〈完結〉意地悪な王子様に毒されて、絆されて

ごろごろみかん。

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とっとといただきますわ!

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なら、出るとしたら窓からである。
窓を開け、バルコニーに出る。ちらりと隣を見れば、ギリギリ足が届く範囲に隣室のバルコニーがあった。飛びうつれば、いける。ええ、恐らく。
私は祖国でも見せたお転婆ぶりを発揮しながら隣のバルコニーへとうつった。
その要領でどんどん部屋を移動していく。やがて、端の方まで来るとようやく部屋に入り、そして部屋から出た。周りを見てほっとする。見回りはいないようだった。

予めミーナに探らせて知っておいた王太子の部屋へと向かうと、騎士がその部屋を守っていた。
そうよね、そうよね~~!!
普通騎士が守ってるわよね。だけど誰にも知られずに部屋に入るには、この騎士たちを突破しなければならない。
私は王太子の部屋から近く、そて騎士に気づかれない範囲の部屋に入ると、そのバルコニーに躍り出た。そして、先程と同じ要領で部屋を渡っていく。
もしこれを誰かに見られたらお転婆どころで済まされないだろう。猿王女とすら言われるかもしれない。

途中何度か足を踏み外しそうになり、その度に眼下に迫る景色に息を飲んだ。呪いで死ぬより早く、落下死しそうである。

王太子の部屋のバルコニーにようやく着地した。ほっと息を吐く。
自分のやっていることがとんでもない自覚はあったが、仕方ない。命がかかっている。私は自分の命がおしい。

王太子の部屋に無事つくと、私はバルコニーからそっと中を見た。王太子はまだ起きているようである。部屋からあかりが漏れている。
窓は空いている。よかった。これで閉まってたらどうしようかと思った。私は窓をそっと開けて中に入る。音を立てないように慎重に彼の元に向かう。気分は暗殺者だ。もっとも、私がすることは暗殺とは程遠いことだが。忍び足で彼の後ろに回り込む。王太子は気づかない。

そして、そのまま足音を殺しながら彼の真後ろへとたつとーーー

ビュッ、と風を切る音がした。

驚きで息を飲む。

「ーーー誰だ?」

低い声で問われ、思わず息を止める。
王太子は、男性にしては高い、フラットな声をしている。少し甘さすら感じるその声が、今は唸るように低い。

首に突きつけられたのは彼の剣。
柄に細やかな装飾が施されている。彼がゆっくりとこちらを向きーーーそして、驚いたように息を飲んだ。それを見て、ようやく私は金縛りが解けた。
迷っている暇なんてない。一瞬が命取り。このチャンスを逃がしたら、間違いなく次はない。直感的にそう感じた。

「ごめんあそばせ!どうしてもあなたの精液が必要なの。そうしないと私、死んじゃうのよ!!」

私は王女として信じられない言葉を吐きながら彼へと飛びかかった。そう、文字通り飛びかかったのだ。

「は?一体何.……うわっ!」

飛びかかられたフェアリル殿下は哀れ、そのまま床へと頭をぶつけた。痛そうな音がする。それを聞きながら私は申し訳なく思った。これをやめるつもりはないけれど。
私は手早くナイトドレスのポケットにしまっていたカーテンを縛る紐を取り出した。
手加減なぞ知らんとばかりに手首をきつく結ぶ。フェアリル殿下は意外にも大人しかった。混乱しているだけかもしれない。

「リリアンナ王女………。きみは一体どういうつもりだ?」

「先程も申し上げました通りよ。私に、あなたの精液を恵んでちょうだい」

「意味がわからない」

でしょうね。
私はそれを聞きながらも彼の下衣に手をかける。経験こそないが、私はなかなかの耳年増である。趣味は恋愛小説を読むこと。最近の恋愛小説ってなかなかにハードなのよね。緊縛や目隠しまでしちゃうなんて、もはや官能小説だわ。そんなことを思いながらフェアリル殿下の下衣を下ろそうとするが、どういう仕組みなのか上手くいかない。

「こういった状況は初めてじゃないけど、まさか隣国の王女に襲われるとは思わなかったな」

加えてフェアリル殿下は余裕である。
本当は精液をいただいたあとに説明するつもりだったが、下衣が上手く脱がせない以上、場繋ぎのために私は口を動かした。
というか、初めてじゃないのね。まあ、こんだけお綺麗な顔をしていればそれもありうるか。
私は綺麗なものは好きだが、それだけだ。あまりきらきらしいと眩しくて、胃もたれしてしまう。私のタイプは無害そうな顔をした男性である。優しく、虫も殺せないような顔をしている男こそが好みのタイプだ。一言で言って王太子とはタイプが違う。

「仕方ないんです、私の命がかかっているんですもの」

「さっきも言ってたね。命ってどういうこと?」

「『生涯の呪い』ってご存知でしょう?それをかけられてしまったのですわ」

「生涯の呪い………」

フェアリル殿下は魔法にも精通しているらしいし、こう言えばきっと通じるだろう。そう思って言えば、予想通り彼はなるほど、とでもいいたげな顔をしていた。生涯の呪いとはあのナイフの呪いのことである。

「相手はあなたなのですわ、フェアリル・ユノン・エルヴィノア殿下」

「………なるほど。それで僕の名前を知っていたんだね」

「証拠だってあるのです。ほら」

そう言って彼の下衣から手を引き、胸元に下げたナイフを差し出す。このナイフは人を切れない。呪術で出来たものだからだ。
ネックレスにしては少し無骨なそれを胸元から引き出し、フェアリル殿下に見せる。そうすると彼はナイフに手を伸ばして、それを受け取った。

ーーー手を伸ばして?

「ちょっ………あなた!手!」

「ああ、これ?リリアンナ王女は人を縛ったことがないんだね。あまりに手加減されないから、骨が折れるかと思ったよ」

「そっ………れは、」

すみません……と小さく謝るが、しかしフェアリル殿下は何も言わなかった。拘束が解かれた。まずい。この状況がまずいことはいくら私でもわかる。
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