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絆されて……? *

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「……驚いた。まだ言ってるの?今の話を聞いておいて?」

「あのねぇ、あなたは言葉が足りないのよ!私、あなたにプロポーズの言葉なんて貰っていないけれど!?」

腹が立ったので、フェアリル殿下の白い頬をつまんだ。そうすれば思った以上に可愛い顔になったので満足である。私に頬をつままれたフェアリル殿下は鬱陶しそうに私の手を払うと、そのまま私の腕を掴んだ。

「──ッ!?」

そして、噛み付くようなキスをされた。
キス、なんて甘いものじゃない。本当にくちびるを噛まれた。甘噛みではあるけれど、くちびるを噛まれた私は変な悲鳴が出た。

「んきゃっ……ちょ、んんっ……!」

そのまま、ぬるりと舌が入り込んできて言葉が出ない。思わず縋るように掴んだ手すりに力が入る。フェアリル殿下は目を細めて、まつ毛を伏せて私をじっと見ていた。
観察されている、と思ったら羞恥心が振り切れそうになって、咄嗟に彼の肩をおもいきり押した。

「~~~っ……!何するのよ!?突然!」

「きみは、こういうことを僕としておいて結婚しないなんて言うつもりだったのかな?って思って?」

そう言いながらフェアリル殿下は私の髪をくるくると指先に巻き付けてから、耳にかけてくる。

(……そう言えば、以前フェアリル殿下の妹の髪の話を聞いたような)

妹、というのがベルティニア様のことなのだろう。彼女のことを思い出すと、何ともいたたまれない気持ちになる。
だけど、兄妹のことについて私が口を挟むべきではない。言葉を探して、私は視線を逸らした。

「……フェアリル殿下はお母様に顔が似てらっしゃるの?」

「そうだね。自分ではあまり言いたくないけど、似ていたと思うよ。髪色は違うけど顔立ちがね。昔は、幼少期の母上にそっくりだと言われた。今も……まあ、似ているんじゃないかな。自分でもそう思うくらいだから」

「そう………」

じっとフェアリル殿下を見つめる。
フェアリル殿下は女顔だし、中性的だし、まつ毛も長いし、瞳も大きい。瞳の形こそ切れ長だけど、顔立ち自体が柔らかいので、髪がながければ女性に見え………。

「…………」

「なに?」

じっと見つめられて、落ち着かないのかフェアリル殿下が目を逸らした。ほんのりと目尻が赤い。ますます女性っぽい。

(やっぱり生まれてくる性別を間違えたとしか思えないのよね……)

以前口にしてとても怒られたのだから、本人も気にしているのだろう。まじまじと見つめた私は、フェアリル殿下に言った。

「ねえ、女性ものの服を着たり、お化粧とかに興味はないかしら」

「………は?」

ずいぶんドスの効いた"は?"だったし、妙に眼光鋭く睨まれているが、構わず私は続けた。
見てみたい、という気持ちが強かったので。

「きっとすごく似合うと思うの。私も金髪だし、姉妹に見えたりするのかしら?あなた、中性的な顔立ちだから意外と寒色系の顔料も似合うと思うの。ね、ね、やってみない?きっと綺麗よ。自信もって!私が保証する、きゃあ!?」

嬉々としてフェアリル殿下のお化粧と服装を頭に描いていたら、不意に体が宙に浮いてとても驚いた。
心底びっくりした。思わず体を固くしていると、私を抱き上げたフェアリル殿下は無表情でまるでものを投げるように私をポイと投げた。
……投げた!?

