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二章
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しおりを挟むあの体がどうにかなりそうな痛みがなかったことにミレイユは戸惑っていた。ニルシェだった時の初めての夜は本当に酷かった。あんなに時間をかけてもなお、ニルシェの体は男を拒んでいたのだ。
疑うミレイユに、ルロークレが苦笑する。
「本当だよ。ここに、僕の全部が入ってる」
ルロークレはミレイユの腹をさする。
そこに、自分のが入っているのだと。それを知らせる仕草にミレイユは息をつめた。
それは体をつなげる以上にみだらなことに思えたのだ。
ミレイユが小さく甘い声をあげると、同時になかの雄を締め付ける。
ルロークレはやはり苦し気な顔をした。
「う、………痛くは、ないんだね」
再度確認してくるルロークレを見て、ミレイユは頷いた。
本当に、いたくない。
いれる時は多少痛みがあったものの、今は全くだ。
どうしてだろう?
考えたミレイユはハッとし、慌てた様子で彼の手を掴む。
そして、手を頬に押し当てながら目をつむって、願うように話しだした。
「は、初めてなの。本当よ」
ミレイユの言葉にルロークレは笑う。
「こんなところで疑わないよ。……個人差かもしれない。前のきみは、すごく辛そうだったから。痛くないのなら、それに越したことはない」
ルロークレはそう言って、ミレイユの額に口付けを落とした。
気がつけば、髪が乱れて額があらわになっている。
ミレイユは彼をじっと見た。
前世とは違う、碧色の瞳。
彼は、ミレイユを少し見たあとなにか考えるように目を閉じた。
そして、また目を開いてミレイユを見て、言う。
「動くよ。いいか?」
「ん………」
答えると、ヴィルヘルムは本当に慎重に、ゆっくりと動き始めた。
抜かれる時に持っていかれるような、どこか苦しいような、そんな感覚があったけど、だけどそれもすぐなくなった。
それ以上にじわじわと溢れ出す悦楽にのまれてしまう。
「あっ………ぁ、あっ………ん、ぅ、ァあっ……! ふ、っ……――ッ、ん、んッ………!」
「んっ………は、っ………」
両手とも、しっかりとルロークレと繋いで、彼の指に絡める。
五指を搦めたままシーツへと縫い付けられて、彼の存在をとても近くに感じた。
ルロークレがミレイユの首筋に顔を埋めて、そのままちゅ、ちゅと、口付けを落とした。
「ぁっ、ぁ、あ、やっ……だめ、イっちゃ………!」
「ああ、うん。僕も、もう、きつっ……は、」
腹の浅い所。
恐らく、さっきルロークレにさんざん教えられたところ。
彼女の弱いところだ。既に熟知した彼女の体のいいところをルロークレは自身でこすり上げた。
男の切っ先が彼女の善いいところを擦る度にミレイユは背を浮かせる。
逃げるように彼女のつま先がシーツを蹴った。
顔を上げると、ルロークレもまた、その頬が赤く染まっていた。
ぽたり、と額から一滴の汗が流れて、それがミレイユの胸元に落ちていく。
それが、なんだかあまりにも、みだらで。
ミレイユはその光景を見てまた痛いくらいに彼のものを締め付ける。媚肉にしごかれて、まだ性を知らない彼の体もまた、すぐに熱にのまれた。
「あっ………や、ァ………ッあああ…………!!」
「んっ……、う……ぁっ」
びくびくと体が跳ねて、今までいちばん派手に彼女は達した。
ルロークレもまた、彼女に甘く締め付けられて、その快楽にあらがうことなく小さな吐息を零し、熱をを放った。
ルロークレの手がぎゅ、とミレイユの手を強く握る。
その手は小さく震えていた。
彼には、魔女の仕掛けによって感情を入れ替えられていた時に記憶がある。アロアをニルシェだと思って抱いた記憶があるのだ。その事実はミレイユが想像している以上に彼を苛み、苦しめた。
生まれ変わっても彼はその記憶によって自慰ですらまともにできなかった。ミレイユを想って自身に触れても、空想bの彼女はいつの間にかアロアへと姿を変える。
そして、彼に迫るのだ──。
悪い夢のような想像は、しかしどれも現実のつぎはぎだった。
ルロークレは強くミレイユを抱き締めた。その吐息は震えている。
ミレイユもまた彼の抱擁を受けて、きつく目を閉じていた。
何度だって誓おう。彼女はもう、二度と彼を傷つけない。愚かな選択はしない、と──。ミレイユは分かっている。自身は今後も似たようなことがあればそのたびに誤った選択を選びかねないだろう。
だから、その時は。
ルロークレに必ず相談するのだ。
ミレイユがそう思っていると、ルロークレは彼女の額に口付けを落とした。
ふたりはゆっくりと体を離す。
その空間に、ひんやりとした空気が流れた。
「もう、結婚はしたけど、婚姻式はまだだし、きみはスクールに通ってる。避妊薬はそこの棚にあるから、必要なら飲んで」
「え? あ………うん」
「僕は、今すぐにでもきみとの子が欲しい。きみと僕が愛し合っているという事実を、その証拠として、子供が欲しいんだ。男でも女でも構わない。きっと可愛い。………今すぐにじゃなくていいんだ。いつか、僕の子を産んでくれるか?」
しっかりと絡んだ彼の手が、控えめにミレイユの手を握った。
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