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二章:賢者食い
そんな、コントのような。
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ぱちぱち、となにかが弾ける音がする。
その音につられて、私は目を覚ました。
「うーん……?」
私、どうしたんだっけ……。
なぜか意識を失っていた私は、ゆっくりと記憶を辿っていく。
そして、ハッと気がついた。
(そうだ!私、滝つぼのすぐ近くで、なにかが頭に当たって……当たって……)
ていうかあれ、丸太だった??
なんか、木材みたいなのがチラッと見えたけど。
丸太が滝つぼに降ってくるって何事?
これってよくあることなの?
そんなことを考えながら、いや、今考えるべきことはそれではない、と思い直す。
私は、慌てて体を起こそうと手をついた。
視界に入るのは、一面の木々。
すっかり陽は落ちていて、あたりは真っ暗だ。
ここは、林の中……?
どこを見ても木々しかない。
手のひらには、ざらついた土の感触があった。視線を下ろす。どうやら私は、地面に寝かされていたようだ。
ずる、と布が落ちる音がする。それで、私は肩になにか掛けられていることを知った。
(なにこれ?マント?)
色の濃いそれは、夜闇でははっきりしないが紺色に見えたが、緑か青かまでは判別がつかない。
マントを照らす光源に気がついて、私は視線をそちらに向けた。
ぱち、ぱちという音は、焚き火の音だった。
木が燃える音だったのか……。
未だ状況が追いつかず呆然としていると、サク、サク、と葉を踏む音が聞こえてきた。
「っ……!」
息を呑んでそちらを振り向く。
バッ、と勢いよく振り向いたせいか、そのひとは私に驚いたようだった。
「っくりしたぁ……」
姿を現したのは、テール様ではなかった。
それにホッと息を吐く。
だけどまだ、気を抜くわけにはいかない。
暗いので分からないが、男性は薄い色合いの髪をしいるようだった。
言葉通り驚いているようで、目を見開いている。
どこか猫を思わせる瞳に、短い髪。
ぴょんぴよんと跳ねる髪は癖毛だろうか。
(ど……独特な雰囲気があるひとだなぁ……)
私は、まじまじと彼を見つめてしまった。
男のひとは、私が目を覚ましていると知ると、私の前に屈んでみせた。覗き込むように首を傾げながら、私を見てくる。
焚き火の明かりが届いて、彼の髪の色を知る。
赤い光に照らされているから断言は出来ないが、彼は白い髪をしているようだった。
首を傾げた拍子に、彼の長めな襟足がさらりと揺れる。それで、短髪なのではなく襟足が長いのだと知った。
「アンタ、この近くの川岸に流れ着いてたんだよ。日も暮れてきたし、このまま放置したら死んじゃうかなーと思って連れてきたんだけど。……それで良かった?」
男のひとは、少し高めな声でそう言った。
よく見ると、左目の端にホクロがある。
どこか中性的、というか不思議な空気のあるひとだった。
「あ……ありがとうございます」
丸太が頭に直撃した私は気を失い、恐らくそのまま川に流されたのだろう。
(やっ……ば)
滝つぼに落ちるよりよっぽどまずい。
というかよく生きてたな私!
自分の悪運の強さに感謝だ。
これで一生分の運を使い切った気がする……。
ひとり深く息を吐いていると、未だ私の前に屈んだ状態のまま、男性が言った。
「それはいいんだけどさ。下着、見えてるよ」
あっさりと指摘された言葉に、私は文字通り固まった。
そして、バッと勢いよく自身を見下ろす。
(しっ……)
下着ーーーー!!
私!シュミーズとドロワーズ!だけ!!
何で!?
動揺しつつ、肩からずり落ちていたマントをしっかりと首まで持ち上げる。
淑女が下着だけとか有り得ないし、それを異性に見られたなど、卒倒ものだ。
(いや、私はもう、貴族ではないのだけど!!)
それで物心ついてからずっとそう教育を受けてきたのだ。
私は羞恥とも動揺とも言えない衝動に震えていた。
知らずのうちに責めるような目付きを向けてしまっていたのか、男性が困ったように眉を寄せた。
まるで、責められるのは納得いかない、と言わんばかりに。
「全身濡れ鼠だったんだよ、アンタ。ほんとうなら服全部引っペがした方がいいんだろうけど、流石にそれは悪いかな、と思って下着だけ残したんだけど」
「そっ……それはありがとうございます!でも服を乾かすとか、他にやりようがあったんじゃないでしょうか!?」
動揺のあまり、上司に物申す部下のような口調になりながら私は抗議した。
それに、男性があからさまにめんどうそうな顔をした。
このひと、めんどうだって思ってる!
間違いない!!
男のひとはそのまま膝に手をついてものぐさそうに立ち上がった。
「オレ、細かい調整をする魔法大嫌いなんだよ。下手したらアンタごと蒸発する」
「それは……!」
嫌だ!!嫌すぎる!!
助けてもらった手前、それ以上抗議することもできず、私はスゴスゴ引き下がった。
そんな私をじっと見下ろして、男性は言う。
「それで、アンタさぁ、どうしてあんなところで流れてたの?」
まるで、私が好き好んで流れていたように言わないで欲しい。
こちとら気を失っていたのだ。
助けてもらった恩人だし、と私は重たい口を開いて端的に事実を述べた。
「泳いでいたら頭に丸太が降ってきて……」
「え、そんな冗談みたいな話ある?」
男性がそんな馬鹿な、と言わんばかりに軽く笑った。
「……それが、あるんですよ!」
実際私の頭には丸太が降ってきたんだもの!
私の言葉に、男性は信じていないのか「ふーん」と懐疑的だ。……ほんとうなのに!!