「きゃあ!?」

驚いたのも束の間、落ちたのはフェアリル殿下のベッドの上だった。
びっくりして石像のように固まる。

「僕はね、リリアンナ。ひとつ決めたことがあるんだ」

「な、なにかしら……」

ベッドの上という危険値の高い場所で怖々言うと、妙に麗しい笑顔でフェアリル殿下が私を見下ろして言った。

「きみへの苛立ちは、ベッドで解消させてもらおうかなって」

「おっと~~~!?いやいや、一国の王子様がそれは宜しくないのではないかしら!?というか怒ってるの!?やっぱり!?でも似合うわよ。自信もって!」

「自信持つとか持たないとかそういう話じゃないんだ。生憎ね」

やはりフェアリル殿下は女性的な顔立ちがコンプレックスらしい。それが確定したと同時に、私は後ずさって逃げようとしたが、あっさり押し倒された。逃げ場がない。
蛇に睨まれたカエルのごとく、動けなくなった私はにこりと笑ってみたりした。

「面倒なことは片付いたし──忘れないうちに復習しようか?」

ふわりと美麗な笑みを浮かべて、フェアリル殿下が私の前髪を退かして額に口付ける。

「……好きだよ。きみのこと」

「っへ……!?」

「驚くこと?だいたい、他人嫌いの僕がこんなことをしてるんだ。好きじゃなければしないよ」

(そうなの……!?)

そうなのか。そうなのね。
当たり前のようにフェアリル殿下は言って、いたずらっぽく笑うと頬に、顎に、鎖骨に口付けた。手が絡められて、柔らかなくちびるの感覚だけが明確に伝わってくる。

「っ……や……、ぁ!」

「きみは?僕は、きみの気持ちをまだ聞いてないけど」

「えっ……!?そう、そうね……」

変わらず彼のくちびるが肌に触れて、なぞるように動く。しゅるりと胸元のリボンが緩められる。パニエをかき分けて、指先がドロワーズに触れた時には恥ずかしさでどうにかなりそうだった。これに慣れる日なんて、来る気がしない。

「私は──嫌いじゃない、わ」

顔が赤い気がする。
逃げるように視線を逸らして、口元を隠す。
フェアリル殿下のくちびるが逸らした喉に触れて、そのまま食まれた。

「ひゃ……!?」

「それで?」

「それ、で……?」

「それだけじゃ、足りない」

強く喉を吸われて、体がびくりと揺れた。
もうなにがなんだかわからない。まるで嵐のようだと思った。

「ンっ……は、ぁ……。~~~っ、わかってて聞いてるわね!?わたしはっ……なんとも思ってない相手に体を委ねるほど……割り切れた女ではないわ」

恥ずかしくて頭が上手く働かない。これが言葉責めってやつなのかしら?いや羞恥攻め?そんなことを考えていると、不意に耳朶を食まれた。

「ひゃぁっ……!?」

「僕は言葉で聞きたいんだけど」

「あなた……いじわるじゃ、ない?ベッドだと人が変わるタイプ……っ!?」

ペチコートとパニエを捲りあげた彼の指先がたどるようにシュミーズの中、コルセットの紐を弛めていく。なんだかその仕草が楽しそうで、ちょっと腹立たしい。恥ずかしさのあまり、涙で滲む視界の中、フェアリル殿下を睨みつける。
そうすると彼は口角を上げてご機嫌であることを隠さずに言った。

「ん?ベッドでどうなるかなんて今まで知らなかったけど?……性行為が理由、というよりきみが理由な気がするけどね」

「なにそれ──ひゃっ、ぁっ……ンン!」

コルセットを解き終わった彼の指先が胸元に触れて、焦らすように蕾を撫でられて妙な声が出てしまう。

「うーん、僕は今すごいいい気分なんだよね。なんというか……あ、分かった。きみっていじめがいがあるんだよね」

「あなた失礼すぎるってよく言われない?」

思わず状況も忘れて反論してしまう。
私の言葉に、フェアリル殿下がにっこりと笑った。

「きみにだけだよ」

「ッあ、やっ、ぁっ……!」

きゅ、と焦らされていた胸の蕾を摘まれて体が反った。妙に甘ったるい声が出てしまって、恥ずかしいのに気持ちが良くて、なんだか涙が出てきた。

そしてその日は結局、互いにぐちゃぐちゃになるまで溶け合って、何もかもわからなくなって、あっという間に夜になってしまった。
あまりにも濃い、というより本当に嵐のような交わりだった。

(これからもずっとこうだったらどうしよう……?)

眠りに落ちる直前、そんなことを思って、でもそれでもいいか、と思ってしまうほどには私は彼に毒されている。


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