【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。

文字の大きさ
上 下
56 / 59
二章:賢者食い

敵?味方?

しおりを挟む

目を瞬いてあんぐり口を開く私に、テオはソファから立ち上がってから答えた。

「ファーレは、あなたの化粧が必要だ。陽も登りきっていないうちに部屋の行き来をするのは、ほかの客に怪しまれる可能性がある。それと」

ちら、と彼はファーレを見た。
ファーレは洗いざらしの髪にタオルを巻き付けながらも、私同様、瞬いている。彼も彼で驚いているようだ。

「もし、オレたちの正体に気がついているやつがいたら、彼女がひとりでいるのは危険だ。今のエレインは魔法を使えない。一般的に考えて、二人部屋とひとり部屋なら、女性のエレインがひとり部屋に泊まると思うはずだ。オレなら多少荒事にも慣れているし、もし誰かが忍び込んできても、対処出来る」

「なるほど……。じゃ、ご令嬢は俺と同室でいいですか?」

「うーん……」

確かにテオの言っていることは、もっともだ。
ひとりでいるところを狙われたら、魔法が使えない私はひとたまりもない。貴族令嬢として一般的な体力(つまり全然ない)、武道の心得などもあるはずがない。テオの発言は的確で、もっともではある。もっともなんだけど──ちら、とファーレを見ると彼が首を傾げた。
そして、私の視線に合点がいったようにぽん、と手を打った。

「……ああ!安心してください。俺がご令嬢にどうこう、とか絶対有り得ないので!」

自信満々に言い切ったファーレは濡れた髪をタオルで大雑把に拭きながら続けた。

「主の獲物を横取りする気は無い……っていうのはもちろんなんですけど、単純に好みじゃないですよ、エレイン。俺、年下より年上派だし。ご令嬢は色っぽさがちょっと……」

……どうしてかしら。興味が無いと言ってくれた方が私も安心出来るし、そもそもファーレが私をどうこうとか考えてもいなかったのだけど。

どうして私が振られたみたいになってるのかしら……!?

確かに私は胸は控えめ(決して貧しいわけではない)だし、色っぽさとは無縁、窓辺で静かに微笑むより外を走り回っている方が似合うと私自身思う健康体……!!風邪を引いてもたいていは寝れば治るという驚異的免疫の持ち主でもある……!!

ファーレが二十一歳であることを考えても、婚約者でもない私が彼の恋愛対象に入るとは思えない。(入っても困るが)

(……別に、ファーレの好みじゃないってだけで、イコール女性の魅力がないということでは無いものね!うんうん!)

私はどうにか自尊心を立て直すとおおきくため息を吐いた。もしかしたら、昼間に華奢だのお化粧が似合うだのと私が言ったから意趣返しだろうか。ファーレは結構根に持つ性格だと思う。

「私も、ファーレと同室で構わないわ。私は今、足を挫いているし魔法も使えないもの」

よっ、と掛け声をしてから私はベッドに飛び移った。足をくじいてから二日。まずい方向に捻ってしまったらしく、足首は未だ重症である。色は赤から黄色に変色していて、ちょっと直視していたくない。もちろん触ってもかなり痛むので、絶対安静である。

そうして、私はファーレに浴室に放り込んでもらい、なんとか身を清めると──そのままベッドで眠りについた。思えば、三日も外にいたのである。ベッドで眠るのも三日ぶり。思った以上に体は疲労していて、ベッドに体をよこたえた途端、私の意識は途切れた。



「……イン……エレ……」

誰かが、私を揺さぶっている。
でも瞼は貝のように閉じていて、目を開けることはできなかった。泥濘のような眠気がとろりと私を包む。体が起床を拒否している。そのままきつく瞼を瞑り、寝返りを打つと。

「起きてください、エレイン。緊急事態です!」

──という、ファーレの声が。
その低音が、あまりにも近くから聞こえてきたので、私は反射的にばっと飛び起きていた。そのままズザザ、と音がするほど後ずさる。ベッドボードにべったりと背をつけながら囁かれた耳を抑える。

「な、なに!?何してんの!」

深夜であることも忘れ避難すると、ファーレがしいぃ、と自身の口元に人差し指をあてた。暗闇の中であっても、この近さだ。彼の顔もよく見える。

「言ったじゃないですか!緊急事態って」

囁くようにファーレが言う。

(緊急事態はこっちだ……!!)

私は、ふー……とこころを落ち着かせるように息を吐く。そして、気合を入れるようにぐっと拳を握った。

「それが年頃の乙女のベッドに忍び込んだ言い訳ってわけね。いいわ、最期の言葉くらいなら聞いてあげる」

「あー……いや、それより!」

「それよりって言った?」

その長い髪、引っ張ってやろうか。
胡乱な眼差しを向けると、私の攻撃的な感情を察したのか彼は取り繕うように両手を前に掲げた。

「いや、ほんとうに緊急事態なんですって!──テオが部屋を抜け出しました……!」
しおりを挟む
感想 312

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

処理中です...