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ユーリスが唸るように聞く。基本的にフランチェスカに接触してこないユーリスは、フランチェスカが苦手なようだった。もとより彼は女が苦手らしい。それはユーリスの過去に起因してるんだかしてないんだか知らないが、それで一方的に嫌われたフランチェスカとしてはいい迷惑である。そもそも王太子なら選り好みせず婚約者と距離を縮めようという努力をしてほしい。
「わたくし、何も自分で望んであなたの婚約者になったわけではありませんのよ?」
小首を傾げておっとりという。まるでおバカな生徒に丁寧に教えるがのごとく。流石のユーリスもこのバカにしきったフランチェスカの態度に固まった。それを見てすかさず口を挟んだのはリデルである。
「ちょっと!フランチェスカさん、言い過ぎですわ。あなたはただの貴族令嬢にすぎませんのに………その物言いは良くないわ」
注意する態度は崩さずにリデルが毒を吐くので、フランチェスカもにっこりと笑って返した。どうせこうなることはわかっていたのだ。手加減は無用。
「あら、リデルさん。リデル・サファイアさん。現時点であなたはまだ子爵家の令嬢なのに、目上のものへの口の利き方がなってないわね。お可哀想に。ご両親はしっかりと教育してくださらなかったのね?こうして生き恥を晒すあなたですもの。その意味くらいお分かりでしょう?」
あまりの侮蔑の言葉にさっとリデルの頬に朱が登り、彼女の眉が寄る。援護するようにユーリスが声を上げた。
「図に乗るな、フランチェスカ!」
「先程のお答えですが、わたくしは望んであなたの婚約者になった覚えはございません。あなたは違ったかもしれませんが………わたくしのこの婚約に関する認識は、あくまで政略。互いに特別な想いなど必要ないと思ったのですわ。それが許される身分ではないことも、重々承知しておりました」
つまり、高貴な身分であるくせに恋だの愛だのに現を抜かすお前は馬鹿だよ、と遠回しにフランチェスカは告げた。にっこりと、それはいつものように愛らしい顔ではあるのだがその口から飛び出る毒はとてつもない。いつも丁寧な物言いで淑女の発言しかしてなかったフランチェスカに、ユーリスは目をむく。まさか自分が馬鹿だと言われるとは思ってなかったのだ。
「フランチェスカ………!それがお前の本性か!?」
「本性?あら嫌ですわ。いつもいつも婚約者として一歩下がって何もかも飲み込んできたわたくしが、少しばかりおイタをした婚約者に注意しただけで、本性呼ばわりだなんて…………。あなたは婚約者に人形をお望みなの?であれば魔導人形とでも婚約を結んだ方が良かったのでは?」
「ーーー」
「わたくしは、生きてるのですわ。わたくしは、あなたが思うように動く人形でも、道具でもない。それをしっかりとご理解くださいね?」
フランチェスカが言いきった時、ようやく国王がこの騒動に気が付きこちらまで向かってくるのが見えた。フィナーレだ。これでジ・エンド。
フランチェスカは国王がたどり着くと同時に彼らに礼を取った。それにはっとしたリデルがそれに続くが、フランチェスカの思わぬ反撃にやはり戸惑っているようだった。
「これは、どう言った騒ぎだ?」
「父上!」
公の場で役名を呼ばない王太子はやはり王太子失格であると思う。フランチェスカはそんなユーリスを白い目で見て、続いてリデルを見た。リデルに至ってはいかにも恐ろしい目にあってました、とでも言うような声で国王を呼んでいた。
「お義父さま!」
(おっ………………お義父さま!?)
流石のフランチェスカも絶句である。
生き恥を晒すなと言ったのに速攻で晒すリデル。もはやそういった性癖があるのかと勘ぐるほどである。もしそうでないのなら頭の加減が大いに心配になる。こんなお馬鹿………もとい考え足らずが王妃になる。フランチェスカはいよいよこの国の未来が心配になった。
「うむ、リデルにユーリス。何かあったのか?」
(しかもそれを国王が認めてるの!?)
