死にたくないので真っ当な人間になります

ごろごろみかん。

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王妃の条件 2

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甘い紅茶はすき。チョコレートも好き。マフィンもマカロンも、ワッフルも、チーズケーキも、いちごケーキも、ショートケーキだって。生クリームは元気の源だしチョコレートは口の中を幸せにしてくれる。
だから私はずっとそれを食べていたし、食べない日なんて有り得なかった。

王妃の条件は3つ。
1つ目は、嫉妬しないこと。
私は標準体型よりもやや太めの令嬢だった。それでもコルセットで無理やりしめればそれなりに見えるし、少し太めかな、という程度だから気にもとめなかった。だけどコルセットのしようもない顔の大きさは如実に自分の体重を表していて、私は小顔に見える化粧を侍女にきつく言ってやってもらっていた。
自分に自信がなかったから、レイが可愛い女性と話していると不安になった。怖くなった。レイはその人を好きになるのではないかと怖くなって、当たった。

「セシリア。ごめん、俺が来れるのはここまでだから…………」

真冬の雪の降り積る日。
その日が私の龍神の贄にされる日だった。
客室という名の監禁部屋は何もやることがなくて、ただただこの日を待つ他なかった。龍神と言うのはこの国を守るとされている聖獣だ。
100年に1度、この国は16の娘を龍神の贄として差し出す。そうすることで恩恵を受けていたと考えているのだ。だけどそんな文化は既に風化して、もう形骸化していると以前レイはいっていた。なのに、なぜ………。

(醜悪だ)

そういったレイの言葉が忘れられない。私はそんなに醜かっただろうか。誰よりも綺麗でいたくて、可愛くいたくて、レイの前ではコルセットをぎゅうぎゅうに絞ってお化粧だって綺麗に施して。そう思って私は窓を見た。客室という名の監禁部屋には鏡がない。自殺防止だろうか。
窓を見て、そこに映る自分を見て、私は愕然とした。

気が付かなかった。
そこには、ただ化粧のこい、顔が大きな、腫れぼったい娘が不満げな顔をしていた。くるりと巻かれた赤毛はまるでカツラのようだ。

ーーー私、こんな顔だったっけ………

化粧では隠しきれない吹き出物が頬や額に散っている。それは赤みを伴って醜悪に目立っている。
そして下をみずとも二重アゴができていて、目は顔の大きさに比べて小さい。口は半開きで、なんとも間の抜けた、阿呆な表情だった。
髪を乾かすのが面倒でそのまま寝ることが多かったせいで髪の毛だって痛みが酷く、ゴワゴワだ。生乾きで寝ることが多かったせいでお世辞にも髪はいい匂いがするとは言えない。それを隠したくて香水をふんだんにつけていた。
侍女が何度も髪をふこうとしてくれたがそれが面倒で私は途中でそれを切り上げて、ベッドの中にいつも潜り込んでいた。

ーーーこれは………

これは、愛想もつかれるというものだ。
私はここに来て初めて自分の現状を目の当たりにした。王妃の条件は3つ。

1つ目は、嫉妬しないこと。
2つ目は、美しくあること。
3つ目は、恋をしないこと。

…………昔、古びた本で知り得た3つの条件を、何一つ私は守っていなかったのだ。それを破った結果が、これだ。

寒い、雪の降る日。
身を切るような寒さの中私に与えられたのは粗末のドレス1枚のみで、手のひらは既に真っ赤だった。ケヴィンに連れられてきた場所は王家の裏庭からしか入ることの許されていないフェルランミュア山の頂上にほど近い場所だった。
軽装な私を心配してケヴィンがマントを貸してくれようとしたけれど、それが惨めで、悲しくて、私は受け取らなかった。絶望しか無かった。
頂上にほど近い湖で、私はたつ。
しんしんとふきつもる雪を見ながら私は半ば願った。

ーーーもし、やり直せるのなら。

やり直せるのなら、私は。

私はーーー。

もっと自分を主観的に見るべきだった。今更ながら自分を客観的に見て、私は酷く後悔していた。
何もしなくても受け入れれるはずがない。怠惰な自分でも無条件に受け入れられる。そんな甘い考えが通用するはずがない。
「私は大丈夫」なんて言葉、存在しないということを知るべきだった。もし、次があるのなら。来世があるのなら。私はもっと、周りを見て、自分のことを客観視して、地に足つけて、しっかりと人生を歩みたい。今までみたいに「何となく」生きてるんじゃなくてーーー。

弱者を踏みつけるような女ではなく、弱者に寄り添う、誰が見ても恥じない生き方をしたい。
誇れる生き方、なんてそんな素晴らしい人生を歩むのは無理だ。難しい。であれば、せめてもの、生きていて恥ずかしいと思わない生き方をしたい。そうすれば、今までの生き恥のような人生も、少しは帳消しにされるだろうか。
八つ当たりで侍女にお茶をかけたこともあった。可愛い令嬢を見れば夜会の折にそのドレスの裾をナイフで切り裂いたこともあった。裏に手を回して恥をかかせようとしたことだってある。思い返せば随分と恥知らずな人生を送っていた。ここにきて私は無性に自分が屑な人間だと感じていた。
権力にものを言わせて、身分にあぐらをかいてーーー。

(本当にその通りだわ………)

レイの、初めて聞いたあんな冷たい物言い。醜悪だ、と言った彼の言葉はまさしく正しい。
今更後悔しても。やり直したいと思っても。もう遅いのだろうけどーーー。

湖は静かだ。
私は目を閉じて足から湖に浸かった。

死ぬのか。

怖い。だけど、逃げられるはずもない。
監禁された一日目はものを壊して、叫んで、ただ暴れていた。三日たって、誰も助けに来てくれないと知って恐怖で頭がおかしくなりそうになった。五日経って、私はもう間に合わないのだと知った。もう、どうにもならないのだと。今反省しても、後悔しても遅いのだと知る。
私のためなら何だってする両親はどうしたのだろうか。黙ったままでいるはずがない。きっと何かしら手は打ってくれたのだろう。だけど音沙汰もないところを見ると………

(ダメだったのね、やっぱり)

両親は悪くないと思う。結局は自分の甘さが招いた結果だ。そのまま、湖に飛び込んだ。

凍えるように冷たい。そしてーーー

(痛っ………!痛い!!)

身を切られるような冷たさと全身を走り回る、引き裂かれるような痛みに気を失いそうになった。なんでこんなに痛いの!?なぜ、ここは湖の中で………!
見えない。目を開けることが出来ない。でも、ただ、痛い、怖い、何が起きてるのか分からないーーー
両手両足を食いちぎられるような、ものすごい力で引っ張られるような感覚。

(引き裂かれる…………!!)

苦しくて鼻に水が入って痛くて手足が痺れて、激しい苦しみの中、私は意識を失ったーーー

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