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少しでも会いたくて
しおりを挟む「わっ……!」
「大丈夫だよぉ。リア、そんな心配そうな顔しないで?可愛いきみの顔が台無しだよ?」
「レベッカ……」
「ベティでいいのに」
「それは……あなた、恋人がいるし」
「愛称で呼ぶくらいいいと思うけど、お堅いなぁ。リアは」
レベッカが気にしなさすぎるだけだと思う。
レベッカは可愛い娘を見ると口説きたくなってしまう、と言うだけあってなかなかスキンシップが激しい。ファンティーヌさんは気にならないのかしら……?
そんなことを思っていると、レベッカが私に言った。思ったより近くてびっくりして仰け反る。
「もう、リアったら僕の前でそんな顔しちゃダメだよ?そういうところ、つけこまれるからね」
「つけこまれるって……」
「忘れた?僕はきみのこと、可愛いなぁって思ってるんだよ?……そういう意味で」
近くでじっと見つめられて、その瞳がいつもよりも艶めいていて動揺する。
何を言えばいいかわからず、視線を逸らしてレベッカの肩を押した。
「レベッカ、飲みすぎよ」
「あはは、慣れてなくて可愛いね?」
「……からかわないで」
なるほど。今のはレベッカの悪ふざけだったようだ。ため息をついた。
それからもフェアリル殿下とは会えない日が続き、私は急ピッチで王太子妃教育をすすめ、夜会にも積極的に参加した。
レベッカの協力のおかげで悪評もだんだんと薄らいではいき、一ヶ月と半月が経過した。
もうすぐ2ヶ月が経つ、という頃。
変わらずフェアリル殿下とは会えない日が続き、その日は雨で、夕方から冷えた。
夜中はもっと寒そうで、暖炉に入れる薪を増やしてもらうべきかしら、と思っていると、不意に扉が開いた。
びっくりしてそちらを見ると、ずぶ濡れのフェアリル殿下が部屋に入ってきたところだった。
「え!?ちょっ……。どうしたの?大丈夫?えーと、あっ。お疲れ様?」
言うべき言葉が絡まって、脈絡なく言葉を紡ぐ。
フェアリル殿下とまともに顔を合わせたのは二ヶ月ぶりだった。
彼は髪から零れる雨粒を鬱陶しそうにはらいながら、私を見て言った。
「ただいま、リリアンナ。きみとの時間を全く取れていなくてごめんね」
「ううん。そんなことは全然気にしなくてもいいわ。でもどうしたの?」
私が尋ねると、フェアリル殿下はどこか微妙そうな顔をしたが、すぐに答えてくれた。
「同性婚の法改正がようやく議会の仮承認まで通った」
「!」
「かなり骨が折れたけど……あともう少しだ。レベッカ・バーチェリーの婚姻についてもバーチェリー公爵を説得できたし、残るは元老院の説得と本承認を得ること……」
呟くように言いながら、フェアリル殿下は外套を脱いで、ソファの背もたれにかけた。外套はずぶ濡れなので、当然ソファも濡れてしまう。私はそれを拾い上げて、後で侍女に渡そうと回収した。
「お疲れ様。本当にすごいわ。……で、どうしてあなたはそんなに濡れているの?」
「ああ、今さっきバーチェリー家に行って公爵を説得してきたところなんだ。当初の予定では日暮れまでには帰れるはずだったんだけど、まだ娘を王太子妃にすることを諦めていないバーチェリー公爵に捕まって……それでこんな時間」
時刻は、日付が変わるか変わらないか、というところだ。私は王太子妃教育の復習を行っていたからまだ起きていたけれど、だいたいの人間はもう寝ているだろう。
「本当は入浴してから部屋に来ようと思ったんだけど、まだリリアンナが起きていると聞いたから、起きているうちにと思って部屋に直行したんだよ」
「そうなの……」
「うん。でももうリリアンナは眠っていいよ。僕はまだやることがあるから。……少しでも顔を見れて良かった」
フェアリル殿下は笑ってそう言うと、そのまま部屋を出ようとした。それを私は慌てて呼びとどめた。
「……どうかした?」
呼びとどめて、なぜ自分が呼び留めたのか分からず、困惑する。理由もなく彼を呼び、続く言葉を探す。そしてようやく見つけた言葉を、口にした。
「あ、あの!あなたちゃんと眠れてる?顔色が悪いわ。それに……少し痩せた気がする」
言いながらフェアリル殿下を見ると、顔色以外にも少し痩せたようであることに気がついた。輪郭が鋭くなり、目の下にもくまがあった。暗くて気が付かなかったが、彼はとても疲れているようだ。
考えてみれば、それも当然だった。
フェアリル殿下はこの二ヶ月間、睡眠時間も押しんで政務に励んでいるのだ。レベッカのため──私となんの問題もなく、結婚するために。
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