何回も行われてきた婚約破棄ではあるが、さすがにリデルが国王をお義父さま呼びしたのは初めてである。
ーーーそう、フランチェスカはこれが初めての婚約破棄ではなかった。
だけど、この世界ではまだ、婚約破棄をしていないことになっている。それはどういうことか。単純だ。この騒動が収まり、次の日になると時間が巻き戻っている。フランチェスカが婚約破棄を仕掛けても、屈辱を飲み込んで婚約破棄を言い渡され受け入れても、次の日になると夜会の一週間前になっているわけだ。一度目は何も出来ずにただ呆然とした。二回目は短い時間で証拠をかきあつめそれならこちらから願い下げだと突きつけてやった。三回目になってからはこのループに精神が侵されそうになって心が不安定になった。屈辱を押し込めてそれこそ人形になったつもりで大人しくユーリスから婚約破棄を言い渡された。それでも時間は巻き戻った。
であれば、何か手順があるのか。この時間の呪縛から逃れるための必要過程が。元々勤勉科であったフランチェスカはその原因を究明するために、この時間のループから抜け出すためにたくさんのことを試してきた。
今回は『みなにリデルの非を認めさせる』である。もはやテーマ化してしまっているが、決してフランチェスカは遊んではいない。むしろ鬼気迫る勢いで、死にものぐるいでこのループから抜け出そうとしているのだ。
「わたくし、何も自分で望んであなたの婚約者になったわけではありませんのよ?」
小首を傾げておっとりという。まるでおバカな生徒に丁寧に教えるがのごとく。流石のユーリスもこのバカにしきったフランチェスカの態度に固まった。それを見てすかさず口を挟んだのはリデルである。
「ちょっと!フランチェスカさん、言い過ぎですわ。あなたはただの貴族令嬢にすぎませんのに………その物言いは良くないわ」
注意する態度は崩さずにリデルが毒を吐くので、フランチェスカもにっこりと笑って返した。どうせこうなることはわかっていたのだ。手加減は無用。
「あら、リデルさん。リデル・サファイアさん。現時点であなたはまだ子爵家の令嬢なのに、目上のものへの口の利き方がなってないわね。お可哀想に。ご両親はしっかりと教育してくださらなかったのね?こうして生き恥を晒すあなたですもの。その意味くらいお分かりでしょう?」
あまりの侮蔑の言葉にさっとリデルの頬に朱が登り、彼女の眉が寄る。援護するようにユーリスが声を上げた。
「図に乗るな、フランチェスカ!」
「先程のお答えですが、わたくしは望んであなたの婚約者になった覚えはございません。あなたは違ったかもしれませんが………わたくしのこの婚約に関する認識は、あくまで政略。互いに特別な想いなど必要ないと思ったのですわ。それが許される身分ではないことも、重々承知しておりました」
つまり、高貴な身分であるくせに恋だの愛だのに現を抜かすお前は馬鹿だよ、と遠回しにフランチェスカは告げた。にっこりと、それはいつものように愛らしい顔ではあるのだがその口から飛び出る毒はとてつもない。いつも丁寧な物言いで淑女の発言しかしてなかったフランチェスカに、ユーリスは目をむく。まさか自分が馬鹿だと言われるとは思ってなかったのだ。
「フランチェスカ………!それがお前の本性か!?」
「本性?あら嫌ですわ。いつもいつも婚約者として一歩下がって何もかも飲み込んできたわたくしが、少しばかりおイタをした婚約者に注意しただけで、本性呼ばわりだなんて…………。あなたは婚約者に人形をお望みなの?であれば魔導人形とでも婚約を結んだ方が良かったのでは?」
「ーーー」
「わたくしは、生きてるのですわ。わたくしは、あなたが思うように動く人形でも、道具でもない。それをしっかりとご理解くださいね?」
フランチェスカが言いきった時、ようやく国王がこの騒動に気が付きこちらまで向かってくるのが見えた。フィナーレだ。これでジ・エンド。
フランチェスカは国王がたどり着くと同時に彼らに礼を取った。それにはっとしたリデルがそれに続くが、フランチェスカの思わぬ反撃にやはり戸惑っているようだった。
「これは、どう言った騒ぎだ?」
「父上!」
公の場で役名を呼ばない王太子はやはり王太子失格であると思う。フランチェスカはそんなユーリスを白い目で見て、続いてリデルを見た。リデルに至ってはいかにも恐ろしい目にあってました、とでも言うような声で国王を呼んでいた。
「お義父さま!」
(おっ………………お義父さま!?)
流石のフランチェスカも絶句である。
生き恥を晒すなと言ったのに速攻で晒すリデル。もはやそういった性癖があるのかと勘ぐるほどである。もしそうでないのなら頭の加減が大いに心配になる。こんなお馬鹿………もとい考え足らずが王妃になる。フランチェスカはいよいよこの国の未来が心配になった。
「うむ、リデルにユーリス。何かあったのか?」
(しかもそれを国王が認めてるの!?)
何回も行われてきた婚約破棄ではあるが、さすがにリデルが国王をお義父さま呼びしたのは初めてである。
ーーーそう、フランチェスカはこれが初めての婚約破棄ではなかった。
だけど、この世界ではまだ、婚約破棄をしていないことになっている。それはどういうことか。単純だ。この騒動が収まり、次の日になると時間が巻き戻っている。フランチェスカが婚約破棄を仕掛けても、屈辱を飲み込んで婚約破棄を言い渡され受け入れても、次の日になると夜会の一週間前になっているわけだ。一度目は何も出来ずにただ呆然とした。二回目は短い時間で証拠をかきあつめそれならこちらから願い下げだと突きつけてやった。三回目になってからはこのループに精神が侵されそうになって心が不安定になった。屈辱を押し込めてそれこそ人形になったつもりで大人しくユーリスから婚約破棄を言い渡された。それでも時間は巻き戻った。
であれば、何か手順があるのか。この時間の呪縛から逃れるための必要過程が。元々勤勉科であったフランチェスカはその原因を究明するために、この時間のループから抜け出すためにたくさんのことを試してきた。
今回は『みなにリデルの非を認めさせる』である。もはやテーマ化してしまっているが、決してフランチェスカは遊んではいない。むしろ鬼気迫る勢いで、死にものぐるいでこのループから抜け出そうとしているのだ。
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