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三章

何もかも、全てをぜろに。消去して

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長い、夢を見ていたようだった。
目が覚めて一番に私が感じたのは、喉の痛み。

……どうして、こんなに喉が痛いの?
不快感を覚えて、何度か咳き込んだ。
そうすると、誰かが私の口に吸い飲みを押し当てた。そっと吸うと、冷たい水が喉に入り込んでくる。
喉が渇いていたのだろう。ごく、ごく、と長い間飲み続けていた。
やがて口を離すと、吸い飲みもまた離れていった。

誰だろう?
甲斐甲斐しく面倒を見てくれているから、メイド?

……あら?でも私、どうして……。

なんだか、大切なことを忘れている気がする。

どうしてだろう。
早く動かなければ、と何かが私を急かした。

でも、すごく眠いのよ。
まだ寝ていたいわ。
枕に頬を擦りつければ、すぐにとろりとした睡魔が襲ってきた。

……ああ、ずっと、眠っていたいわ。







ぱち、と目を覚ますと眩い光が目に入ってきた。
思わず顔をしかめる。

「……まぶしい」

小さく呟くと、がたっと物音がした。どうやら室内には誰かいるようだ。メイドだろうか。
そう思って顔を動かすと、視界に入ってきたのはメイドでもなければ女性でもなかった。
驚きに目を見開く私に、そのひとは私を見て駆け寄った。

「メリューエル……!良かった、気がついたんだね……。ああ、神よ。この奇跡に感謝いたします……」

そのひとは私の手を両手で掴むと、額に押し付けた。
窓から差し込む日差しが彼の金髪を照らし、きらきらとした眩さを生んだ。くせっ毛なのか、ところどころ髪は跳ねている。
彼は無造作にその長い髪を胸元に流していた。
私の手を掴む彼の手は──震えていた。

「メリュー……エル。体調は?痛みはないか?顔色は……まだ悪いな。何か食べられそうなものは」

彼は忙しなく私に言った。
私の手をがっしりと掴んだままで。
顔を上げた彼を見て、私は驚いた。

あまりにも美しかったからだ。

切れ長の瞳は冷え冷えとした紺青色なのに、全く冷たさを感じない。
ただ、彼の瞳には私を心から案じるような慈愛と優しさだけが灯っている。
彼は首も手も顔も白いが、左目の目尻にはホクロがあった。それもまた、彼の冷たさに拍車をかけそうなものだが、そんな気配は全くないので、なんだか違和感を覚えるというか。アンバランスというか。

困惑する私に、彼がくしゃりと泣きそうな顔になった。
いや、泣くのを堪えているような顔というべきか。

苦しげな瞳で、切ない色を宿して、ただ真っ直ぐに私を見ている。

「……なにか、なにか……話して、くれ」

懇願するような声。
その声は酷く掠れていたが、聞き取りやすい低音で、色気がある。
苦しげな声だというのもまた、色っぽいな。そんなことを考えながら私は尋ねた。

「……あの、あなたはどなた?」


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