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23.婚約者の様子が少しおかしいようです

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(すごい雨……)

土砂降りの雨と、轟音のような雷鳴の音に目が覚める。
視線を窓に向ける。時折空が光り、続いて雷鳴の音。

(この様子じゃ明日の出立は難しいかしら……)

山は天気が崩れやすいとはよく聞くが、本当だったとは。
私はため息を吐いて、起き上がった。
なんだか、妙に目が冴えてしまった。
この調子では、再び眠ることは難しいだろう。

(もうこの時間ならみんな眠っているだろうし……)

なにか飲み物が欲しかったが、この時間だ。
誰も起きているとは思えないし、直接厨房に向かうしかないだろう。

手探りでサイドテーブルの上の燭台を探し、火をつける。
雷のおかげで、真っ暗闇というわけではないのでそれには助かったが、それにしても突然落ちる雷は、心臓に悪い。
雷鳴の音が響く度にドキドキしながら、燭台を手に取った。

昨夜の夕食は、とても豪勢だった。
久しぶりに私が訪れたためか、盛大なもてなしを受けたのだ。
リベルア邸は、公爵邸と違って、騎士の数は少ないが、私はかえって気が楽だった。

公爵邸は、至るところに私兵が配備されている。
安全面から言えばこれ以上ないほどなのだが、その反面、プライベートな空間は自室のみ。
その自室も、眠る時までメイドが付きっきりなのだ。
ひとりになれる時はほとんどない。
そのため、公爵邸に比べると人気の少ないザックスの家は、普段より気が楽だった。

とはいえ、真夜中だとさすがに心細い。
私は恐る恐る、ベッドから足を下ろした。
靴を履いて、ガウンを手に取ると、上に羽織る。
部屋を出ても問題ない格好であることを確認してから、私はゆっくりと扉に向かった。

強い雨音が窓の外から聞こえ、室内にはこつこつと、靴の音が響く。
そのまま、扉の鍵を下ろそうとした時だった。

こんこんこん、と扉がノックされて、文字通り私は固まった。

(え、ええ……?こんな時間に、誰……?)

ちらりと、窓辺に置かれた水時計を確認する。
雨が降ったせいで、いまいち判断が付きにくいが、それでも結構な量が減っているように見えた。
ということは、もうとっくに夜半時であり、深夜真っ只中だ。
そんな時間に、一体誰が訪ねてくるというのだろうか。
戸惑った私が動く前に、扉の向こうから声が聞こえてきた。

「シドローネ?私です。ヴェリュアンです」

「ヴェリュアン?どうしたのですか?こんな時間に」

急いで扉の鍵を外すと、扉の向こうには、やはり彼がいた。
しかし、その手に燭台はない。
この暗闇の中、明かりもつけずにこの部屋までやってきたのか。
私は戸惑いながらも、彼に言った。

「何かあったのですか?」

彼は、肩にローブをかけただけの姿だった。
その下は、寝着だ。
騎士の彼がそんな格好で私の元まで来るということは、不測の事態が起きたということだろうか。
狼狽える私に、彼が苦笑する。

「起きていてよかった。もしかして、起こしてしまいましたか」

「いえ、そんなことは……。ちょうど、喉が渇いたところだったのです。部屋にある水差しは全て飲みきってしまって」

「そうだったんですね。では、私がお供します」

「あ、ありがとうございます。でも、ヴェリュアンはどうして……?」

彼が、私の手から燭台を受け取る。
三灯の枝付きジランドール燭台が、廊下に濃い影を落とす。
彼を見上げると、長いまつ毛が頬に影を落としていることに気が付いた。
彼はまつ毛を伏せていたが、やがて私を見た。
その瞳が、いつもと違うように見えてほんの少し、どきりとする。
その動揺の正体が掴めないまま、困惑していると彼がまた、苦笑した。

「……少し、報告があります。あと、今夜」

彼は、そこで言葉を区切った。
静かな廊下に、彼と私の声だけが響く。

「あなたと一緒に寝ても、良いでしょうか」
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