〈完結〉意地悪な王子様に毒されて、絆されて

ごろごろみかん。

文字の大きさ
上 下
8 / 61

提案しましょう

しおりを挟む

「冷たっ………」

「少しは我慢しろ。精液ぶっかけられた状態では会いたくないだろう?」

「それは……そうだけど」

言いながらもどこか釈然としない。
そんな私を横目に、王太子が侍女を呼ぶ。呼ばれた侍女は王太子の言葉を聞いてすぐに濡れたタオルを持ってきた。それを手に取って彼はまた部屋に戻ってくる。ひとりのところを見るとどうやら侍女は追い返したらしい。

ーーーこれは早いところ何とかしないと、誤解をうみかねないわ

誤解も何も、フェアリル殿下と性的な関係を持っておいて何を今更、という感じだが。私の目標は生きることであり彼らの仲をさくことではない。悩みながら、私はひとつの提案を思いついた。だけど口にするのには少しはばかられる。
王太子はソファの下に座り込んだままの私の横に膝をついて、無造作に顔を拭っていく。その配慮のない手にいさかか腹が立って、その手からタオルを奪った。

「…………ねぇ」

「何かな。用はもう済んだなら早く部屋に戻ってくれないか」

「あなたの婚約者にご助力願うのは、ダメかしら?」

私の言葉にフェアリル殿下は目を丸くした。
私はいただいたタオルで顔を丁寧に拭いながら、説明していく。その端正な顔が驚きに見開かれたのも束の間。すぐに嫌そうな表情になる。初日は貼り付けたように淡く微笑んでいたその表情だが、今は見る影もない。

「きみの突飛な思考には慣れてきたが………いや、いい。聞いてやる。何だって?」

あら、意外と優しい。ふざけたこと抜かすな、と部屋から追い出されるかと思ったのに。

「あなたの婚約者に、搾って貰えばいいのよ」

「………ひとまず、その発言は置いといて。きみのその品のない発言はなんなんだ?」

「あら、なにかダメだったかしら」

「どこの王女が、搾るだとか精液だとか言うのかな。きみにはもう少し品位というものを知ってもらいたい」

「言ったじゃない。世の中女性というのはみんなこういうものよ。あんまり女性に夢を見ていると痛い目に、痛ぁっ!」

言い終わる前にフェアリル殿下の白い指先が伸びて、そしてびにょーんと頬を引っ張られた。思わず悲鳴をあげる。何すんのよ、何すんのよ………!!

「体裁は取り繕えって言ってるんだよ、分かるかな?サバンナの王女?」

「デスフォワードの王女です~!!」

「うるさい。とにかく、少しは口に気をつけろ。痛い目を見たくないだろ?」

「あなたは気持ちいい目にあったものね」

「………」

ぴきり、とその頬がひきつったのを見て、私は退散時だと決めた。これ以上彼を怒らせるのはまずい気がする。
その時にはっと気づく。慌てて胸元のナイフを手繰り寄せた私を見て、彼もまたそれを見る。

「生涯の呪いか………」

苦々しげに王太子が言う。
私はそれを横目にナイフの数字を確認した。そして、息を飲む。

「復活してる………!!」

そう、花が咲き誇っていたのだ。先程の残り数字は消えている。私は安堵のあまり力が抜けた。

「だけど、呪いがとけるには至っていないな」

「…………そうよね…………。やっぱり契らないとダメなのかしら…………。いっそ、飲む量をふやせば………ううん。あんなクソまずいものそんなに飲みたくないわ………」

「きみ、今ものすごく失礼な発言をしてるってわかってるかな」

フェアリル殿下の言葉を聞きながら私はナイフを胸元へと戻した。ひとまず、窮地は脱した。だけどこれから…………。まさか、定期的に精液を摂取しなければならないということ?しかもフェアリル殿下の?この、口の中に出されたら思わず吐き出してしまいそうな程に不味かった精液を…………!?
目の前がクラクラした。だけど、仕方ないわ。何よりも命のためなんですもの………!私が生きるためには仕方ない。私はちらりとフェアリル殿下を見て言った。

「殿下は口にしたことがないからそんなことを仰るのよ」

「僕がそれを口にしたことがあったらその方が問題だろ」

「これは人が飲むようなものじゃありませんわ」

「まあ………そうだろうな」

あら、そこは同意するのね。意外。
私は殿下からいただいたタオルで一通り吹くと、そのまま部屋を出た。殿下はどことなく疲れた様子だった。精液を出すのってそんなに疲れるのかしら………。というか、あれ本当にものすごくクソまずいわ。あの味、なんとかできないかしら………。そういえば聞いたことがあるわ。精液の味って、変えることができるって。確か、果物や野菜ばかり食べる方の精液はどことなくフルーティーで臭みがないらしいとか………。殿下に今度提言してみようと決めた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...