〈完結〉意地悪な王子様に毒されて、絆されて

ごろごろみかん。

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表情にでないんですわ

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「………なるほど。確かに、これは本物だね。面倒な術式を必要とするこの呪いを受けるとは、よっぽどの恨みを買ったんだね」

買ったのは私ではないが、余計なことは言わないでおく。フェアリル殿下は一通りそれを眺めたあと、私にナイフを戻してきた。私はそろそろとそれを受け取った。

「それでーーーきみはどうしたいんだっけ」

わかってて聞いてるわね、こいつ。
私は気持ちを奮い立たせて、彼に告げた。

「精液を寄越しなさいよ。これも人助けよ」

「なんでそんなに偉そうなのかな………」

もうここまで来てしまえば開き直るしかない。私は強気に出ることにした。これでダメなら縋って、それでもダメなら押し倒して何としてでも絞らせてもらう。
私の意思は強かった。

「あなたに婚約者がいることは知っているわ。だから契るきはないの。だけどこのままみすみす死ぬのも嫌。だから、あなたの精液をいただくわ」

「未婚の淑女が何度もそう、品のない言葉を言うのはよくないと思うよ」

「じゃああなたの真っ白でとろとろで命の元になる………?粘液質な液体を早く出して」

確か、精液はそんな内容だった気がする。私が口早に言うと、フェアリル殿下は微妙そうな顔をした。

「さっきより卑猥になってる………」

「いいじゃない。お願いよ。ボランティアだと思って。あなたもみすみす隣国の王女を見殺しにはしたくないでしょう?」

「隣国か………。僕には関係の無い話だけどね」

「酷い。あなたは目の前にいる淑女の命を見捨てるの?紳士に有るまじき行為よ」

私はとにかく、何がなんでも精液をいただきたかった。この呪いは契ることでしか解除できないようだが、精液をいただくーーーすなわち体内に取り込めばそれは擬似的に契ったこととみなされないだろうか。みなされてほしい。

「淑女は精液だとか、そんな卑猥な事を言わない」

「ご存知ないの?ほとんどの淑女は猫を被っていて、女性同士の集まりになると赤裸々になりますのよ」

そう言うと、ますます王太子は苦い顔をした。
しかし逃がしてたまるか。この気を逃がしたら、多分もう絶対フェアリル殿下は私を近づけないと思う。
最悪祖国に追い返されるのだってありうる。私だってわかっている。どんなに言い繕ったところでこの行為は不貞と見なされる。

…………不貞?
そうよ、それなら不貞と見なされないようにすればいいのだわ!

「殿下、殿下はもちろん夜のご経験はございますよね?」

未だに押し倒された格好のまま、嫌そうにフェアリル殿下は答える。

「急に何………」

「ありますわよね?」

「………あるけど」

ぶっきらぼうに答えたフェアリル殿下に、私はにっこり笑って言った。というより、この繕わない感じ。さてはこちらがこの方の素なのね。こっちの方が断然いいわ。あんなお人形みたいな王子様よりもずっと。

「では、私のことを商売女だと思えばよろしいのよ。私は、一夜限りの女。行きずりの関係でもよろしくてよ」

「笑えない冗談だな。こんな気取った女がいてたまるか」

「たまにはよろしいじゃない。なんでもいいから、早くさっさと出してちょうだい」

そう言って私は恐らくそこだろう、と当たりをつけたふくらみに手を伸ばす。しかし触れるより先にがっと手を掴まれた。

「こういうことは慣れている?リリアンナ王女」

「まさか。こう見えても私は誇り高いデスフォワード国の王女ですのよ」

「その王女自ら男のものに触れようとしてくるとはね」

「命がかかってるのだから当然ですわ」

「当然、当然ね………」

そう言いながらフェアリル殿下は立ち上がった。私はそれを見て、叫ぶ

「精液!」

「ちょっと………!静かにしてくれないかな。万が一近衛が来たらどうす………って、きみ。どうやってこの部屋まで来たの?入口は近衛が守っているし………」

「バルコニーよ」

それだけ言えば、私がここまでどうやってきたのか分かったのだろう。立ち上がったフェアリル殿下はやはり微妙そうな顔をしている。

「きみ、本当に王女?サバンナで生まれた野生児と言われても納得しそうなんだけど」

「あら、失礼ね。こんな綺麗な王女を捕まえて野生児だなんて。あなたの女顔もよっぽどだと思うけれど」

そう言うと、フェアリル殿下の口元が固まった。ぴくり、とひきつっている様子からどうや
ら気にしているようだ。
私は美しいと思う。それは何もうぬぼれではなく、ただの事実。波打つ金髪は一本一本が細く、肌は抜けるように白い。紫色の瞳は鮮やかで、まるで宝石のようだと称えられること数しれず。あまり太らない家系の遺伝子のおかげで、どんなに食べても太らないというおまけ付き。しかも、体つきは華奢。庇護欲をこれでもかというほどそそる体つきをしている自覚はある。

「それで?私に精液をくださるのかしら」

「………わかった」

意外にも、王太子はすんなりとそう言った。
私が目を丸くしていると、王太子はため息混じりに答える。

「リリアンナ王女。きみのその気の強さは美徳だが、同時に大きな欠点にもなることをしったほうがいい」

「何が仰りたいの」

「人の気持ちを汲み取れない痴れ者は嫌われるという話だよ」

「…………」
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