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39.つまり「あなたロリコン?」
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「──は?」
私は間の抜けた声を出した。
だって、信じられない。
私が……私、を?
ヴェリュアンが探していたのは、私?
いえ、そんなはずは。
ぐるぐる考えるばかりの私に、彼が制するように言う。
「公爵夫人に聞いた。間違いはない」
「ちょっ……と。待って。待ってください。……私が、ヴェリュアン……。あなたと……会って、え、ええ?」
そんなはずはない。
そう思うのに、ひとつ思い当たることがあった。
それは、お母様の反応だ。
聞きそびれてしまったが、お母様はヴェリュアンを知っているようだった。
それは、つまり……?
「……あなたの、想い……人は、私だと?」
それを言葉にするのは少し、いやかなり、気恥ずかしかったがそう言うしかないだろう。
尋ねると、ヴェリュアンはやけに堂々と答えた。
「そうだよ。今も、昔も」
「……──。あ、えっと」
何を言えばいいか分からない。
視線があちこちに彷徨う。
いたずらに手を持ち上げて、指先を絡み合わせる。
それでも、動揺は収まらない。
明確な答えは得られない。
「昔の……六歳の頃、俺はきみに恋をした。初めての、恋だった。……十六の今、俺はまた、あなたに恋をした。二度目の恋だ。……人生で二回も、あなたに惹き付けられた。これは一生、俺を縛り付ける感情だ。──だから、あなたには責任を取ってほしい」
「せ、責任!?」
何の!?
「俺はあなたに、人生を狂わされまくっている。その対価を求めてもいいはずだ」
「ちょっと待って。ヴェリュアン、あなたおかしいわよ」
「おかしくても構わない。もともと俺はおかしいんだ。六歳の夏、きみに出会ってから……俺はおかしくなった。それまで、ただ普通の、どこにでもいる平凡な村人だったのに」
「…………」
「きみが、変えたんだ。きみが、俺を聖竜騎士にさせた。……約束だ。聖竜騎士になったのだから、俺と結婚してくれ。結婚、してほしい」
「──」
何を言えばいいのか分からない。
分からないことが多すぎる。
困惑して、混乱して、動揺する。
ただでさえ、ヴェリュアンの想い人が私だった、ということすらまだ受け入れられてないのに、過去の話を持ち出されても。
私は、ようやく口を開いた。
「結婚は……するでしょう」
「そうじゃない。俺は、アリアドネに言ってる」
「私、あなたのこと覚えていないわ」
「それでも構わない。……俺は、きみに知って欲しかった。俺の初恋は、アリアドネで、きみにまた、恋をした。同じひとに二回も恋をするなんておかしなことだ。それに……アリアドネに抱く気持ちと、あなたに想う気持ちはまた少し、違う」
「…………」
「知っていて欲しかった。あなたはあまりにも俺に無警戒すぎるから。全く俺を、意識しないから。だから──せめて、きみを、あなたを、想う男であることを知って欲しかった」
「…………どうして、そういうことを全く恥ずかしがらずに言えるの?」
もう、私はお手上げだった。
もともと恋愛経験などないのだ。
話に聞く程度で、まさか私が当事者になるなんて、夢にも思っていなかった。
面と向かって、てらいなく堂々と言う彼に、私はもう、どこかに隠れたくなるほどの気恥しさを感じた。
自覚するほどに、頬が熱を持っている。
この薄明かりでは、気付かれないだろう。
気付かれないで欲しい、と願った。
ヴェリュアンは、私を見て、首を傾げて微笑む。
それが何とも色っぽくて──夜の行為を連想させるような、思わせるような仕草で、どこを見ていいか分からない。
