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目的は目前
しおりを挟む待ち合わせ場所についたはいいものの人が多すぎてどこにルアヴィスがいるか分からない。
あの仮面は目立つだろうし、かと言って仮面をとってくるのも考えにくい。ルアヴィスはどんな格好でここに来るのかしら………。
石壁に背を寄せて人の行き交うところを見ていると、ふいに。本当に突然腕を引かれた。驚きすぎて思わずそちらを見ると、しかし相手の顔はわからなかった。恐らく男性だとは思うが彼はローブを羽織り、フードを深く被っていたからだ。明らかな不審者である。だけど私は直ぐに彼が誰か気がついた。
「ルア………っ!」
しかし声をかけようとすればすぐにローブの袖で口を塞がれる。何でもいいがこいつ私の口塞ぎすぎじゃないかしら。
「んんっ………!」
「名前を呼ぶな。バレたらどうする」
それは理解したから早く手を離して欲しい。私はルアヴィスの手を振り払うと、彼を睨みつけた。
「それは分かったから、無闇矢鱈に触れないでくれるかしら」
「それは悪かった」
あら、意外。あっさり謝るルアヴィスに私は僅かに拍子抜けした。だけどすぐに目的を思い出す。
「ルア……、…ルーでいいのよね?」
「ルー?」
「だって名前呼べないなら他の呼び方をするしかないじゃない。別に呼び方はなんでもいいのよ、あなたが誰か分かれば」
言えば、ルアヴィスは僅かに迷った素振りをするとほんの少しフードを持ち上げた。白いフードから見えたのは彼の夜色の髪と、少し戸惑いが現れる瞳だった。
私にしか見えないようにめくられたフードは、しかしすぐに下ろされてしまった。だけどそれで十分である。
私はにこりと笑うと、早速目的の場所に向かうことにした。
セイリーンの館。
それはもう夜が目前だからか、早々に開店準備を始めていた。これなら一番乗りで入れそうだ。私はルアヴィスほど深刻ではないが無闇矢鱈に顔を見せていいことなどない。私もまたルアヴィスのようにフードを被ると入口へと向かって歩き始めた。
薄々周りの建物外から予想がついていたのか、ルアヴィスが声をかけてきた。
「は?いや、入るとか言わないよな」
「そのまさかよ」
「嘘だろ?」
「嘘だと思う?」
私はちらりとルアヴィスを振り返って笑った。ルアヴィスの顔は見えないがその声から彼がとても困惑しているのが分かる。
「言ったでしょ、協力してって」
「いや…………いや、でもあんた夫人だよな」
思い出したように言うルアヴィスに、私は笑って答える。開店準備は終わり、店は綺麗にライトアップされていた。あたりは既に暗い。
「用がある子がいるのよ」
「………あんたが?この店に?ここ………娼館だよな?」
「あらご存知だったの」
「そりゃあ………」
煮え切らないルアヴィスの様子に私は下から覗き込むように彼の顔を見た。こういう時身長差は便利だ。俯いていたルアヴィスの顔は下から見ればはっきり見えた。
「…………あら」
「っ!」
ルアヴィスの顔は、夜闇においても分かるほどに赤かった。目元を赤く染めたルアヴィスは突然覗き込んできた私に驚いたのかローブの裾を払うようにして距離をとる。私は意外なルアヴィスの反応に、思わず聞いてしまった。
「あなた、童貞?随分可愛い反応するのね」
「うるさい!」
私の指摘はどうやら当たりだったらしく、ルアヴィスはどこか上擦った声になりながらも怒鳴り返してきた。娼館の玄関は目前である。
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