その音につられて、私は目を覚ました。
「うーん……?」
私、どうしたんだっけ……。
なぜか意識を失っていた私は、ゆっくりと記憶を辿っていく。
そして、ハッと気がついた。
(そうだ!私、滝つぼのすぐ近くで、なにかが頭に当たって……当たって……)
ていうかあれ、丸太だった??
なんか、木材みたいなのがチラッと見えたけど。
丸太が滝つぼに降ってくるって何事?
これってよくあることなの?
そんなことを考えながら、いや、今考えるべきことはそれではない、と思い直す。
私は、慌てて体を起こそうと手をついた。
視界に入るのは、一面の木々。
すっかり陽は落ちていて、あたりは真っ暗だ。
ここは、林の中……?
どこを見ても木々しかない。
手のひらには、ざらついた土の感触があった。視線を下ろす。どうやら私は、地面に寝かされていたようだ。
ずる、と布が落ちる音がする。それで、私は肩になにか掛けられていることを知った。
(なにこれ?マント?)
色の濃いそれは、夜闇でははっきりしないが紺色に見えたが、緑か青かまでは判別がつかない。
マントを照らす光源に気がついて、私は視線をそちらに向けた。
ぱち、ぱちという音は、焚き火の音だった。
木が燃える音だったのか……。
未だ状況が追いつかず呆然としていると、サク、サク、と葉を踏む音が聞こえてきた。
「っ……!」
息を呑んでそちらを振り向く。
バッ、と勢いよく振り向いたせいか、そのひとは私に驚いたようだった。
「っくりしたぁ……」
姿を現したのは、テール様ではなかった。
それにホッと息を吐く。
だけどまだ、気を抜くわけにはいかない。
暗いので分からないが、男性は薄い色合いの髪をしいるようだった。
言葉通り驚いているようで、目を見開いている。
どこか猫を思わせる瞳に、短い髪。
ぴょんぴよんと跳ねる髪は癖毛だろうか。
(ど……独特な雰囲気があるひとだなぁ……)
私は、まじまじと彼を見つめてしまった。
男のひとは、私が目を覚ましていると知ると、私の前に屈んでみせた。覗き込むように首を傾げながら、私を見てくる。
焚き火の明かりが届いて、彼の髪の色を知る。
赤い光に照らされているから断言は出来ないが、彼は白い髪をしているようだった。
首を傾げた拍子に、彼の長めな襟足がさらりと揺れる。それで、短髪なのではなく襟足が長いのだと知った。
「アンタ、この近くの川岸に流れ着いてたんだよ。日も暮れてきたし、このまま放置したら死んじゃうかなーと思って連れてきたんだけど。……それで良かった?」
男のひとは、少し高めな声でそう言った。
よく見ると、左目の端にホクロがある。
どこか中性的、というか不思議な空気のあるひとだった。
「あ……ありがとうございます」
丸太が頭に直撃した私は気を失い、恐らくそのまま川に流されたのだろう。
(やっ……ば)
滝つぼに落ちるよりよっぽどまずい。
というかよく生きてたな私!
自分の悪運の強さに感謝だ。
これで一生分の運を使い切った気がする……。
ひとり深く息を吐いていると、未だ私の前に屈んだ状態のまま、男性が言った。
「それはいいんだけどさ。下着、見えてるよ」
あっさりと指摘された言葉に、私は文字通り固まった。
そして、バッと勢いよく自身を見下ろす。
(しっ……)
下着ーーーー!!
私!シュミーズとドロワーズ!だけ!!
何で!?
動揺しつつ、肩からずり落ちていたマントをしっかりと首まで持ち上げる。
淑女が下着だけとか有り得ないし、それを異性に見られたなど、卒倒ものだ。
(いや、私はもう、貴族ではないのだけど!!)
それで物心ついてからずっとそう教育を受けてきたのだ。
私は羞恥とも動揺とも言えない衝動に震えていた。
知らずのうちに責めるような目付きを向けてしまっていたのか、男性が困ったように眉を寄せた。
まるで、責められるのは納得いかない、と言わんばかりに。
「全身濡れ鼠だったんだよ、アンタ。ほんとうなら服全部引っペがした方がいいんだろうけど、流石にそれは悪いかな、と思って下着だけ残したんだけど」
「そっ……それはありがとうございます!でも服を乾かすとか、他にやりようがあったんじゃないでしょうか!?」
動揺のあまり、上司に物申す部下のような口調になりながら私は抗議した。
それに、男性があからさまにめんどうそうな顔をした。
このひと、めんどうだって思ってる!
間違いない!!
男のひとはそのまま膝に手をついてものぐさそうに立ち上がった。
「オレ、細かい調整をする魔法大嫌いなんだよ。下手したらアンタごと蒸発する」
「それは……!」
嫌だ!!嫌すぎる!!
助けてもらった手前、それ以上抗議することもできず、私はスゴスゴ引き下がった。
そんな私をじっと見下ろして、男性は言う。
「それで、アンタさぁ、どうしてあんなところで流れてたの?」
まるで、私が好き好んで流れていたように言わないで欲しい。
こちとら気を失っていたのだ。
助けてもらった恩人だし、と私は重たい口を開いて端的に事実を述べた。
「泳いでいたら頭に丸太が降ってきて……」
「え、そんな冗談みたいな話ある?」
男性がそんな馬鹿な、と言わんばかりに軽く笑った。
「……それが、あるんですよ!」
実際私の頭には丸太が降ってきたんだもの!
私の言葉に、男性は信じていないのか「ふーん」と懐疑的だ。……ほんとうなのに!!
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