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茜色の空
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何に驚いたのか。理由は簡単。目の前に仮面をつけた男がいたからである。もう夕方とはいえまだ日が落ちきっていない、しかも城内で仮面。しかもそれは鼻から上をすっぽり覆うタイプで一言で言えば不審者である。
だけど私は直ぐに思い出した。
仮面をつける不審人物など思い当たるのは一人しかいない。
「あなた、ルアヴィス・レメントリー!」
「はぁ?」
相手は思い切り訝しげな声を出した。
そうよ、今日侍女に聞いたばかりじゃないの。
『それにーーールアヴィス様といえばお顔の怪我が原因で仮面をずっとつけてられるとか』
『大火傷されたんでしょう?人前ではとても見せられないものだとお伺いいたしましたわ』
『私は、生まれつきだとか聞きましたけど』
まさかピンポイントでルアヴィスに会えるとは思っていなかった。なんて偶然。神様なんていないにも等しいだろうが、心の中で私はお礼を言った。この偶然には感謝しなければならない。私は、ルアヴィスに会いに来たのだからこれで私の目的は果たされることになる。
私はルアヴィスを見た。夜色の髪に、身長は結構高い方ではないかしら。仮面のせいで顔は全然分からないけれど唇は結構薄い。輪郭もすっとしていて彼が痩せ型なのだと知る。
スタイルも良さそうだ。腰の高さを見ながら私は彼という人物を脳裏に留めていく。
髪は少し長めか。下ろすとおそらく肩口まであるだろう黒髪は無造作に後ろの方で結ばれている。
「あなたは?」
彼に聞かれ私ははっとして彼を見る。仮面があるせいで瞳の色すら分からない。
私は彼を見ながらふわりと笑った。まるで、何も知らないとばかりの貴族夫人のように。
「私はテレスティア・レベーゼ。あなたはルアヴィス・レメントリー様でございますわね?」
出会い頭の呼び捨てをなかったかのように私はおっとりとした声を心がけて話した。相手の男は僅かな沈黙の後聞いてきた。
「………レベーゼ?団長の妻が俺に何の用ですか?」
「いえ、用はないのですがーーー」
「なら、また今度にしていただきたい。生憎俺は急いでいる」
「あら、でも偶然あったのですし少しくらいお話でも。私、あなたの話は聞き及んでいましてよ、セレベーク様もあなたのことはよく話されてますもの」
嘘だけど。
セレベークがルアヴィスの話をしたことなんてなかったし、彼の名前すら出したことはなかった。ああでも、「忌々しい、何が魔術だ。あんなのただの化け物だろ!」怒鳴っていたことはあったからもしかしたらそれがルアヴィスのことだったのかもしれない。ーーーいや、聖術協会全体を指していたのかも?どちらでもいいわ。とにかく彼に接触して、感触を確かめなければ、
そう思った時。
不意に肩を掴まれた。
「きゃっ…………んんっ!?」
視界が反転し、映し出されるのは茜色の空。もう少しで陽は落ちるだろう。
ーーーどしんっ
背中に重たい衝撃とともに柔らかい感触。頭がくらくらする。目眩だ。私は身をよじろうとして、自分が芝生に倒れていることを知る。
「んっ………んんん!」
待って、もしかしてこれって、
ーーー押し倒されたのではない!?
だけど私は直ぐに思い出した。
仮面をつける不審人物など思い当たるのは一人しかいない。
「あなた、ルアヴィス・レメントリー!」
「はぁ?」
相手は思い切り訝しげな声を出した。
そうよ、今日侍女に聞いたばかりじゃないの。
『それにーーールアヴィス様といえばお顔の怪我が原因で仮面をずっとつけてられるとか』
『大火傷されたんでしょう?人前ではとても見せられないものだとお伺いいたしましたわ』
『私は、生まれつきだとか聞きましたけど』
まさかピンポイントでルアヴィスに会えるとは思っていなかった。なんて偶然。神様なんていないにも等しいだろうが、心の中で私はお礼を言った。この偶然には感謝しなければならない。私は、ルアヴィスに会いに来たのだからこれで私の目的は果たされることになる。
私はルアヴィスを見た。夜色の髪に、身長は結構高い方ではないかしら。仮面のせいで顔は全然分からないけれど唇は結構薄い。輪郭もすっとしていて彼が痩せ型なのだと知る。
スタイルも良さそうだ。腰の高さを見ながら私は彼という人物を脳裏に留めていく。
髪は少し長めか。下ろすとおそらく肩口まであるだろう黒髪は無造作に後ろの方で結ばれている。
「あなたは?」
彼に聞かれ私ははっとして彼を見る。仮面があるせいで瞳の色すら分からない。
私は彼を見ながらふわりと笑った。まるで、何も知らないとばかりの貴族夫人のように。
「私はテレスティア・レベーゼ。あなたはルアヴィス・レメントリー様でございますわね?」
出会い頭の呼び捨てをなかったかのように私はおっとりとした声を心がけて話した。相手の男は僅かな沈黙の後聞いてきた。
「………レベーゼ?団長の妻が俺に何の用ですか?」
「いえ、用はないのですがーーー」
「なら、また今度にしていただきたい。生憎俺は急いでいる」
「あら、でも偶然あったのですし少しくらいお話でも。私、あなたの話は聞き及んでいましてよ、セレベーク様もあなたのことはよく話されてますもの」
嘘だけど。
セレベークがルアヴィスの話をしたことなんてなかったし、彼の名前すら出したことはなかった。ああでも、「忌々しい、何が魔術だ。あんなのただの化け物だろ!」怒鳴っていたことはあったからもしかしたらそれがルアヴィスのことだったのかもしれない。ーーーいや、聖術協会全体を指していたのかも?どちらでもいいわ。とにかく彼に接触して、感触を確かめなければ、
そう思った時。
不意に肩を掴まれた。
「きゃっ…………んんっ!?」
視界が反転し、映し出されるのは茜色の空。もう少しで陽は落ちるだろう。
ーーーどしんっ
背中に重たい衝撃とともに柔らかい感触。頭がくらくらする。目眩だ。私は身をよじろうとして、自分が芝生に倒れていることを知る。
「んっ………んんん!」
待って、もしかしてこれって、
ーーー押し倒されたのではない!?
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