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提案しましょう
しおりを挟む「冷たっ………」
「少しは我慢しろ。精液ぶっかけられた状態では会いたくないだろう?」
「それは……そうだけど」
言いながらもどこか釈然としない。
そんな私を横目に、王太子が侍女を呼ぶ。呼ばれた侍女は王太子の言葉を聞いてすぐに濡れたタオルを持ってきた。それを手に取って彼はまた部屋に戻ってくる。ひとりのところを見るとどうやら侍女は追い返したらしい。
ーーーこれは早いところ何とかしないと、誤解をうみかねないわ
誤解も何も、フェアリル殿下と性的な関係を持っておいて何を今更、という感じだが。私の目標は生きることであり彼らの仲をさくことではない。悩みながら、私はひとつの提案を思いついた。だけど口にするのには少しはばかられる。
王太子はソファの下に座り込んだままの私の横に膝をついて、無造作に顔を拭っていく。その配慮のない手にいさかか腹が立って、その手からタオルを奪った。
「…………ねぇ」
「何かな。用はもう済んだなら早く部屋に戻ってくれないか」
「あなたの婚約者にご助力願うのは、ダメかしら?」
私の言葉にフェアリル殿下は目を丸くした。
私はいただいたタオルで顔を丁寧に拭いながら、説明していく。その端正な顔が驚きに見開かれたのも束の間。すぐに嫌そうな表情になる。初日は貼り付けたように淡く微笑んでいたその表情だが、今は見る影もない。
「きみの突飛な思考には慣れてきたが………いや、いい。聞いてやる。何だって?」
あら、意外と優しい。ふざけたこと抜かすな、と部屋から追い出されるかと思ったのに。
「あなたの婚約者に、搾って貰えばいいのよ」
「………ひとまず、その発言は置いといて。きみのその品のない発言はなんなんだ?」
「あら、なにかダメだったかしら」
「どこの王女が、搾るだとか精液だとか言うのかな。きみにはもう少し品位というものを知ってもらいたい」
「言ったじゃない。世の中女性というのはみんなこういうものよ。あんまり女性に夢を見ていると痛い目に、痛ぁっ!」
言い終わる前にフェアリル殿下の白い指先が伸びて、そしてびにょーんと頬を引っ張られた。思わず悲鳴をあげる。何すんのよ、何すんのよ………!!
「体裁は取り繕えって言ってるんだよ、分かるかな?サバンナの王女?」
「デスフォワードの王女です~!!」
「うるさい。とにかく、少しは口に気をつけろ。痛い目を見たくないだろ?」
「あなたは気持ちいい目にあったものね」
「………」
ぴきり、とその頬がひきつったのを見て、私は退散時だと決めた。これ以上彼を怒らせるのはまずい気がする。
その時にはっと気づく。慌てて胸元のナイフを手繰り寄せた私を見て、彼もまたそれを見る。
「生涯の呪いか………」
苦々しげに王太子が言う。
私はそれを横目にナイフの数字を確認した。そして、息を飲む。
「復活してる………!!」
そう、花が咲き誇っていたのだ。先程の残り数字は消えている。私は安堵のあまり力が抜けた。
「だけど、呪いがとけるには至っていないな」
「…………そうよね…………。やっぱり契らないとダメなのかしら…………。いっそ、飲む量をふやせば………ううん。あんなクソまずいものそんなに飲みたくないわ………」
「きみ、今ものすごく失礼な発言をしてるってわかってるかな」
フェアリル殿下の言葉を聞きながら私はナイフを胸元へと戻した。ひとまず、窮地は脱した。だけどこれから…………。まさか、定期的に精液を摂取しなければならないということ?しかもフェアリル殿下の?この、口の中に出されたら思わず吐き出してしまいそうな程に不味かった精液を…………!?
目の前がクラクラした。だけど、仕方ないわ。何よりも命のためなんですもの………!私が生きるためには仕方ない。私はちらりとフェアリル殿下を見て言った。
「殿下は口にしたことがないからそんなことを仰るのよ」
「僕がそれを口にしたことがあったらその方が問題だろ」
「これは人が飲むようなものじゃありませんわ」
「まあ………そうだろうな」
あら、そこは同意するのね。意外。
私は殿下からいただいたタオルで一通り吹くと、そのまま部屋を出た。殿下はどことなく疲れた様子だった。精液を出すのってそんなに疲れるのかしら………。というか、あれ本当にものすごくクソまずいわ。あの味、なんとかできないかしら………。そういえば聞いたことがあるわ。精液の味って、変えることができるって。確か、果物や野菜ばかり食べる方の精液はどことなくフルーティーで臭みがないらしいとか………。殿下に今度提言してみようと決めた。
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