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愛は罪を犯す免罪符 ※R18
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「故意に」
真似するようにぽつりと彼が言う。
視線を背けていたため、彼がどんな顔をしていたのか、私は知らない。
「あなたを傷つけたい訳では無い」
「…………」
「どうしようもなく──」
彼の手が、私の頬に触れる。
冷たい指先だった。
彼と視線が交わりそうになって、私は目を閉じた。暗闇の世界の中、くちびるに柔らかいものが触れた。
これが口付け、というものなのだろう。
「……愛しています」
「……は?」
「あなたを」
思いが無い言葉に驚いて、思わず目を開ける。
そこには、眉を寄せ、なにかに堪えるような表情をうかべる彼がいた。
「なに、」
「愛しているから、こうしてあなたに触れる」
「…………」
意味がわからない、と思った。
彼が、ファルアランが私に触れる理由も。
こうして突然、愛を告げることも。
彼が、私を愛している、ですって?
(……信じられない)
全くもって。
愛していると言うなら。
「…………それで?」
私はまつ毛を持ち上げて彼を見た。
ぱちり、視線が交わる。
「だから、あなたは私を犯すというのね。私の意思など関係なく」
「……はい」
頷いた。
ますます、意味がわからない。
もはや意思疎通は困難だと思い、私は顔を背けた。
恐る恐る、といった様子で彼が私の首筋に顔を埋めた。
「……お嬢様」
「…………」
彼が何をしたいのか、何を求めているのか。
どうして今、このような行為に及んだのかも。
全く分からない。
分からなくて──混乱しているのに、同じくらい恐れも抱いているし、裏切られたことで怒りも覚えている。
「不慣れではいりますが……お嬢様に苦痛を感じ」 させないよう、努めさせていただきます」
「…………」
およそ、今から、無理やり私を抱くといった男の言葉ではない。私はそれを黙殺した。
不慣れだと言っておきながら、彼はコルセットの紐を簡単に外した。戸惑うことなく。
そこから経験値の高さを察して、ますます苦い気持ちになる。
(何が『不慣れながら』なのよ)
彼の指先は迷うことなく動き、コルセットを引き下ろした。
彼の指先が膨らみに沈む。
それを直視していられなくて、やはり私は視線を背けた。
「お嬢様は、どこもかしこも白くていらっしゃる。滅多に外に出られませんでしたから、当然ですね」
ファルアランが苦笑する。
一般的な女と比べているのか、彼の想像と比べているのかは分からない。
だが、無性に腹が立つ。
「……お慕いしています。ずっと。心より」
「……そう言えば、私が絆されるとでも思っているの?口先だけの愛の言葉なんていらないわ。愛の言葉は、強姦の免罪符でも何でもないのよ」
「……そうですね」
彼が苦笑する。
何も反論することなく。
「ですが、それでも私はあなたが欲しい」
「……どうしてそこまで」
「言ったでしょう。私は、あなたに聖女であることをやめていただきたい。……この世界で、あなただけが私の道標で、生きる理由で、存在理由だった。あなたがこの世から失われるというのなら──私もまた、生きている理由がない」
「…………」
眉を寄せる。
彼は、ファルアランは、いつからこんな偏執的な考えをしていたのだろう。
少なくとも、私が知る彼ではないように思った。
ぐっと片足を持ち上げられる。ふわりと黒のドレスが揺れる。
「失礼します」
丁寧にそう言うと、彼はドロワーズもまた、引き下ろす。さすがに下肢を晒すのは羞恥心が伴って、顔がサッと熱を持った。
「ふざけないで!どうしてこんな辱めを受けなければならないの……!!」
半ば悲鳴のような声を出して彼の胸を強く押す。
押しのけようとすると、反対に手を握られた。
「お嬢様の痛みを緩和するために必要なことですので、ご辛抱を」
「ふざけないで……!!」
足をばたつかせれば、その上に彼が乗り、思うように体を動かせなくなる。
羞恥心のあまり、涙で視界が滲む。
ぼやける視界の中、ファルアランを睨みつけると彼はため息を吐いた。
ずいぶん、熱の篭もった声色で、そのあまりの色気の壮絶さに、ぞっと鳥肌が立つ。
「──」
私は、あまりに無知だった。
十八年間生きてきたが、性に関することも全く知らない。
それでも、本能的に彼の──その息遣いだとか、瞳の色とかが、みだらなものだと、直観的に感じた。
彼のくちびるが、太ももを這う。
「っや……!」
思わず、彼の頭を抑えた。
だけど、またしてもその手を取られ、五指を絡められる。
まるで、宥めるように。慰めるように。
「やめっ……いやぁ!!」
身をよじろうとすれば、腰を押えられ身動きが取れない。
彼のくちびるが肌を伝い、ゆっくりと顔を上げた。
そして、自身でさえ入浴時にしか触れないその場所に。
女性の秘めたる部分に濡れた感覚が走る。
「や、──!!」
「大丈夫です。お嬢様、暴れないでください。なにも、痛いことはしません」
「ふざけないでっ……!離して!!」
半ばかな切り声で、悲鳴で、掠れきった声だった。
頭がくらくらするような辱めだ。
どうして、こんなことをされなければならないのか。
もう訳が分からない。
混乱し、暴れ、抵抗する私を落ち着かせることは諦めたのか、彼はそれ以上話すことはしなかった。
そのまま、行為を続けることを彼は選んだのだ。
真似するようにぽつりと彼が言う。
視線を背けていたため、彼がどんな顔をしていたのか、私は知らない。
「あなたを傷つけたい訳では無い」
「…………」
「どうしようもなく──」
彼の手が、私の頬に触れる。
冷たい指先だった。
彼と視線が交わりそうになって、私は目を閉じた。暗闇の世界の中、くちびるに柔らかいものが触れた。
これが口付け、というものなのだろう。
「……愛しています」
「……は?」
「あなたを」
思いが無い言葉に驚いて、思わず目を開ける。
そこには、眉を寄せ、なにかに堪えるような表情をうかべる彼がいた。
「なに、」
「愛しているから、こうしてあなたに触れる」
「…………」
意味がわからない、と思った。
彼が、ファルアランが私に触れる理由も。
こうして突然、愛を告げることも。
彼が、私を愛している、ですって?
(……信じられない)
全くもって。
愛していると言うなら。
「…………それで?」
私はまつ毛を持ち上げて彼を見た。
ぱちり、視線が交わる。
「だから、あなたは私を犯すというのね。私の意思など関係なく」
「……はい」
頷いた。
ますます、意味がわからない。
もはや意思疎通は困難だと思い、私は顔を背けた。
恐る恐る、といった様子で彼が私の首筋に顔を埋めた。
「……お嬢様」
「…………」
彼が何をしたいのか、何を求めているのか。
どうして今、このような行為に及んだのかも。
全く分からない。
分からなくて──混乱しているのに、同じくらい恐れも抱いているし、裏切られたことで怒りも覚えている。
「不慣れではいりますが……お嬢様に苦痛を感じ」 させないよう、努めさせていただきます」
「…………」
およそ、今から、無理やり私を抱くといった男の言葉ではない。私はそれを黙殺した。
不慣れだと言っておきながら、彼はコルセットの紐を簡単に外した。戸惑うことなく。
そこから経験値の高さを察して、ますます苦い気持ちになる。
(何が『不慣れながら』なのよ)
彼の指先は迷うことなく動き、コルセットを引き下ろした。
彼の指先が膨らみに沈む。
それを直視していられなくて、やはり私は視線を背けた。
「お嬢様は、どこもかしこも白くていらっしゃる。滅多に外に出られませんでしたから、当然ですね」
ファルアランが苦笑する。
一般的な女と比べているのか、彼の想像と比べているのかは分からない。
だが、無性に腹が立つ。
「……お慕いしています。ずっと。心より」
「……そう言えば、私が絆されるとでも思っているの?口先だけの愛の言葉なんていらないわ。愛の言葉は、強姦の免罪符でも何でもないのよ」
「……そうですね」
彼が苦笑する。
何も反論することなく。
「ですが、それでも私はあなたが欲しい」
「……どうしてそこまで」
「言ったでしょう。私は、あなたに聖女であることをやめていただきたい。……この世界で、あなただけが私の道標で、生きる理由で、存在理由だった。あなたがこの世から失われるというのなら──私もまた、生きている理由がない」
「…………」
眉を寄せる。
彼は、ファルアランは、いつからこんな偏執的な考えをしていたのだろう。
少なくとも、私が知る彼ではないように思った。
ぐっと片足を持ち上げられる。ふわりと黒のドレスが揺れる。
「失礼します」
丁寧にそう言うと、彼はドロワーズもまた、引き下ろす。さすがに下肢を晒すのは羞恥心が伴って、顔がサッと熱を持った。
「ふざけないで!どうしてこんな辱めを受けなければならないの……!!」
半ば悲鳴のような声を出して彼の胸を強く押す。
押しのけようとすると、反対に手を握られた。
「お嬢様の痛みを緩和するために必要なことですので、ご辛抱を」
「ふざけないで……!!」
足をばたつかせれば、その上に彼が乗り、思うように体を動かせなくなる。
羞恥心のあまり、涙で視界が滲む。
ぼやける視界の中、ファルアランを睨みつけると彼はため息を吐いた。
ずいぶん、熱の篭もった声色で、そのあまりの色気の壮絶さに、ぞっと鳥肌が立つ。
「──」
私は、あまりに無知だった。
十八年間生きてきたが、性に関することも全く知らない。
それでも、本能的に彼の──その息遣いだとか、瞳の色とかが、みだらなものだと、直観的に感じた。
彼のくちびるが、太ももを這う。
「っや……!」
思わず、彼の頭を抑えた。
だけど、またしてもその手を取られ、五指を絡められる。
まるで、宥めるように。慰めるように。
「やめっ……いやぁ!!」
身をよじろうとすれば、腰を押えられ身動きが取れない。
彼のくちびるが肌を伝い、ゆっくりと顔を上げた。
そして、自身でさえ入浴時にしか触れないその場所に。
女性の秘めたる部分に濡れた感覚が走る。
「や、──!!」
「大丈夫です。お嬢様、暴れないでください。なにも、痛いことはしません」
「ふざけないでっ……!離して!!」
半ばかな切り声で、悲鳴で、掠れきった声だった。
頭がくらくらするような辱めだ。
どうして、こんなことをされなければならないのか。
もう訳が分からない。
混乱し、暴れ、抵抗する私を落ち着かせることは諦めたのか、彼はそれ以上話すことはしなかった。
そのまま、行為を続けることを彼は選んだのだ。
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