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結婚します!!
しおりを挟むそれまでただ影に徹していた私は、何を言えばいいか分からない。
(えーと、えーと……!?)
ジュノン陛下に条件付きとはいえ認められた、ということはつまり、私が次期王太子妃であることが許された、ということで。
つまり、つまり、ええと……?
いずれ私は王妃になる、ということ?私に?出来るのかしら?というか私がフェアリル殿下と結婚?そう言う体で話は進んでるわよね?
きっと今の私の目はぐるぐるしている。
「っ………」
(ええい、女は度胸!もうここまできて、"やっぱり結婚できません!国に帰ります"なんて言えないわ。そもそも私だって、あの時フェアリル殿下を受け入れた。命がかかっていたと言え、こうなる事は分かっていたはずじゃない?)
ひとつ深呼吸をして、私はゆっくりと淑女の礼をとった。
「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。デスフォワード国王女リリアンナ・デスフォワードです。……王族として務めを果たすにあたり、私では至らない部分もあるかと思いますが、陛下のご厚意に応えられるよう精進いたします」
ジュノン陛下は何も言わずに扉を開けた。
そして、控える近衛兵に声をかける。
「ベルティニア。来なさい」
「お父様、でも……!私、わたし」
「来なさい。同じことを二度言わせるな」
低く、咎めるように呼ばれてベルティニア様はくちびるを噛んで陛下の後をおった。今にも泣き出しそうな、青ざめた顔を見ると胸がしくしくする。
だけど、ベルティニア様を庇うことは私には出来ない。せめて、胸の前で祈るように手を組んでいると部屋を出る手前、ぴたりとジュノン陛下は足を止めた。
そして、振り返らずにフェアリル殿下を呼ぶ。
「お前が──真実を暴いたことで、私も目が覚めた。あのままであれば私は、お前に女を押し付け、子を成すことをただ強要する、父としても王としても足を踏みはずすところだった。……すまない」
「──」
フェアリル殿下が息を飲んだところで、ばたん、と音を立てて扉はしまった。
私はと言えば、何をどう言えばいいか分からない。ただ視線をさまよわせていると、盛大なため息が聞こえてきた。
フェアリル殿下だ。
「クソ……最悪だ」
舌打ちまでしたガラの悪い王子様はそう言うと、髪をぐしゃりとかきまぜて、乱暴に椅子に座った。勢いがあったせいで、がたりと重そうな椅子が揺れる。
「……フェアリル殿下は女がお嫌いなの?」
一般的な男性なら、美しい女性に囲まれるというのはある種の夢なのではないだろうか。
そう思いながら顔を覗き込むと、おもいきり睨まれる。
「ベルティニアを見ただろ。肉親から異性愛を欲される。きみの立場ならどう思う」
「……お兄様から……」
少し考えて、思わずウッと口を手で押えた。天と地がひっくり返ってもありえないけれど、想像しただけでも生理的嫌悪感がある。
私の反応を見て、フェアリル殿下はほら言っただろ、という顔をした。
「それに加え、僕は昔から……侍女とか、身近な女にそういった欲を向けられる経験が多かった。これで嫌いにならなければそいつはよっぽどの女好きだよ」
なるほど。つまり幼少期から不躾な視線に晒されて、トラウマになってしまったということか。
幼き日のフェアリル少年はきっと今以上に愛らしかったのだろう。
今でさえ中性的な美しさに、線の細い身体、妙な色気のあるフェアリル殿下は妙齢の女性以上に色っぽい。幼い頃は少女のように可愛らしかったことだろう。
「……残念ね」
「なにが」
「私も見てみたかったわ。幼い頃のフェアリル殿下。きっととても可愛らしかったのでしょうね……」
「………」
フェアリル殿下は苦々しく眉を寄せるだけだった。それが答えなのだろう。気になってつい、私は尋ねた。
「肖像画とかないのかしら?」
「さあね。あっても見せない」
これは手元にある言い方だ。
私は椅子の手すりに手を置き、頬杖をついてフェアリル殿下を見上げた。
「えー?私の幼い時の肖像画を見せてあげるわ。等価交換よ。どう?」
「きみの幼い時はさぞ……今以上にお転婆だったんだろうね。自分で髪を切るなんて蛮行をしていなければいいんだけど」
「あのね、さすがにそんなことしないわよ!私をなんだと思ってるのかしら!?」
髪が長くて鬱陶しくはあったけど、流石にそんなことはしていない。言い返すと、本当か?と怪しんだ視線を貰った。失礼すぎる。
「まあいいわ……。あなたの幼少期の肖像画はあとから見せてもらうとして……」
「見せるなんて一言も言ってないんだけど?」
「私とあなた、結婚するってことで……いいのかしら?」
言っていて、頬に熱が集まる感覚があった。
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