17 / 40
一章
17
しおりを挟む
「な、なに………貴女、なに、を、」
アロアは、それだけ言って、どしゃりと床に崩れた。
血が夥しいほどにカーペットに付着して、血臭が立ち込める。
アロアはまだ意識があるようで、ニルシェの事をきつく睨みつけてきた。その鋭い眼光をみて、ニルシェは眉を下げる。
「申し訳ありません。アロア様。あなたには謝罪を」
「しゃ、ざい……? ハッ私を刺したこと? 例え、ッ謝られても許さないわよ……!」
ニルシェは首を振って答えた。
「いえ。貴女を殺すことについて、私は貴女の許しを求めません。これは、謝って済む問題ではない。償いようのない罪ですから」
その時、遠くから足音が聞こえてきた。
物々しい雰囲気と荒い足音は扉の前でぴたりと止まる。
室内にいた侍女はほとんどが金を積んで王宮入りを果たした貴族令嬢だ。リディエリアのような貧乏貴族でもないので、侍女の仕事は不慣れで、こうした荒事にももちろん慣れていない。
バン! と大きな音が立ち、扉が開かれる。
アロアの視線が辛うじてそちらを向く。ニルシェは、そちらを見なかった。ただ暗い瞳で血だまりのアロアを見つめた。
「アロア!! ッ……」
ヴィルヘルムがその惨状を見て息を飲む。
ニルシェがしたことは、罪深い。
だから、自分で始末をつけることにした。
実に単純明快だ。
魔女に会うことは叶わない。
時間も猶予がない。
それならば、もう。アロアを殺す以外、ニルシェは考えられなかった。
魔女の魔法がいつ解けるとも分からない。解けないかもしれない。その中で、はっきりとわかっていることがある。
それは、ヴィルヘルムはアロアをよく思っていない──いやそんないいものじゃない。
彼は、なんらかの理由があってアロアを憎み、嫌っていた。
今だからわかることだが──だからこそ、王城から追放するような真似をしたのだとニルシェは考える。アロアに恋情を抱かせてしまった。
彼の感情を、ニルシェへの気持ちを利用してしまった。
それは、許されないことだ。
アロアは被害者なのだろう。
ニルシェは何度となくアロアに酷い嫌がらせを受け、時には命の危険すらあったし、女性の矜持を汚されるような罠にかけられたこともある。
数を上げだせばきりがない。
しかし、そもそもの話、この状況を招いたのは、招いてしまったのは彼女だった。
「王太子妃殿下、第二妃殺害の罪で、あなたを捕縛します」
無機質な声が聞こえる。
騎士の誰かだろうか。ニルシェの視界の端にマゼンタの髪が揺れる。ニルシェの手をきつく荒縄で縛ったのは、ニルシェとヴィルヘルムの幼なじみであるエドレオンだった。
アロアは、それだけ言って、どしゃりと床に崩れた。
血が夥しいほどにカーペットに付着して、血臭が立ち込める。
アロアはまだ意識があるようで、ニルシェの事をきつく睨みつけてきた。その鋭い眼光をみて、ニルシェは眉を下げる。
「申し訳ありません。アロア様。あなたには謝罪を」
「しゃ、ざい……? ハッ私を刺したこと? 例え、ッ謝られても許さないわよ……!」
ニルシェは首を振って答えた。
「いえ。貴女を殺すことについて、私は貴女の許しを求めません。これは、謝って済む問題ではない。償いようのない罪ですから」
その時、遠くから足音が聞こえてきた。
物々しい雰囲気と荒い足音は扉の前でぴたりと止まる。
室内にいた侍女はほとんどが金を積んで王宮入りを果たした貴族令嬢だ。リディエリアのような貧乏貴族でもないので、侍女の仕事は不慣れで、こうした荒事にももちろん慣れていない。
バン! と大きな音が立ち、扉が開かれる。
アロアの視線が辛うじてそちらを向く。ニルシェは、そちらを見なかった。ただ暗い瞳で血だまりのアロアを見つめた。
「アロア!! ッ……」
ヴィルヘルムがその惨状を見て息を飲む。
ニルシェがしたことは、罪深い。
だから、自分で始末をつけることにした。
実に単純明快だ。
魔女に会うことは叶わない。
時間も猶予がない。
それならば、もう。アロアを殺す以外、ニルシェは考えられなかった。
魔女の魔法がいつ解けるとも分からない。解けないかもしれない。その中で、はっきりとわかっていることがある。
それは、ヴィルヘルムはアロアをよく思っていない──いやそんないいものじゃない。
彼は、なんらかの理由があってアロアを憎み、嫌っていた。
今だからわかることだが──だからこそ、王城から追放するような真似をしたのだとニルシェは考える。アロアに恋情を抱かせてしまった。
彼の感情を、ニルシェへの気持ちを利用してしまった。
それは、許されないことだ。
アロアは被害者なのだろう。
ニルシェは何度となくアロアに酷い嫌がらせを受け、時には命の危険すらあったし、女性の矜持を汚されるような罠にかけられたこともある。
数を上げだせばきりがない。
しかし、そもそもの話、この状況を招いたのは、招いてしまったのは彼女だった。
「王太子妃殿下、第二妃殺害の罪で、あなたを捕縛します」
無機質な声が聞こえる。
騎士の誰かだろうか。ニルシェの視界の端にマゼンタの髪が揺れる。ニルシェの手をきつく荒縄で縛ったのは、ニルシェとヴィルヘルムの幼なじみであるエドレオンだった。
312
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる