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58.女の……子? 【回想】
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知らない土地に、見慣れない景色。
土地勘なんてないから、少し歩けばすぐに迷ってしまうのに、当時の私はそこまで考えていなかった。
別邸を出ればすぐに草原が目に入って、私は歓声を上げた。
これならすぐに見つかるかも!とウキウキして草原に向かうと、レモングラスを探し始めたのだ。
たくさん草が生えていて、見つけにくいけれどレモングラスは匂いが独特だ。
香りを頼りに探しているときだった。
少し向こう──草むらの中に、桃色の塊が見える。
それが何かわからなくて、私はすぐに興味を抱いた。
気になって、恐る恐るそちらに向かった。
足音を忍ばせて近づいて──驚く。
それは、なんと、ひとだったのだ。
私よりも年下だろうか?
その子は、目を閉じて眠っているようだった。
すやすやと、ずいぶんぐっすり眠り込んでいる。
ゆっくり近づいて、じっと見てみる。
長いまつ毛に、目元にかかる程度には長い、前髪。
ツツジ色の髪は柔らかそうで、風に吹かれる度にそよそよと揺れている。
目元にはひとつホクロがあって、それがほんの少し、その子を大人びて見せていた。
(ここら辺の子かしら……?)
私はそっと、慎重に彼女に近づいた。
いきなり驚かせたら申し訳ないと思って。
彼女のそばに近づいて──ちいさく、声をかける。
「ねえ、あなた」
「…………」
返事はない。
私は少し強めに声を出した。
「ねぇ、起きて?お話をさせて欲しいの」
少し大きめに言うと、ようやく彼女の瞳が開かれる。
眠たげだった瞳が、やがてぱっちりと開かれる。
私は彼女の瞳を見て、驚いた。
まるで──夕暮れの空に、星が瞬いているような、そんな瞳だったからだ。
私はすぐ、彼女の瞳に夢中になった。
「は?あんた、誰──」
「あなた、とっても瞳が綺麗ね!!」
両手をついて前のめりになった私に、彼女はびっくりしたようだった。
気圧されたように体を退き──それから、困惑した様子で周囲を見る。
周りに変化がないのを見ると、彼女は大仰にため息を吐いた。
「なに、あんた、誰」
ぶっきらぼうに告げる彼女に、私は笑った。
リラントで、初めて知り合った、同世代の子供だからだ。
私は笑って──名前を名乗ろうと、して。
ほんの少し、躊躇った。
シドローネ・シャロンと名乗れば、大抵のひとはシャロン家の一人娘だと気がつくだろう。
彼女も、もしかしたらシャロン家の話は知っているかもしれない。
公爵家の一人娘だと伝えたら、彼女は私と話してくれないかもしれない……。
そう思った私は、とっさに真名を名乗った。
真名であれば、私がシャロン公爵家の娘だと気付かれないからだ。
「わたし……私は、アリアドネ!あなたは?」
私が名乗ると、ようやく彼女が口を開いた。
あまり、気乗りしなそうに。
「……俺は、ヴェリュアン」
「……え?」
そこで、私はようやく気が付いた。
彼女──いや、私が彼女だと思っていただけで、この子は。
今、目の前にいる子供は──。
「あ、あなた……男の子なの?」
目を瞬いてみせる私に、彼女……いや、彼はあからさまに眦を釣り上げた。
キッと私を睨みつけ、まだ声変わりのしていない──女の子にしては少し低い声だとは思ったけど──彼は言った。
「俺は、男だ!どこが女に見えるんだよ!!」
とても大きな声で、私はそれにびっくりした。
何度も瞬きを繰り返しながら、彼を見る。
しげしげとよく見ても、どう見ても、女の子にしか見えない。
私は口元に手を当てながら、じっくりと言った。
「そうだったの……。ごめんなさい。すごく可愛いから、つい」
「…………」
褒め言葉のつもりだったけど、逆効果だったらしい。
彼は、むっすりとした様子で、黙り込んでしまった。
土地勘なんてないから、少し歩けばすぐに迷ってしまうのに、当時の私はそこまで考えていなかった。
別邸を出ればすぐに草原が目に入って、私は歓声を上げた。
これならすぐに見つかるかも!とウキウキして草原に向かうと、レモングラスを探し始めたのだ。
たくさん草が生えていて、見つけにくいけれどレモングラスは匂いが独特だ。
香りを頼りに探しているときだった。
少し向こう──草むらの中に、桃色の塊が見える。
それが何かわからなくて、私はすぐに興味を抱いた。
気になって、恐る恐るそちらに向かった。
足音を忍ばせて近づいて──驚く。
それは、なんと、ひとだったのだ。
私よりも年下だろうか?