全くの恋愛初心者なのだ、私は。
少しは手加減というものをして欲しいと切に思う。
「十年、待ったからね。待つだけなのはもう飽きた。もともと、俺は気が長い方じゃないんだ」
……十年も待ち続けていたのなら、気は長い方だと思うが。
しかしそれを口にはできないほど、私は羞恥心やら気恥しさやらでいっぱいになってしまっていた。
今、まともに彼と話すは難しい。
くちびるを引き結ぶ私に、彼が笑う。
「ただ、知っていて欲しかった。それだけだ。……そろそろ、戻るよ。新婚休暇で、またリラントに来たい。そこで、思い出の地を巡ろう。俺は、やっぱり、きみに過去のことを思い出して欲しいから」
「それでも、思い出せなかったら……」
「諦めるよ。俺は、過去のきみだけを好きなんじゃない。今のあなたも好きだから。だから、きみが記憶を思い出さなかったとしても、きみが俺の好きなひとであることに変わらない」
「…………」
返す言葉を無くした私を見て、ヴェリュアンが席を立った。
ほんとうに、このまま帰るつもりらしい。
契約をなかったことにしたいと言っていたくせに。
あの発言はなかったかのように振る舞う彼に、少し、意地悪な気持ちになる。
私はとても、あの言葉に動揺したし、今も困惑しているというのに。
彼だけが、言いたいことを全て言えてすっきりした、とでもいうような爽やかな顔をしている。
それが腹が立つ。
だから私は、思い出したように言った。
「私と、夜の行為をしたいと言っていたけど──」
「っ……!?」
驚いたようにヴェリュアンが固まった。
彼が息を飲む音が聞こえ、ほんの少し胸がすく。
私ばかり動揺し、混乱するのでは割に合わない。
彼も同じくらい──とまでは言わないが、少しは困らせても、許されるというものだろう。
私は、八つ当たりじみた思いで彼に言葉を続けた。
「あなたが、そういうことをしたいのは過去の私?……それとも、今の私?」
「…………どうして、そういうことを、聞くの」
妙に言葉を切りながらヴェリュアンが言う。
困ったような、困惑したような。
眉を寄せ、怪訝な顔をした彼に私はさらに言葉を続けた。
「あら?だって、大事でしょう?十年前、私は十歳。あなたが──十歳の少女に欲望を抱いているのなら、また話は変わって来ると思ったの」
私は間の抜けた声を出した。
だって、信じられない。
私が……私、を?
ヴェリュアンが探していたのは、私?
いえ、そんなはずは。
ぐるぐる考えるばかりの私に、彼が制するように言う。
「公爵夫人に聞いた。間違いはない」
「ちょっ……と。待って。待ってください。……私が、ヴェリュアン……。あなたと……会って、え、ええ?」
そんなはずはない。
そう思うのに、ひとつ思い当たることがあった。
それは、お母様の反応だ。
聞きそびれてしまったが、お母様はヴェリュアンを知っているようだった。
それは、つまり……?
「……あなたの、想い……人は、私だと?」
それを言葉にするのは少し、いやかなり、気恥ずかしかったがそう言うしかないだろう。
尋ねると、ヴェリュアンはやけに堂々と答えた。
「そうだよ。今も、昔も」
「……──。あ、えっと」
何を言えばいいか分からない。
視線があちこちに彷徨う。
いたずらに手を持ち上げて、指先を絡み合わせる。
それでも、動揺は収まらない。
明確な答えは得られない。
「昔の……六歳の頃、俺はきみに恋をした。初めての、恋だった。……十六の今、俺はまた、あなたに恋をした。二度目の恋だ。……人生で二回も、あなたに惹き付けられた。これは一生、俺を縛り付ける感情だ。──だから、あなたには責任を取ってほしい」
「せ、責任!?」
何の!?
