2 / 12
ごめんあそばせ 2
しおりを挟む「みすぼらしくてお姉様にピッタリ!私だったら絶対に着られないわ、そんな古びたドレス!」
娘の弾けるような笑い声が聞こえてきて、ミレイユは呆然とする。
はっとしてそちらを見れば、彼女の義理の妹、ロザリアがおかしそうに姉を嘲笑していた。
「……どうして」
震える声でミレイユは言った。
妹は怪訝な顔をして眉を寄せる。
「何かしら?」
ミレイユは何も言葉が出ない。
あのとき、ギロチンの刃は落ちたはずだ。
ミレイユは、死んだはずだ。ギロチンの刃が落ちてきたことまでは覚えている。そして、身を焼き尽くすほどの憎悪が体を襲ったことも
それなのに、なぜ?
──しゃら
「!」
その時、胸元のネックレスが華奢な音を立てて揺れる。
ミレイユの実母の唯一の遺品である首飾りだった。
処刑の日、唯一身につけることを許された首飾りだ。普通ならありえないことだが、ミレイユが嘆願すると、それを哀れと取ったのか、それとも最期の施しくらい与えてやってもいいと見下されたのか。首飾りの着用は許された。
首飾りは、ペンダント時計のものだった。随分前に針は止まっているが、彼女に唯一残された遺品なので、彼女はそれを大切にしていた。
「なあに……?ついに気が狂ったの」
義妹の侮蔑すら耳に入らない。
ミレイユは蒼白な顔で、呼吸を浅くして、縋るように胸元を握りしめた。生きてる。生きて、いる──?
「聞いてるのったら、お姉様!!」
焦れたロザリアがミレイユに手を出す前に、彼女は弾かれたようにその場から退いた。その怯えたような動きに、ロザリアの方が困惑する。
「なによ……気持ち悪い……」
ロザリアが異様なものを見る目でミレイユを見るが、彼女はそれどころではなかった。なぜなら。
(針の音)
確かに、聞こえたのだ。聞こえてくるのだ。
止まったはずの時計が、音を、時を刻む音を──。
7
お気に入りに追加
791
あなたにおすすめの小説
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
もう二度とあなたの妃にはならない
葉菜子
恋愛
8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。
しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。
男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。
ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。
ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。
なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。
あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?
公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。
ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました
ボタニカルseven
恋愛
HOT1位ありがとうございます!!!!!!
「どうしたら愛してくれましたか」
リュシエンヌ・フロラインが最後に聞いた問いかけ。それの答えは「一生愛すつもりなどなかった。お前がお前である限り」だった。両親に愛されようと必死に頑張ってきたリュシエンヌは愛された妹を嫉妬し、憎み、恨んだ。その果てには妹を殺しかけ、自分が死刑にされた。
そんな令嬢が時を戻り、両親からの愛をもう求めないと誓う物語。
記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
神の審判でやり直しさせられています
gacchi
恋愛
エスコートもなく、そばにいてくれないばかりか他の女性と一緒にいる婚約者。一人で帰ろうとしたところで、乱暴目的の令息たちに追い詰められ、エミリアは神の審判から奈落の底に落ちていった。気が付いたら、12歳の婚約の挨拶の日に戻されていた。婚約者を一切かえりみなかった氷の騎士のレイニードの様子が何かおかしい?私のやり直し人生はどうなっちゃうの?番外編は不定期更新
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる