業腹

ごろごろみかん。

文字の大きさ
上 下
7 / 17

狂信的な侍女

しおりを挟む

「そうなの、王太子殿下って本当に素晴らしい方なのね」

「はい!それはもう、一目見れば奥様もお分かりになると思いますわ。あの夜の帷色の髪、蜂蜜のような瞳。それに何より、瞳の中には王家の紋章がございますの!」

すっかり私に気を許した侍女ーーーフォンテーヌは饒舌に語り出した。その6割が王太子への美辞麗句で聞いていて辟易したが、しかしそれ以上に有益な情報を得ることが出来た。例えば侍女との人脈、とか。
私のすすめで同じテーブルについたフォンテーヌと茶髪の気が弱そうな侍女、ライラは先程から驚くほど同じことしか言わない。それに相槌を打つように「素晴らしいですわ」「さすが王太子殿下」「神から遣わされた天使かしら」「王太子殿下がいらっしゃれば国も安泰ね」「流石だわ」「私、感動してしまったわ」などなど………。
途中からはもう面倒で何度となく同じ文句を使っていたが気にされていないところ見ると意外にも上手くいったようだ。
フォンテーヌはこの国ーーーゼロスティーヴァ王国の歴史書のページを手繰りながらどこかぽーっとした様子で話し始めた。

「目の中に王家の紋章がありますの………」

「王家の紋章?」

それは国花ということだろうか。王太子の目には国花が刻まれている?なんだか上手く想像できなくて聞くと、フォンテーヌは首を振った。

「いいえ、この国では代々王家に連なる方にのみ現れる印があるのです。瞳の中に四角が現れますの」

そう言って手で四角を作りながらこちらを見るのはライラだ。私は、へぇ、と思いながら話を聞く。

「王太子殿下もしっかりとその紋様がございまして………それの麗しさと言ったら」

「見たことあるの?」

「いいえ。私のようなものが直接お顔を合わせる機会なんてありませんわ。ですが、噂で。王太子殿下の王家の紋章はとても綺麗だそうで。ああ、一度でいいから見てみたいですわ」

ウットリというフォンテーヌ。
私は、その情報だけを脳裏に刻み込むと、本題へと入ることにした。十分侍女とは打ち解けたような気がする。それにタイミングも完璧だ。私は予め開いてあった貴族図鑑をまさに今気づきましたと言わんばかりの声で彼女たちに尋ねた。

「あら………これ、ウィリアム様ってあの方よね?王太子殿下の側近の………」

開かれているページはウィリアムの生家。レメントリー家の家系図である。私はそれを見ながら不思議そうな声を出した。

「ウィリアム様には弟がいらっしゃるのね?…………だけど、血の繋がりはないの?」

私が不思議そうに言うと、フォンテーヌとライラは二人して渋い顔をした。そしてどこか周りを確認するようにすると小声で話し始める。

「ルアヴィス様ですね。あの方は庶子ですよ、庶子。だからウィリアム様の覚えも悪くって」

「殿下ともあまり仲良くないわよね?」

フォンテーヌの声にライラが訝しむ声を出した。それにフォンテーヌは大きく頷いて答える。

「むしろ、殿下からもやっかまれていると言う話よ」

「嫌な話ね。何をなさったのかしら」

「それにーーー」

二人は完全にそのルアヴィスという男に非があると言わんばかりに話し出した。

確かにこの家には王政派の人間しかいないとは思っていたが、ここまで狂信しているとなると少し背筋が寒くなってくる。あの頭のおかしい夫に影響されたのか、元々そういった人間しか取らなかったのか。どちらにせよ私の本心は隠しておいた方が絶対にいいだろう。
侍女たちは少しすると仕事が残っているからと席を立った。
未だに並べられている本を一瞥すると後で部屋に持っていくよう伝えられた。少し驚く。今まではそんな気遣い、というか私が命じた以上のことはしなかったのに。
驚く私に、フォンテーヌは少し照れたように話した。

「申し訳ありません。私、奥様のこと勘違いしてました」

「ですが奥様のことを知り考えを改めました。私たち、これから誠心誠意お仕えいたしますわ。また今度殿下のお話をいたしましょう。きっと旦那様も喜びます」

そう言ってフォンテーヌとライラが立ち去るのを確認すると、私は思わず詰めていた息を吐き出した。思った以上に疲れたようだった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

くだらない毎日に終止符を

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢フランチェスカ・ヴィヴィアナは既に何回目かの婚約破棄騒動に挑んでいた。この流れは既に知っているものである。なぜなら、フランチェスカは何度も婚約破棄を繰り返しているからである。フランチェスカから婚約破棄しても、王太子であるユーリスから婚約破棄をされてもこのループは止まらない。 そんな中、フランチェスカが選んだのは『婚約を継続する』というものであった。 ループから抜け出したフランチェスは代わり映えのない婚姻生活を送る。そんな中、ある日フランチェスカは拾い物をする。それは、路地裏で倒れていた金髪の少年でーーー

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

宝石姫は二度死ぬ

ごろごろみかん。
恋愛
涙が、血が、宝石となる世にも珍しい宝石姫ーーーだけど彼女は生まれが所以で長らく虐げられていた。一度は死んだ身、どうやら過去に戻ったようなので好き勝手させてもらいます!

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

王子様の呪い

ごろごろみかん。
恋愛
「お前との婚約を破棄する!!リーゼロッテ!!」 突如告げられたのは婚約破棄を告げる言葉だった。しかしリーゼロッテは動じず、むしろこの状況を喜ばしく思っていた。なぜなら彼女には、やりたいことがあったから。 *ざまぁから始まるあっさり恋愛小説です。短くおわる

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

処理中です...