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酩酊

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「はー、寒くて困ってしまうわ!この雪、いつになったら収まるのかしら?」

窓越しに空を見る。生憎の曇天で、窓には結露が付着していた。羽織ったケープを胸元で合わせると、ひょいと私の背後から彼が窓を覗き込んだ。

「しばらくは雪が続くと思うよ。きみそんなに寒がりだったっけ」

「私が寒がりなのではなく、この国が寒いのよ。この時期、こんなに寒くなるなんて聞いてないわ……」

「まあ、言ってないしね」

彼の言葉に頷きつつ、暖炉の前のソファに座って暖を取る。この国は、緯度の問題か我が国よりも冬は冷える。

「ねえ、雪がやんだら外に出ましょうよ」

ふと思いつきのまま口に出した言葉は、良さげな案に思えた。振り返って彼を見ながら言うと相変わらず気難しそうな顔をしている。このひとはいつも、悩み事があります、みたいな顔をしていると思う。

「嫌?」

「外って、城下?それとも遠出?」

尋ねてみると、ちゃんと考えていたらしい。
気難しい顔をしているからてっきり嫌なのか、それともほかに問題があるのかと思えば。前向きな彼の言葉に私は前のめりになって言う。

「どちらもいいわね!私、この国のことあんまり知らないの。案内してちょうだい?」

「僕もあまり外には出たことがない」

「ええ?あなた███でしょう?そんなことあるの?私なんて国にいた時は毎日……とまではいかないけど、よく抜け出していたわよ?」

「きみがむちゃくちゃなのは今に始まったことじゃないけど、きみの側近には同情するよ。限りなく嫌な護衛対象だね、常にどこにいるかわからないなんて」

「常にじゃないわ。たまによ」

「勝手に城を抜け出すこと自体がありえないんだよ、きみは王女だろ?███ならまだしも」

「でもあなたは篭ってばかりでしょ?囚われのお姫様♡」

からかって笑うと、彼はあからさまにムッとした顔をした。こういうわかり易いところは嫌いじゃない。むしろ、好ましく思う。

なんていうのかしらね、可愛いって感じ?

そう思いながらニマニマしていると、意外と短気な███は優雅な足の運びで私の元まで歩いてきた。そのまま、ごく自然な動作で私をソファに押し倒す。

「あら?あらあら?」

「外は生憎の天気だし、今日はもう眠るだけだし、こういうことをしても許される時間だと思うけど、きみは?」

相変わらず綺麗な顔だ。憎らしいくらい。まつげ長いわね……。
そんなことを思いながら、私は思わず吹き出していた。

「外の天気は関係ないわよ?」

「そう?ま、理由なんてどうでもいいんだけどね」

寝る前で薄着だったので、すぐに彼の手は私の肌にたどりついた。すこしひんやりしている。冷たい、と笑うと「すぐに慣れるよ」と突き放すように彼が言う。まだ機嫌を損ねてるらしい。




「ふ、ふふ………っ。ねえ、囚われのお姫様って言われたの、そんなに嫌だったの?……フェアリル」

彼の名前を呼んで──

「───」

そのあと、彼はなんと言っていただろうか?
自然に意識が浮上して、急激に実感が湧いてくる。手に触れる感覚、思考がクリアになる。

「──?」

なんだか、とても眠った気がする。
瞬きを何度か繰り返して、首を動かそうとして、思わず呻き声が漏れた。

「うっ……ぐ」

(いたたたたた、痛い!!!重い!!なにこれ?!)

体が全体的に痛い。太ももに、ひざの裏?みぞおちに、二の腕?肩?背中?全てが痛い。
その上、鉛でもつめこまれたのごとく、体が重たかった。辛うじて視線は動くので視線を巡らせるが、煌びやかな装飾に彩られた天井が目に入るだけで全く状況をつかめない。

(ええと……?私、一体何があったのだっけ……?)


確か──そう。
デスフォワードに戻る途中、勉強の森の付近を通って──

(そうだわ!ミーナは無事?それにレベッカも……ジェイクも!)

彼女達の安否が気になって仕方ない。バネ仕掛けのように飛び起きようとしたところで、先程の二の舞となりベッドに沈みこんだ。

「───!───!!」

痛い。とても痛かった。
涙目で耐えていると、不意にかたん、と物音がした。

(え、誰かいる!?)

というか、ここはどこなのだろう?
いや、本当に。

(とりあえず、痛みがあるということは私は死んでいない、のよね?)

どうして今ここにいるのか分からないけど、人がいるなら都合がいい。状況を早く把握しなければ。そうおもって、室内にいる誰かに声をかけようとしたのと、ベッドを覆う天幕がしゃっと引かれたのは同時だった。

「──!」

相手が息を飲む。
綺麗な碧眼が見開かれる。
相変わらず女性的な美貌だ。
そんなことを頭の片隅で思いながら──私は彼の名を呼んだ。

「え……フェアリル殿下!?」


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