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婚約者は、私ではなくお母様を愛している
しおりを挟む婚約者は、私ではなくお母様を愛している。
***
魔法使いが助けてくれるのは、いつだって綺麗な娘だ。
私のようにウェーブがかった黒髪の、そして瞳を隠すようなメガネをした不気味な女などではない。
新緑が芽吹く夏。
その王宮内では前代未聞の事態が巻き起こされていた。本来であれば婚式式の日取りを発表する場となるはずが、王太子が独断行動を起こしたのだ。
祝いの場になるはずだった夜会は大いに混乱し、緊迫した空気が漂った。
「マエラローニャ。なぜお前がこの場に呼ばれたのか知っているか?」
知っているも何も、今日は王太子ユーゴとの婚姻の発表となるはずだったのだ。マエラローニャが知らないはずがない。とはいえ、ここでいう王太子ユーゴの言う《呼ばれた意味》はマエラローニャが考えるそれとは別物なのだろう。マエラローニャは黙って無言を貫いた。
それに、ユーゴは鼻で笑う。
彼の隣には宵闇を編み込んだような、綺麗な黒髪の娘がいた。
彼女は怯えるようにしながらも、おずおずとマエラローニャを見た。
「はじめまして。マエラローニャ様。あたしはミリューアといいます。あの、あたしは………」
「俺はこのミリューアを愛している!!」
ミリューアと名乗った娘の紹介をさえぎって、ユーゴが高らかに宣言した。そのせいで、広間は異様な雰囲気に包まれる。
黒髪の美少女、ミリューアはその宣言に照れたように顔を染めた。だけどおかしい。
ユーゴは契約上といえど、マエラローニャの婚約者だったはずだ。それを大々的にほかの女を愛すしていると宣言する。マエラローニャは彼が何を考えているか分からない。
「このミリューアは、お前と違って声も鈴のように愛らしく、絹糸で紡いだかのようなサラサラの髪だ。メデューサの髪のごとくお前とは比較にもならない」
(お前と違って…………ね)
マエラローニャは慣れたようにミリューアを見た。ミリューアは、マエラローニャが視線を向けただけで異常なほど怯える素振りを見せた。その仕草に、ユーゴが無駄に憤慨して告げる。
「ミリューアを睨むな!お前と違って愛らしい見た目を、可憐な姿をしているからと言って僻むなど、みっともないにも程があるぞ!」
「………それは、失礼いたしました」
マエラローニャは思ってもないことを口にした。
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