「俺はあなたに、人生を狂わされまくっている。その対価を求めてもいいはずだ」
「ちょっと待って。ヴェリュアン、あなたおかしいわよ」
「おかしくても構わない。もともと俺はおかしいんだ。六歳の夏、きみに出会ってから……俺はおかしくなった。それまで、ただ普通の、どこにでもいる平凡な村人だったのに」
「…………」
「きみが、変えたんだ。きみが、俺を聖竜騎士にさせた。……約束だ。聖竜騎士になったのだから、俺と結婚してくれ。結婚、してほしい」
「──」
何を言えばいいのか分からない。
分からないことが多すぎる。
困惑して、混乱して、動揺する。
ただでさえ、ヴェリュアンの想い人が私だった、ということすらまだ受け入れられてないのに、過去の話を持ち出されても。
私は、ようやく口を開いた。
「結婚は……するでしょう」
「そうじゃない。俺は、アリアドネに言ってる」
「私、あなたのこと覚えていないわ」
「それでも構わない。……俺は、きみに知って欲しかった。俺の初恋は、アリアドネで、きみにまた、恋をした。同じひとに二回も恋をするなんておかしなことだ。それに……アリアドネに抱く気持ちと、あなたに想う気持ちはまた少し、違う」
「…………」
「知っていて欲しかった。あなたはあまりにも俺に無警戒すぎるから。全く俺を、意識しないから。だから──せめて、きみを、あなたを、想う男であることを知って欲しかった」
「…………どうして、そういうことを全く恥ずかしがらずに言えるの?」
もう、私はお手上げだった。
もともと恋愛経験などないのだ。
話に聞く程度で、まさか私が当事者になるなんて、夢にも思っていなかった。
面と向かって、てらいなく堂々と言う彼に、私はもう、どこかに隠れたくなるほどの気恥しさを感じた。
自覚するほどに、頬が熱を持っている。
この薄明かりでは、気付かれないだろう。
気付かれないで欲しい、と願った。
ヴェリュアンは、私を見て、首を傾げて微笑む。
それが何とも色っぽくて──夜の行為を連想させるような、思わせるような仕草で、どこを見ていいか分からない。
全くの恋愛初心者なのだ、私は。
少しは手加減というものをして欲しいと切に思う。
「十年、待ったからね。待つだけなのはもう飽きた。もともと、俺は気が長い方じゃないんだ」
……十年も待ち続けていたのなら、気は長い方だと思うが。
しかしそれを口にはできないほど、私は羞恥心やら気恥しさやらでいっぱいになってしまっていた。
今、まともに彼と話すは難しい。
くちびるを引き結ぶ私に、彼が笑う。
「ただ、知っていて欲しかった。それだけだ。……そろそろ、戻るよ。新婚休暇で、またリラントに来たい。そこで、思い出の地を巡ろう。俺は、やっぱり、きみに過去のことを思い出して欲しいから」
「それでも、思い出せなかったら……」
「諦めるよ。俺は、過去のきみだけを好きなんじゃない。今のあなたも好きだから。だから、きみが記憶を思い出さなかったとしても、きみが俺の好きなひとであることに変わらない」
「…………」
返す言葉を無くした私を見て、ヴェリュアンが席を立った。
ほんとうに、このまま帰るつもりらしい。
契約をなかったことにしたいと言っていたくせに。
あの発言はなかったかのように振る舞う彼に、少し、意地悪な気持ちになる。
私はとても、あの言葉に動揺したし、今も困惑しているというのに。
彼だけが、言いたいことを全て言えてすっきりした、とでもいうような爽やかな顔をしている。
それが腹が立つ。
だから私は、思い出したように言った。
「私と、夜の行為をしたいと言っていたけど──」
「っ……!?」
驚いたようにヴェリュアンが固まった。
彼が息を飲む音が聞こえ、ほんの少し胸がすく。
私ばかり動揺し、混乱するのでは割に合わない。
彼も同じくらい──とまでは言わないが、少しは困らせても、許されるというものだろう。
私は、八つ当たりじみた思いで彼に言葉を続けた。
「あなたが、そういうことをしたいのは過去の私?……それとも、今の私?」
「…………どうして、そういうことを、聞くの」
妙に言葉を切りながらヴェリュアンが言う。
困ったような、困惑したような。
眉を寄せ、怪訝な顔をした彼に私はさらに言葉を続けた。
「あら?だって、大事でしょう?十年前、私は十歳。あなたが──十歳の少女に欲望を抱いているのなら、また話は変わって来ると思ったの」
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