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第二章
出立の日
しおりを挟む「ふわ………」
朝日で目が覚めた。
侍女に起こされる前に目が覚めたのは、今日が特別な日だと、体がわかっているからかしら?
今日はーー聖女様をお迎えに行く日だ。
『いいですか!聖女様はおひとりで、この異世界に!こられているんです。きっととてもお不安で、心細いことかと思います!出来るだけ!慎重に、聖女様のお心とお体に寄り添った………』
『うるさいわよ話が長いわ!』
聖女様のお迎えに当たり、五貴族ーー、
と言っても、【太陽】を司る家が欠けているのだけど。結局、聖女様のお迎えをするのは、
【星】を司るリズラ家から、私、リリア。
【空】を司るサンロー家から、アホシュア。
【虹】を司るブラウニー家から、ケイト様。
【雨】を司るスレラン家から、レスト様。
となった。
【太陽】を司るベロニー家は来ないらしい。だけど、私たち四人の組み合わせは、奇しくも、というか、五貴族だからこそ、なのだけど。婚約のこともあり、かなり奇縁な関係性のメンバーが集まっている。これじゃあ、いつ仲間割れするか分からないということで、まとめ役として王城から保守派のセンメトリーという男性が加わった。彼は長身痩躯の男性で、歳は三十代後半のように見える。ちょび髭をよく触っているのが印象的だ。
舞踏会ではよく、自領で作る赤ワインの出来について延々と述べているということから、ワイン伯爵というあだ名がついている。
そして、彼が仕切ったのはいいのだけれど、あまりに話が長いことから、まずケイト様が怒り。それに感化されて、アホシュアがケイト様を煽り。そして、私が巻き添えをくらい。
レスト様が、無理やり話をまとめる、という最悪なスタートを切った。
今から、出発が不安でしかない。
それに…………
(ディーンハルト殿下の、言葉。何だったのかしら………)
"聖女様には気をつけて……"
「何を気をつければいいのか、分からないわ」
もう少し話を聞きたかったところだけど。
そう思った時、扉の向こうから足音が聞こえた。音からして、侍女だろう。
しばらくして、扉がノックされる音が続く。
「リリア様。おはようございます」
「……おはよう。とってもいい朝ね」
カーテンの外からは、眩しいくらいの青空が覗いていた。
***
馬車の中は、終始無言だった。
ケイト様とアホシュアの関係は言わずもがな悪い。と言っても、まだアホシュアはケイト様に気がありそうだけれど。だけど、ケイト様は全く相手にしていない。今も手持ち無沙汰に艶やかな自分の巻き毛に触れている。巻き毛に自分の指先を巻き付けるようにしながら、窓の外を眺めていた。
「ケ、ケイト。ンン、あの、だな。お前が望むなら」
「うるさいわね害虫。空気が汚れるから黙っていてくれるかしら?」
「なんだと………!?いや、俺にはわかる。お前は照れ隠しでそう言ってるんだろう?だって、そうだよな。初めてお前を抱いた時ーー」
「気色悪いわね!いつまでその話してるのよ!それしか話すことないの童貞!」
「ドッ………!?」
………というような内容が何度も繰り返されるわけである。そして、馬車にはケイト様とアホシュアだけが乗っている訳ではなく。私とレスト様も乗っているわけなので。
(馬車、2つに分けてもらえばよかったわ………)
今から、辺境伯領に到着までの間、ずっとこの空気に耐えていなければならないとか、何の拷問なのかしら。既にもう馬車を降りたい。そんな心持ちでいると、レスト様もまた、遠い目をしているのが分かった。どうやら、思いは同じらしい。
「リリア!!!」
「はい!」
力強く呼ばれて思わず返事をしてしまう。してから、今の声アホシュアだった……と気づき、勢いよく返答したことに後悔の念が荒れた海の波のように押し寄せた。
(通ってたスクールのワソンダラー先生を思い出してしまったわ)
私が通っていたロトイヤル・スクールはそれはそれは規則がえげつないほどに厳しかった。規則破りには厳しい罰があり、破ると地下の反省部屋に一日放り込まれる。三回規則を破るとレッドカード。そのまま退学となるほどに厳しいスクールだった。
(権力者の娘や息子にはまぁまぁ甘かったけれど、それでもかなり厳しかったわ……)
アホシュアの鋭く、険のある声は、頭が鉛で出来ていると言われていたシスターの声とどこか似ていた。ふと思い出してしまうほどには、そのスクールでの生活は色濃く記憶に残っている、ということなのだろう。
「ふふん。やはりお前はまだ俺のことが好きなんだろう。すぐに返事をするとはそういうことだ」
随分ご自分に都合のいい頭をしていて、少しながらアホシュアの今後が心配になった。
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