業腹

ごろごろみかん。

文字の大きさ
上 下
8 / 17

王城の庭にて

しおりを挟む

シェリアにお願いしたのは娼館の調査だった。別にそんながっつり調べる訳では無い。ただ、シェリアの知り合いにそういったことに詳しい、もしくは関係している人を知らないかと聞いただけ。
聞くとシェリアは知り合いに娼婦はいないが役者ならいる、と答えた。そして、彼女なら顔も広いし何か知ってるかもしれない、と。
私は、シェリアに『お金に困っている娼婦』がいないか探してもらうよう頼んだ。
あまり綺麗な手口とは言えないだろう。結局のところ、人間が信じられるのは目に見えるもの。例えば、お金を使った恩義、とか。

私は、お金に困る娼婦の女性に援助する。
出来ればお金を払うことで解決する事柄が大きければ大きいほどいい。
そうすればそれだけその女性は私に恩を感じるだろうし、裏切ることもないだろう。とはいえ、金片手に言うことを聞けと言う気もない。むしろそんなので人は従わない。人を従わせるのに必要なのは感情の操作。私が信じるのはお金の力。
使えるものはなんでも使う。だって、そうしないと死んでしまうのは私だ。時間が無い。使える手はなんだって使う。それが例え、綺麗とは言い難いことでも。

「セイリーンの館のミィナね………彼女が例の女性なのね?」

誰が聞いてるかも分からない。私はあえて濁しながらシェリアに聞いた。シェリアは私のそばで神妙な顔をしながら答えた。

「はい。何でもご両親の借金の肩代わりにそういう生業をしているらしく………だけどそれではとても賄えないから、妹も、という話が出ているらしくて」

「なるほどね。それはちょうどいいわ」

都合のいい、と言ってもいい。
ミィナにとっては絶望的な話かもしれないがタイミングが良かった。
必要な金額をシェリアに聞くと、私は今後の予定を脳裏に描き始める。

「夜、そちらに向かうわ。私は登城するから」

「登城………でございますか?」

「ええ。私は良き妻でいるために、確かめなければならないことがあるの。旦那様のことも知りたいしね」

「………承知いたしました。では、お出かけのご準備を整えさせていただきます」

「ありがとう、シェリア。あなただけが私を理解してくれるわ」

言うと、シェリアは苦笑した。少し切ない笑みだった。
既に陽は傾き始めている。今からむかえば夕方までには城に入れるかどうか、というところだろう。圧倒的に時間が無い。
私は、シェリアに支度をしてもらうと早速城へと向かった。



***


向かうは魔術塔。
狙いはウィリアムの血の繋がらない弟だというルアヴィスだ。彼は使いようによっては手強い手札になるかもしれない。
貴族図鑑を見る限りでは彼は一級魔術師の資格を持っていた。つまり彼は魔術塔に所属する人間である。魔術塔を管理する聖術協会は王政とはまた別のところにある。
つまり王族の力が唯一及びにくい、不可侵の場所ということ。それもあって王太子は王族は魔術塔に属する人間を快く思っていないのだろう。

ウィリアムがダメとなれば違う方向から攻めるのみ。

ちなみに、シェリアには王城のすぐ側の庭で待っていてもらっている。そこから先が魔術塔への道になる。誰か人が来ればすぐ教えてもらうよう伝えてあるのだ。

私は、白と薄紫のグラデーションが美しいドレスに身を包むと、優雅な足取りでそちらへと歩いた。そも、散歩していたら迷い込んでしまったとでも言うように。
しかし王城の地図は先程の侍女たちとのお茶会中しっかりと頭に叩き込んでいる。死角になりがちな場所は全て把握しているのだ。その甲斐あってか、私は誰にも声をかけられずに魔術塔の近くまで行くことが出来た。
しかしーーー

ーーードンッ!

「きゃあっ!」

曲がり角を曲がると、突然何かと酷い衝突を起こした。思わずたたらを踏むと、しかしその前に息を飲んだ。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

くだらない毎日に終止符を

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢フランチェスカ・ヴィヴィアナは既に何回目かの婚約破棄騒動に挑んでいた。この流れは既に知っているものである。なぜなら、フランチェスカは何度も婚約破棄を繰り返しているからである。フランチェスカから婚約破棄しても、王太子であるユーリスから婚約破棄をされてもこのループは止まらない。 そんな中、フランチェスカが選んだのは『婚約を継続する』というものであった。 ループから抜け出したフランチェスは代わり映えのない婚姻生活を送る。そんな中、ある日フランチェスカは拾い物をする。それは、路地裏で倒れていた金髪の少年でーーー

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

あなたの赤い糸は誰と繋がってるんですか!?

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢エレノアはある日突然、人の赤い糸を見ることができるようになった。では自分の婚約者はどうだろうと思って見てみると、最近どこぞの侯爵令嬢と仲良くしているらしい王太子の赤い糸はどこにも伸びていなかった。 「…………!?赤い糸が………ない!?」 まあ自分に伸びてるわけはないだろうと思ったが、しかし誰にも伸びてないとは!! エレノアの野望は深い森でひっそり暮らす自給自足生活である。貴族社会から逃げ出す手がかりになるかもしれないとエレノアは考え、王太子と侯爵令嬢の恋を(勝手に)応援することにした! *これは勘違い&暴走した公爵令嬢エレノアが王太子の赤い糸を探すだけのお話です。ラブコメディ

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

【第二部連載中】あなたの愛なんて信じない

風見ゆうみ
恋愛
 シトロフ伯爵家の次女として生まれた私は、三つ年上の姉とはとても仲が良かった。 「ごめんなさい。彼のこと、昔から好きだったの」  大きくなったお腹を撫でながら、私の夫との子供を身ごもったと聞かされるまでは――  魔物との戦いで負傷した夫が、お姉様と戦地を去った時、別チームの後方支援のリーダーだった私は戦地に残った。  命懸けで戦っている間、夫は姉に誘惑され不倫していた。  しかも子供までできていた。 「別れてほしいの」 「アイミー、聞いてくれ。俺はエイミーに嘘をつかれていたんだ。大好きな弟にも軽蔑されて、愛する妻にまで捨てられるなんて可哀想なのは俺だろう? 考え直してくれ」 「絶対に嫌よ。考え直すことなんてできるわけない。お願いです。別れてください。そして、お姉様と生まれてくる子供を大事にしてあげてよ!」 「嫌だ。俺は君を愛してるんだ! エイミーのお腹にいる子は俺の子じゃない! たとえ、俺の子であっても認めない!」  別れを切り出した私に、夫はふざけたことを言い放った。    どんなに愛していると言われても、私はあなたの愛なんて信じない。 ※他サイト様でも公開しています。 ※第二部を開始しています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

離れた途端に「戻ってこい」と言われても困ります

ネコ
恋愛
田舎貴族の令嬢エミリーは名門伯爵家に嫁ぎ、必死に家を切り盛りしてきた。だが夫は領外の華やかな令嬢に夢中で「お前は暗くて重荷だ」と追い出し同然に離縁。辛さに耐えかね故郷へ帰ると、なぜかしばらくしてから「助けてくれ」「戻ってくれ」と必死の嘆願が届く。すみませんが、そちらの都合に付き合うつもりはもうありません。

処理中です...