30 / 79
二章
悪い子 ※R18
しおりを挟む彼の手が私のそこに触れた。恥ずかしくて恥ずかしくて死んでしまいそうなのに、ふわりとミュチュスカの香りがして泣きたくなった。彼に触れられている。それは嬉しくてたまらないのに、どうしてこんなに苦しいのだろうか。は、は、と犬のように呼吸を繰り返した。
ミュチュスカは事務的な手つきで確かめた。その部分を上下に擦られて、熱い息がこぼれた。
「下着は濡れてないみたいだけど」
「あっ、あっ……やッ!?」
下着の隙間から、彼の指先が入り込んでくる。彼の指を如実に感じて、今度こそ私は後ずさりしそうになった。しかし、後ろは窓。逃げようにも逃げられない状態だ。
逃れようとしたのが分かったのだろう。ミュチュスカは私の腰をきつく引き寄せた。その距離の近さにまためまいがする。
いい香りだ。ミュチュスカの匂いだ。
シトラスにまじる、甘い、スパイシーな香り。彼の香水の名称は『聖夜の森林』であり、ジンジャーとスパイスが効いている官能的な香りなのだと調合師が話していたのを思い出す。私は彼の香りが大好きだ。この香りを嗅ぐと、ミュチュスカに包まれているような気になるから。
調合師を呼びつけて同じ香水を作らせ、邸宅の自室にも保管している。寝る時に枕に香りをつけると、とてもいい夢が見れそうだから。
でも、知らなかった。
私が知っていたのは香水の香りだけで、ミュチュスカ本人の香りが混ざるとこんなに男性的な、色っぽい匂いになるのか。
私だけが、知っている。
今は私だけが。
聖女はまだ、知らないはず。
そう思うと優越感が刺激された。
以前のように薬なんて飲んでいないはずなのにもう、私の体は出来上がっていた。ミュチュスカの指が少し触れただけで、甘い快楽が走る。
「ひぁっ……」
声を抑えることが出来ない私に、ミュチュスカがため息をついた。
「きみは堪え性がないね。こんなやらしい体でどうするの?俺以外の男に触れられてもこんなに反応するわけ?ほら、分かる?この音」
ねちゃ、という粘ついた音がする。
彼の指はまだ浅い所を触れているだけなのに、もうこんなに体は火照ってしまっている。きっと私の体は、ミュチュスカに無理にねじ込まれても快楽を得てしまうだろう。そのように出来ているのだから。私はミュチュスカの胸に頭を押し付けた。
「あなただって、知ってるくせに。ミュチュスカは意地悪だわ。私のこと嫌いなくせに……愛してなんていないくせに……」
最後は聖女のものになるくせに。
どうしてこんなふうに触れるのだろうか。
それなのに、そんな些細な触れ合いを嬉しいと感じてしまう私は、愚かだ。拒絶出来ればよかった。聖女のものになるミュチュスカを裏切り者と罵り、性欲を発散するだけの都合のいい女になりさがるつもりはないと平手打ちできるだけの強さがあればよかった。
でも、私にはできない。できるのは、ただミュチュスカにすがりついて零れそうなこの想いを口には出さないようにつとめるだけ。
なんて愚かなのだろう。
悲劇のヒロインぶっている自分に反吐が出る。でも、もしかしたら私は自分に酔っているのかもしれなかった。だって、こんなにも気持ちがいい。
「そんなに愛が大事?メリューエルの言う愛ってなに?示して見せてよ、俺に」
ぐ、と中に指をつきこまれた。
悲鳴のような嬌声が零れる。
「ぁっ、や、ァア!」
前回の夜で、彼はすっかり私の体を知ったようだった。慣れた仕草でなかを好き勝手に暴き、いとも簡単に私に声をあげさせた。
ぴんと足先に力が入った。
「ん、んン──ッ……!」
「あーあ、こんなに垂らして。下着ダメにする気?悪い子だね、メリューエル」
「ぁっ、ひゃ、ァ、ご、ごめんなさ、ごめんなさいっ、ミュチュスカ」
快楽に浮かされたままわけも分からずミュチュスカに謝った。頭にあるのはただひとつ。彼に嫌われたくない、という今更な感情。
そんな私をミュチュスカは冷たく見下ろした。そんな視線にすらぞくぞくと肌が痺れた。ああ、どうしようもない。
心はとっくにミュチュスカに囚われている。
そして今、身体をもまた、彼に縛られてしまった。
もう、逃げられない。
不意に、彼が指を抜き取った。
「……?」
窓に背を預けて顔をミュチュスカの胸に埋めていた私は、彼が急に離れたことに困惑した。見ると、ミュチュスカは濡れた指先を舌で舐めとっていた。あまりにも卑猥な光景に悲鳴が出そうになった。ひぅ、と言葉にならない妙な声を飲み込んだ私にミュチュスカが言った。
「ドレスの裾を持って。まくりあげて。出来るよね、メリューエル」
その瞳はいつものように冷たいのに──なぜか、逸らすことが出来ない。射抜くような力強い瞳だと思った。
私は濡れた瞳のまま、彼の言うことに従った。さっきよりも大胆にドレスをまくる。
そうするとミュチュスカは何も言わずにその場に膝をつく。
「やっ……!?」
「動かないで。暴れたら酷くする」
「な、なに……や、やだ。いや、ミュチュスカ……」
泣き声のような声が出た。
今にも泣きそうな顔の私をミュチュスカはちらりと見ると、視線を戻した。やめる気はないようだった。
「きみがここまで濡らさなかったら俺もこうはしなかった。きみの責任だよ?ほら、しゃんと立って」
「な、なに──ひぁっ!?あ、や、ぁ、あァ!」
彼の顔が下肢に埋まった。
まさか、と思ったらぺろりとその部分を舐められた。女の秘めた部分を。不浄の場所であるそこを、ミュチュスカが舐めている。あの、ミュチュスカが。
決してミュチュスカはこんな汚らわしいことをしないだろうと思っていた私にとってそれは、あまりにも衝撃だった。甲高い声が上がり、咄嗟に彼の肩に掴まった。ミュチュスカの熱い息が秘部にかかる。
118
お気に入りに追加
1,820
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる