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声が聞こえる。
『大丈夫だよ。フェリ。何度きみを忘れたって、僕はまたきみを好きになる』
ルーシアスはそう言って、私を慰めてくれた。その言葉はとても暖かくて、それを聞いた私は思わず涙を零してしまった。抱きしめてくれたルーシアスのぬくもりが、とてもあたたかかった。
『ついにこの時が来たか!いやぁ、王家には度々の借金があったんだがね。きみのことで帳消し………とまではならないが、割合負けてくれるし返済も待ってくれるという。良かった良かった。お前を引き取って本当に良かった!』
公爵がにこにこご機嫌顔で私に言う。それを聞いて、これが正しいことなのだと改めて感じた。良かった。良かったのだ。これできっと。…………よかったのだ。
『フェリシア様、本当に聖女としてのお力を使われるのですか?寂しいです………』
仲良くなった侍女のカトリーナが涙を浮かべて私に言った。この見た目から何かと遠巻きにされがちだった私に話しかけてくれた、とても優しいひとだった。私はカトリーナに『これは聖女としての務めだから』と答えた。これで、あっているはずだから。カトリーナは何も言わなかったけど、ただ目を赤くしていた。その赤くなった目を、今でも覚えている。
『あんたは、馬鹿さね。人から、知ってる人の記憶から、自分が消えるっていう怖さをまだ知らない』
時々赴く薬屋のエレメザおばさんが、突然そんなことを言った。困惑する私に、おばさんはぶっきらぼうに『何かあったらここにきな………と言いたいところだが、あんたはもう私とは会わない方がいい』と言った。後からそれは彼女の優しさだと知ったが、その時は酷く胸をえぐられるような痛みを感じた。
黄橙病ーーー。
指先から肌にかけて黄疸が発症する病で、同時に高熱が連日も続く。大抵高熱により体力が低下し、肌が黄色がかってから一週間ほどでひとの命を奪う、恐ろしい病だった。
現在の医療ではどうしようもなく、感染力も強いそれは瞬く間に国の脅威となった。
私は国からの要請を受けて寿の間で、術を謳った。
印をくみ、手のあいだに清めた敏の葉を挟み、前に広がる湖を見る。手は、震えて仕方なかった。
術を使ったのはこの時が初めてだったけど、ずっと座学で勉強をしていた。
聖女の術はほかにもあるようだけれど、私が特に秀でていたのがこの【癒気の術】だ。
何度も、何度も考えた。私の得意とする術がこれでなかったのなら。代償が、みなの記憶にある私の存在でなかったのなら。
どんなに良かっただろう、と。
だけどその一方、みなしごで、公爵夫妻に引き取られただけの役立たずの私が。唯一役に立てるときだとも思った。神様はあえて、私にこんな術をさずけてくれたのかもしれない。
私が何も出来ない、役立たずだから………。
術を歌う時はとても緊張した。
声が震えて、うまく発音できなかったところもあった。だけど全て唱えおえると、寿の間にはられた湖からぱぁ、と光が放たれた。
それを見て成功したと思った。そしてその瞬間、とてつもなく恐ろしくなった。
これで、私のことを誰もが忘れてしまったのだ。
昨日まで楽しく話していた守衛さんも、侍女のカトリーナも、薬屋のエメレザおばんも。婚約者のルーシアスからも、忘れられてしまったのだ…………。彼らの反応がこわかった。何を言われるかもわからない。光の走る湖の前でぼう、としていると、寿の間が開け放たれた。
入ってきたのは騎士のようだった。
私はとっさにその人に声をかけるべきか迷った。【癒気の術】は成功した。それを告げようとーーー。
だけど私はわかっていなかった。全ての人の記憶から、私が消える。その意味を。
かつん、かつん、と音を立ててやってくる騎士は難しい、恐ろしいまでの無表情だった。私はそれをに恐れを生しながら躊躇いながら声をかけた。
「あの…………【癒気の術】ですが………」
思った以上に小さくしか出なかった声は、野太い声に遮られた。
「動くな!どこの誰だか知らんが………堂々と清めの間に入るとは!なんて無礼で常識がないんだ!女だろうが構わない。貴様は不法侵入罪でこの私がひっ捕らえてやる!」
「な…………」
その時私は、全ての人の記憶から、自分の存在が消える。その意味をようやく悟った。
それはとても、とても大きい代償だと思った。
『大丈夫だよ。フェリ。何度きみを忘れたって、僕はまたきみを好きになる』
ルーシアスはそう言って、私を慰めてくれた。その言葉はとても暖かくて、それを聞いた私は思わず涙を零してしまった。抱きしめてくれたルーシアスのぬくもりが、とてもあたたかかった。
『ついにこの時が来たか!いやぁ、王家には度々の借金があったんだがね。きみのことで帳消し………とまではならないが、割合負けてくれるし返済も待ってくれるという。良かった良かった。お前を引き取って本当に良かった!』
公爵がにこにこご機嫌顔で私に言う。それを聞いて、これが正しいことなのだと改めて感じた。良かった。良かったのだ。これできっと。…………よかったのだ。
『フェリシア様、本当に聖女としてのお力を使われるのですか?寂しいです………』
仲良くなった侍女のカトリーナが涙を浮かべて私に言った。この見た目から何かと遠巻きにされがちだった私に話しかけてくれた、とても優しいひとだった。私はカトリーナに『これは聖女としての務めだから』と答えた。これで、あっているはずだから。カトリーナは何も言わなかったけど、ただ目を赤くしていた。その赤くなった目を、今でも覚えている。
『あんたは、馬鹿さね。人から、知ってる人の記憶から、自分が消えるっていう怖さをまだ知らない』
時々赴く薬屋のエレメザおばさんが、突然そんなことを言った。困惑する私に、おばさんはぶっきらぼうに『何かあったらここにきな………と言いたいところだが、あんたはもう私とは会わない方がいい』と言った。後からそれは彼女の優しさだと知ったが、その時は酷く胸をえぐられるような痛みを感じた。
黄橙病ーーー。
指先から肌にかけて黄疸が発症する病で、同時に高熱が連日も続く。大抵高熱により体力が低下し、肌が黄色がかってから一週間ほどでひとの命を奪う、恐ろしい病だった。
現在の医療ではどうしようもなく、感染力も強いそれは瞬く間に国の脅威となった。
私は国からの要請を受けて寿の間で、術を謳った。
印をくみ、手のあいだに清めた敏の葉を挟み、前に広がる湖を見る。手は、震えて仕方なかった。
術を使ったのはこの時が初めてだったけど、ずっと座学で勉強をしていた。
聖女の術はほかにもあるようだけれど、私が特に秀でていたのがこの【癒気の術】だ。
何度も、何度も考えた。私の得意とする術がこれでなかったのなら。代償が、みなの記憶にある私の存在でなかったのなら。
どんなに良かっただろう、と。
だけどその一方、みなしごで、公爵夫妻に引き取られただけの役立たずの私が。唯一役に立てるときだとも思った。神様はあえて、私にこんな術をさずけてくれたのかもしれない。
私が何も出来ない、役立たずだから………。
術を歌う時はとても緊張した。
声が震えて、うまく発音できなかったところもあった。だけど全て唱えおえると、寿の間にはられた湖からぱぁ、と光が放たれた。
それを見て成功したと思った。そしてその瞬間、とてつもなく恐ろしくなった。
これで、私のことを誰もが忘れてしまったのだ。
昨日まで楽しく話していた守衛さんも、侍女のカトリーナも、薬屋のエメレザおばんも。婚約者のルーシアスからも、忘れられてしまったのだ…………。彼らの反応がこわかった。何を言われるかもわからない。光の走る湖の前でぼう、としていると、寿の間が開け放たれた。
入ってきたのは騎士のようだった。
私はとっさにその人に声をかけるべきか迷った。【癒気の術】は成功した。それを告げようとーーー。
だけど私はわかっていなかった。全ての人の記憶から、私が消える。その意味を。
かつん、かつん、と音を立ててやってくる騎士は難しい、恐ろしいまでの無表情だった。私はそれをに恐れを生しながら躊躇いながら声をかけた。
「あの…………【癒気の術】ですが………」
思った以上に小さくしか出なかった声は、野太い声に遮られた。
「動くな!どこの誰だか知らんが………堂々と清めの間に入るとは!なんて無礼で常識がないんだ!女だろうが構わない。貴様は不法侵入罪でこの私がひっ捕らえてやる!」
「な…………」
その時私は、全ての人の記憶から、自分の存在が消える。その意味をようやく悟った。
それはとても、とても大きい代償だと思った。
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