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一章

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「な、なに………貴女、なに、を、」
 アロアは、それだけ言って、どしゃりと床に崩れた。
血が夥しいほどにカーペットに付着して、血臭が立ち込める。
アロアはまだ意識があるようで、ニルシェの事をきつく睨みつけてきた。その鋭い眼光をみて、ニルシェは眉を下げる。
「申し訳ありません。アロア様。あなたには謝罪を」
「しゃ、ざい……? ハッ私を刺したこと? 例え、ッ謝られても許さないわよ……!」
 ニルシェは首を振って答えた。
「いえ。貴女を殺すことについて、私は貴女の許しを求めません。これは、謝って済む問題ではない。償いようのない罪ですから」
 その時、遠くから足音が聞こえてきた。
物々しい雰囲気と荒い足音は扉の前でぴたりと止まる。
室内にいた侍女はほとんどが金を積んで王宮入りを果たした貴族令嬢だ。リディエリアのような貧乏貴族でもないので、侍女の仕事は不慣れで、こうした荒事にももちろん慣れていない。
 バン! と大きな音が立ち、扉が開かれる。
アロアの視線が辛うじてそちらを向く。ニルシェは、そちらを見なかった。ただ暗い瞳で血だまりのアロアを見つめた。
「アロア!! ッ……」
 ヴィルヘルムがその惨状を見て息を飲む。
 ニルシェがしたことは、罪深い。
だから、自分で始末をつけることにした。
実に単純明快だ。
魔女に会うことは叶わない。
時間も猶予がない。
それならば、もう。アロアを殺す以外、ニルシェは考えられなかった。
 魔女の魔法がいつ解けるとも分からない。解けないかもしれない。その中で、はっきりとわかっていることがある。
それは、ヴィルヘルムはアロアをよく思っていない──いやそんないいものじゃない。
彼は、なんらかの理由があってアロアを憎み、嫌っていた。
 今だからわかることだが──だからこそ、王城から追放するような真似をしたのだとニルシェは考える。アロアに恋情を抱かせてしまった。
彼の感情を、ニルシェへの気持ちを利用してしまった。
それは、許されないことだ。
 アロアは被害者なのだろう。
 ニルシェは何度となくアロアに酷い嫌がらせを受け、時には命の危険すらあったし、女性の矜持を汚されるような罠にかけられたこともある。
数を上げだせばきりがない。
しかし、そもそもの話、この状況を招いたのは、招いてしまったのは彼女だった。
「王太子妃殿下、第二妃殺害の罪で、あなたを捕縛します」
 無機質な声が聞こえる。
 騎士の誰かだろうか。ニルシェの視界の端にマゼンタの髪が揺れる。ニルシェの手をきつく荒縄で縛ったのは、ニルシェとヴィルヘルムの幼なじみであるエドレオンだった。
 
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