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対話チャレンジ……?
しおりを挟む「──」
彼はなにか言いかけたようだったけど、結局やめた。その代わりに大きなため息をついた。
「な、何かしら……。というかここはどこなの?どうして私はここにいるのかしら」
「僕はきみに選択肢を与えたよね?」
何の脈略もない言葉にうろたえる。
フェアリル殿下は私のベッドに腰を下ろし、私を見下ろした。何を考えているのかよく分からない目だ。
「え、ええ……。そうね?それで、ミーナは?ジェイクに……それにレベッカ──」
「彼らは無事。魔獣に体当たりされて満身創痍なのはきみだけだよ」
「あっやっぱり!?やっぱり突撃されたのね!?」
どおりで体のあちこちが痛いわけだ。
納得がいくと同時に、体を見るのが怖くなってくる。
(ミーナたちは無事なのね……。良かったわ。本当に)
あの時はミーナを除き全員生死不明だったので、ほっと息を吐いた。フェアリル殿下はそんな私を見るとおもむろに私の髪を撫でた。
「熱を当てているわけでもないのに、きみの髪はくるくるしてるんだね」
「地毛なのよ。くせっ毛っていうのかしら」
「……僕の妹はきみと同じ金髪だけど、ストレートだから。きみのように髪をカールさせるために毎朝熱を当てているようだよ。さぞ羨ましがるだろうな、この髪を」
「髪を……?あんまり考えたことないけど、雨季は最悪よ。髪が爆発するもの。質量二倍よ」
その様子を想像したのか、失礼にもフェアリル殿下は本人目の前にして吹き出して笑った。本当に失礼だと思う。
「それで──ああそう。選択肢の話だった。単刀直入に言うね?きみ、今生きてるのが不思議と言ってもおかしくない状況なんだよ」
「…………へっ!?」
素っ頓狂な声が出た。突然そんな話してくる!?というか、えっ!?
理解出来ずに目を丸くしていると、フェアリル殿下が可哀想なものを見る目を向けてきた。ちょっと腹が立つ。
「逆に──どうして生きてるの?って状態かな。不思議だね」
「不思議だね……じゃないわよ!ちょ、まっ。どういうこと?説明を求め──いたぁああ!」
憂い顔でまるでセリフを読み上げるように綺麗な顔で言ったフェアリル殿下に食ってかかるように勢いよく体を起こそうとして、自滅する。
全身痛い。泣きそうだわ。ほんとに。
「覚えてないの?きみは、辺境の迷いの森の瘴気を浄化して力を使い果たしてる。もともときみは呪われてたんだろ?そんな状況で力を使ってみろよ。普通に死ぬでしょ。あまり呪術に詳しくない僕ですら予想がつく」
「………でも、私は生きているわよ?」
「それがおかしいんだよ。見ろ、きみの胸元のネックレスに繋がるナイフを」
言われて、大人しく胸に下げているチェーンを手繰り寄せる。その先には、重たさのあるナイフ。物理的に刺すことは出来ないとわかっていても、胸元にナイフを下げるのは慣れない。
フェアリル殿下のいうとおりナイフを怖々と確認して──ひゅっと息を飲んだ。
「わ、わあ……」
そして、意味の無い言葉が零れる。
ナイフには【0】と記されていた。
タイムリミットになった、ということだろう。そのまま固まる私に、フェアリル殿下が前髪をかきあげた。
「つまり、そういうことだから。きみは今生きるか死ぬかの瀬戸際。いや、死んでいておかしくない状況下にあるんだよ」
……多分このひと、自分の顔の良さを自覚しているんじゃないかしら。前髪をかきあげるその仕草にナルシズムを感じ取っていると、彼がちらりともじろりとも取れる目つきで私を見た。
「余裕がありそうだね、相変わらずで何よりだけど」
「あなたはピリピリしてるわね……。まあ落ち着きなさいよ。とにかく私は今生きてるのだし。すごく体は痛いけど」
なぜ私が宥めなければいけないのだ?と思いながら声をかける。そうすると、フェアリル殿下は珍しく声を荒らげた。
「それがいつまで続くかは分からないだろ!」
びっくりして目を丸くしていると、彼は息を吐いた。彼自身だいぶ混乱しているようだ。
「──とにかく、時間が無いんだよ。軽口を叩いている余裕はない。言ったよね?きみが僕の元に来たら、僕はきみに|協力する(・・・・)こともやぶさかではないって」
「いや、だからそれはお断り……」
(あら?してなかった?)
とにかく、婚約者がいるという男に不義を働かせたいと思うほど自分本位な生き方はしていない。私が首を横にふると、右手首をがしりと掴まれた。その冷たさに驚いた。
「あなた、手冷た──」
「婚約者の件はどうにでもなる、どころか向こうの方から辞退してきた。事情が変わったんだ」
「えっ?」
思わぬ言葉に目を丸くする。
フェアリル殿下はそのままぐっと顔を近づけて、真剣な眼差しで言葉を続けた。
「僕と彼女の婚約は偽装婚だった。その真実が──彼女の親に気づかれた。偽装婚は破談だ」
「へ?えっ?あの?」
「事情は理解した?じゃあ、始めようか?」
そう言いながら、どんどん距離が縮まっているような気がして思わず彼の肩を押した。
「なんだか近い気がするわ」
「ベッドに乗り上げてるから、そうだろうね」
「ちょっと、何する気なの?!本気なの?」
「言ったでしょ。僕はあの時に覚悟を決めた。きみはどうなの?」
──ちょっと、理解が追いつかない。
これはつまり、どういうことなの?
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