〈完結〉意地悪な王子様に毒されて、絆されて

ごろごろみかん。

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≠動物愛

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「………そう。俺の婚約者の侯爵令嬢は病弱なんだ。だから、王太子妃、ゆくゆくは王妃の務めを果たせるのか、長年議題になっていた」

「ですから彼女を捨てると?」

「そうは言ってない。これはお互いのメリットの話をしてるんだ」

「私の望みはあなたの白いものをいただくことだけです」

「相変わらず言い方が卑猥だな、俺はデスフォワードの王女を妃にでき、あなたの国と縁故を結ぶことが出来る。それできみは、呪いがとける。ウィンウィンだ」

「あなたのご婚約者の気持ちはどうでもいいと」

「それをきみがいう?………その婚約者に、僕の子種を絞るよう提案していたきみが?」

フェアリル殿下の、私の手を掴んでない方の手が、つぅ、と私の頬を撫でた。思わずその刺激にびくりとすると、フェアリル殿下は薄く笑みを浮かべた。暖色系の柔らかな灯りに照らされて、彼の髪がいつもよりしろちゃけて見える。
彼はその白金のまつ毛をそっと伏せると、私に囁くように言った。

「あまり騒がないほうがいい。騎士が押し入って、この状況を見られたら困るのはきみだよね?」

「………いま、私は悩んでいますの」

「僕の妃になるか、この場で破瓜するか?」

「あなたの股間を蹴りあげるべきか、否か。だけどそれでちゃんと機能しなくなったら、それはそれで困、ひゃぁあああ!?」

手首をシーツに縫い止められて、そのまま強く首筋を吸われた。ぢぅ、という音がした。

「何をなさるの!何をなさるの!?」

「うるさいな。少し黙ってくれないか?」

「肌を舐めるなんて特殊性癖がございますの?」

「口を閉じろって言わなかった?」

きみは絶望的なまでに色気がない、とは彼のお言葉だ。しかし色気などなくて結構である。子種入手のために必要最低限はないと仕様上困るかしら?とは思うがこの場面では絶対に不要である。いや、むしろあればあるほど窮地に追い込まれるに違いない。私はさほど色っぽい見た目ではないが、思考回路に|支障(バグ)をきたしている彼にはどう見えているか分からない。

「俺にはそういう趣味はないが……」

「そういう趣味!?いわゆる寝取り寝取られというやつですの!?」

「品のないことを言う口は塞いでしまおうか」

よくある民衆雑誌に出てくる小説の男のようなことを言うとフェアリル殿下は私の口になにかを突っ込んできた。もごもごするわ!これは何?布?

「んむむ!」

「暴れないで。デスフォワードの王女、俺も少し……きみの傍若無人な態度に頭にきていたのかもしれない」

頭にきているからって婦女暴行!?紳士がなさることとは思えないわ!
そう反論したかったが、しかし悲しいことにそれは盛大なブーメランとなって自身に突き刺さったのだった。淡いイエローレモンのドレスは胸元が空いているので、生地を抑えればぽろりとこぼれ落ちてしまう。そう。私の胸が。

「んんんんーーー!んんぅうう!」

「きみは口を塞いでもうるさいな!ある意味才能だよ!」

そんな才能欲しくないわ!!
しかしフェアリル殿下はそういいながらも手を止めることはなく、私の胸におそるおそる、といった手つきで触れてきた。
その手つきにやはり彼は女性経験がないのかと推測が頭をだすが、それどころではない。これは彼の婚約者への裏切り行為である。何としてでも止めさせなければならない。
とにかく行為を中止させるために彼の髪をがばっとつかむ。そのまま引っ張ろうという魂胆だった。
しかし。

(え、ええ……?さらさらすぎて握れないとか、そんなことあるのっ……!?)

彼の髪は女性でも滅多に見ないほどさらさらのするするで、指先からこぼれてしまった。その髪質に愕然としていると、私が彼の髪をすこうとしていると勘違いしたのか、彼が少し困ったような顔をする。

「僕に触れたい?」

首を横に振る。
触りたいは触りたいけれど、意味が異なる。
彼の髪を引っ張って止める作戦は失敗だ。男性の髪がこんなにさらさらだなんて思ってもみなかったわ。おそらく、というか高確率で私の絡まりやすい細い髪よりもさらさらでするするなのだろうと思うと複雑な怒りが湧き上がった。絶対に男性には不要なものである。髪質だろうか?素直に言って羨ましい。
フェアリル殿下はなんだか私を可哀想なものを見る目で哀れんできた。なぜ。

「なんだかいまのきみ……捕獲された南国ゴリラのようだね。野にかえさなければという気になってくる」

とんだ暴言である。
私がゴリラならあなたはゴリラに発情するド変態になりますわ!!と叫びたいのに口が塞がれて何も言えない。ふごふごと実に王女らしからぬみっともない声を出すと、彼が薄く微笑んだ。

「こういうの……なんていうのかな」

(そんなの私が知るわけないじゃない!)

「分かった。これは、」

フェアリル殿下は妙に優しい顔で言った。

「動物愛だ」

「んんんんんー!!」

納得がいかない!納得がいかないわ!
誰がゴリラよ!少なくともこの可憐で美しく可愛らしい、人形のようだと褒め称えられがちの私が!全身毛むくじゃらのあの動物とどこが似てるって言うのよ!
口に布を突っ込まれているために涙目で抗議していると、フェアリル殿下はそれはそれは難しい顔をした。こんなに難しそうな顔をする彼を見るのは初めてだ。

「そうなると俺は、すなわちメスゴリラに搾精される哀れな人間か……」

とても反論したい。
私はにっこり笑って足で王太子のお腹を蹴りあげた。手は抑えられても足は自由なのよ!油断したわね。相手はゴリラなのよ!!
開き直って私は野生動物もかくやという勢いで暴れることにした。


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