーーーカインハルト殿下は今年で御歳21歳になられるというのになんて可哀想な頭をしてらっしゃるのか。王族の英才教育どこいった?もしかして施されてこれなの?いや、国王が放任主義なのがいけないのだろう。それにしたって………

(こんなド鬼畜男と結婚なんて絶対いや…………!!)

私は以前の記憶がある。
それは夢物語だと言われればそれまでなのだが、その記憶と状況を照らし合わせていくと、まるで何かの予言か?というくらい夢物語の内容が当てはまるのである。例えば治水工事のことであったり、第一王子殿下の急逝であったり。突然の豪雨に百年に一度の大嵐であったり。私は夢物語の内容と現在系列で起きることが一致していることから、夢物語ではないと判断した。

夢物語ーーー私の前世は酷いものだった。私は宝石姫の血を引いていると言われている。

泣けば涙が宝石に、血を吐けばそれはルビーに、肌から血がにじめばそれはたちまちダイアモンドへと変化する。
それにいち早く気がついたのは公爵たる父親だった。私はどうやら、一夜のあやまちで出来てしまった娘らしい。
母親はどこかの国の踊り子か何かで、公爵邸で開かれた夜会の前座として余興を披露したとか。その美しさに目をつけた父親がほぼ強姦のような形で孕ませ、産ませたのが私だった。

母親………と言っても見たことも無い人だから実感が湧かないが、彼女は故郷に恋人がいたそうだ。私を孕んだことで母親は情緒不安定で、ついには産まれたばかりの私を置いて自死してしまったとか。
それを父親は親の仇を見るような目で私に話す。お前さえ生まれなければ、あれは死ななかった、とは父親の言葉。
対して義母である公爵夫人はまるで汚物でも見るような目で「いやらしい、目があの女とそっくり」と私を罵倒した。

しかし私が宝石姫の血を引き、私の涙が、血が、宝石になると知ると彼らはよってたかって私を痛めつけた。 泣かない日はなかった。
泣いて、泣いて、目が腫れて、膿んで、生傷が絶えなくとも、それは終わりを迎えることがなかった。

そんなある日の事だった。
第一王子が急逝したのだ。死因は分からない。部屋の中で閉じ込められてばかりの私の耳に、そのような詳しい話は流れ込んでこなかった。
だけど、扉の外から聞こえる「王太子殿下が」「どうすれば」という焦燥の声だけは届いていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

くだらない毎日に終止符を

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢フランチェスカ・ヴィヴィアナは既に何回目かの婚約破棄騒動に挑んでいた。この流れは既に知っているものである。なぜなら、フランチェスカは何度も婚約破棄を繰り返しているからである。フランチェスカから婚約破棄しても、王太子であるユーリスから婚約破棄をされてもこのループは止まらない。 そんな中、フランチェスカが選んだのは『婚約を継続する』というものであった。 ループから抜け出したフランチェスは代わり映えのない婚姻生活を送る。そんな中、ある日フランチェスカは拾い物をする。それは、路地裏で倒れていた金髪の少年でーーー

婚約者の心の声が聞こえてくるんですけど!!

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢ミレイユは、婚約者である王太子に聞きただすつもりだった。「最近あなたと仲がよろしいと噂のミシェルとはどんなご関係なの?」と。ミレイユと婚約者ユリウスの仲はとてもいいとは言えない。ここ数年は定例の茶会以外ではまともに話したことすらなかった。ミレイユは悪女顔だった。黒の巻き髪に気の強そうな青い瞳。これは良くない傾向だとミレイユが危惧していた、その時。 不意にとんでもない声が頭の中に流れ込んできたのである!! *短めです。さくっと終わる

あなたの赤い糸は誰と繋がってるんですか!?

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢エレノアはある日突然、人の赤い糸を見ることができるようになった。では自分の婚約者はどうだろうと思って見てみると、最近どこぞの侯爵令嬢と仲良くしているらしい王太子の赤い糸はどこにも伸びていなかった。 「…………!?赤い糸が………ない!?」 まあ自分に伸びてるわけはないだろうと思ったが、しかし誰にも伸びてないとは!! エレノアの野望は深い森でひっそり暮らす自給自足生活である。貴族社会から逃げ出す手がかりになるかもしれないとエレノアは考え、王太子と侯爵令嬢の恋を(勝手に)応援することにした! *これは勘違い&暴走した公爵令嬢エレノアが王太子の赤い糸を探すだけのお話です。ラブコメディ

公爵令嬢は婚約破棄を希望する

ごろごろみかん。
恋愛
転生したのはスマホアプリの悪役令嬢! 絶対絶対断罪なんてされたくありません! なのでこの婚約、破棄させていただき…………………できない!なんで出来ないの!もしかして私を断罪したいのかしら!? 婚約破棄したい令嬢と破棄したくない王太子のじゃれつきストーリー。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜

おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。 それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。 精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。 だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

嫌われ聖女は決意する。見限り、見誤り、見定める

ごろごろみかん。
恋愛
母親に似ているから、という理由で婚約者にされたマエラローニャ。しかし似ているのは髪の色だけで、声の高さも瞳の色も母親とは全く違う。 その度に母と比較され、マエラローニャはだんだん精神を摩耗させていった。 しかしそんなある日、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられた。見ればその隣には、マエラローニャ以上に母に似た娘が立っていた。 それを見たマエラローニャは決意する。

【本編完結】婚約破棄されて嫁いだ先の旦那様は、結婚翌日に私が妻だと気づいたようです

八重
恋愛
社交界で『稀代の歌姫』の名で知られ、王太子の婚約者でもあったエリーヌ・ブランシェ。 皆の憧れの的だった彼女はある夜会の日、親友で同じ歌手だったロラに嫉妬され、彼女の陰謀で歌声を失った── ロラに婚約者も奪われ、歌声も失い、さらに冤罪をかけられて牢屋に入れられる。 そして王太子の命によりエリーヌは、『毒公爵』と悪名高いアンリ・エマニュエル公爵のもとへと嫁ぐことになる。 仕事を理由に初日の挨拶もすっぽかされるエリーヌ。 婚約者を失ったばかりだったため、そっと夫を支えていけばいい、愛されなくてもそれで構わない。 エリーヌはそう思っていたのに……。 翌日廊下で会った後にアンリの態度が急変!! 「この娘は誰だ?」 「アンリ様の奥様、エリーヌ様でございます」 「僕は、結婚したのか?」 側近の言葉も仕事に夢中で聞き流してしまっていたアンリは、自分が結婚したことに気づいていなかった。 自分にこんなにも魅力的で可愛い奥さんが出来たことを知り、アンリの溺愛と好き好き攻撃が止まらなくなり──?! ■恋愛に初々しい夫婦の溺愛甘々シンデレラストーリー。 親友に騙されて恋人を奪われたエリーヌが、政略結婚をきっかけにベタ甘に溺愛されて幸せになるお話。 ※他サイトでも投稿中で、『小説家になろう』先行公開です

処理中です...