その子は、目を閉じて眠っているようだった。
すやすやと、ずいぶんぐっすり眠り込んでいる。
ゆっくり近づいて、じっと見てみる。
長いまつ毛に、目元にかかる程度には長い、前髪。
ツツジ色の髪は柔らかそうで、風に吹かれる度にそよそよと揺れている。
目元にはひとつホクロがあって、それがほんの少し、その子を大人びて見せていた。
(ここら辺の子かしら……?)
私はそっと、慎重に彼女に近づいた。
いきなり驚かせたら申し訳ないと思って。
彼女のそばに近づいて──ちいさく、声をかける。
「ねえ、あなた」
「…………」
返事はない。
私は少し強めに声を出した。
「ねぇ、起きて?お話をさせて欲しいの」
少し大きめに言うと、ようやく彼女の瞳が開かれる。
眠たげだった瞳が、やがてぱっちりと開かれる。
私は彼女の瞳を見て、驚いた。
まるで──夕暮れの空に、星が瞬いているような、そんな瞳だったからだ。
私はすぐ、彼女の瞳に夢中になった。
「は?あんた、誰──」
「あなた、とっても瞳が綺麗ね!!」
両手をついて前のめりになった私に、彼女はびっくりしたようだった。
気圧されたように体を退き──それから、困惑した様子で周囲を見る。
周りに変化がないのを見ると、彼女は大仰にため息を吐いた。
「なに、あんた、誰」
ぶっきらぼうに告げる彼女に、私は笑った。
リラントで、初めて知り合った、同世代の子供だからだ。
私は笑って──名前を名乗ろうと、して。
ほんの少し、躊躇った。
シドローネ・シャロンと名乗れば、大抵のひとはシャロン家の一人娘だと気がつくだろう。
彼女も、もしかしたらシャロン家の話は知っているかもしれない。
公爵家の一人娘だと伝えたら、彼女は私と話してくれないかもしれない……。
そう思った私は、とっさに真名を名乗った。
真名であれば、私がシャロン公爵家の娘だと気付かれないからだ。
「わたし……私は、アリアドネ!あなたは?」
私が名乗ると、ようやく彼女が口を開いた。
あまり、気乗りしなそうに。
「……俺は、ヴェリュアン」
「……え?」
そこで、私はようやく気が付いた。
彼女──いや、私が彼女だと思っていただけで、この子は。
今、目の前にいる子供は──。
「あ、あなた……男の子なの?」
目を瞬いてみせる私に、彼女……いや、彼はあからさまに眦を釣り上げた。
キッと私を睨みつけ、まだ声変わりのしていない──女の子にしては少し低い声だとは思ったけど──彼は言った。
「俺は、男だ!どこが女に見えるんだよ!!」
とても大きな声で、私はそれにびっくりした。
何度も瞬きを繰り返しながら、彼を見る。
しげしげとよく見ても、どう見ても、女の子にしか見えない。
私は口元に手を当てながら、じっくりと言った。
「そうだったの……。ごめんなさい。すごく可愛いから、つい」
「…………」
褒め言葉のつもりだったけど、逆効果だったらしい。
彼は、むっすりとした様子で、黙り込んでしまった。
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