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エレノアは語る
しおりを挟む「待ってくださいね?待ってください、ええと?」
ソフィアはものすごく混乱しているようだった。当たり前である。
いつものように学園に行って帰ってきたエレノアが言った言葉。それが自分の婚約者とほかの女をくっつけるという旨のものだったからだ。
しかしエレノアはそれには構わずにベッドに座ると、そのままごろりと転がった。大変にお行儀が悪い。しかし今ここにいるのはエレノアとソフィアの二人だけである。
「リュミエールの赤い糸がどこにも伸びてなかったのよ」
「はぁ…………はぁ!?」
納得したように言って、だけどすぐに事態を把握したソフィアが驚いた声を出した。エレノアはむくりと起き上がって据えた目で言った。
「別に愛されてると思ってたわけじゃないわ。だけどこうも…………こうも無感情だと分かりにくいじゃないの。というか私、愛のない結婚するの嫌」
「お嬢様…………」
「私は愛される結婚をするか、それか森で暮らしたいのよ」
「すごい二択ですね………」
とてもじゃないが令嬢の言葉とは思えない。ソフィアはいよいよ頭が痛くなってきた。というか、キャサリンは侯爵令嬢じゃなかったか?つまりエレノアは本気ということ。ソフィアは公爵にどう報告するものか悩んだ。公爵のことだ。一言エレノアが婚約破棄したいと言えばそれはまかり通るだろう。代々王家に仕えてきた公爵の力は大きい。事情をてきとうに盛り込み『いやぁすみませんなぁハハハ。この埋め合わせは必ずハハハ』と貸しを作ることになれど、言えばまかり通るだろう。だけどエレノアは言わなかった。なぜか。
エレノアも多少なりとも常識を知ってるからである。自分からワガママ言って王子との婚約を作ってもらったのに自分のわがままで破棄するのはさすがに良心が咎めたのだろう。
(というか、婚約破棄って………)
ソフィアは頭が痛かった。またロベルトに頭痛薬を渡されてしまう。違うのだ。ソフィアの頭痛の種はエレノアであり彼女がもう少し落ち着いてくれればソフィアも困ることは無いのだ。昔っから落ち着きのない、よく言えば無邪気な、悪くいえばアホなお嬢様にソフィアは悩まされてきた。1回頭突きをしても許されると思う。
「それで、お嬢様は愛のある結婚がしたいとして………お相手は?」
「ふふふ、私への赤い糸が大樹のように太い人よ!!そうであれば結婚するの!!」
「大樹…………」
「樹齢何千年に打ち勝つような太さの赤い糸よ………ロマンチックよね………」
(いやそれはもう呪いの域では??)
というか大樹のごとく太い赤い糸とか普通に嫌である。それってつまり執着心が異常ということで犯罪者予備軍なのではないか。エレノアはそのところ分かってるのだろうか。ソフィアはいよいよ自分の主が心配になった。しかし愛し愛されることを夢見るロマンチスト、ならぬエレノアはうっとりとして言った。
「それでね…………その人は言うのよ。『あなたがいなければ夜も眠れない。私はあなたを心から愛しています。何ならこの心臓を差し出してもいい』ーーーってね!」
「心臓差し出したら死ぬのでは?」
「うるさいわねソフィア!全く、わかってないわ。心臓を差し出せなんてそんなイカれたこと言わないわよ」
「頼みますからお外でその言葉遣いはやめてくださいね」
ソフィアが指摘すると、エレノアはもちろんと不敵に笑った。
「分かってるわ、私はこのエレノア・オードリーなのよ!何年この猫を被ってると思ってるの?」
「できたら私の前でもその猫をしっかりと………いや、いっそその猫が本物になればいいんですけどね」
「ふふふ、それは無理よ。ソフィア。いくら人間着飾ってても生皮剥けばみんな一緒なのよ?猫なんて被っても無意味だわ」
出た、エレノアの超絶意味不明理論。
しかもよく分からない怖いことまで言い出した。とてもでは無いが公爵家の令嬢とは思えない。一体どこからそんな知識を持ってくるのか………本か。本だな。そして市井での会話。ソフィアは今更方向修正は無駄だと悟り、紅茶の乗るワゴンを押してエレノアの前まで持ってきた。
何を言ってるか不明だが、とにかく猫をかぶり続けるのは無理ということだろう。それだけはソフィアも理解した。
ソフィアはため息を殺してエレノアへと紅茶を入れた。酸っぱい匂いが香り立つ紅茶はローズヒップティーだ。エレノアのお気に入りの紅茶である。
「それで、どうするつもりですか?」
「少女小説ではね、男女の出会いが沢山あるのよ」
「まあ………そうでしょうね」
なんと言ったって少女小説である。男女の恋愛を書いた物語なのに男女の話がなくてどうする。ソフィアが頷くと、エレノアはいたずらっ子の瞳でソフィアを見た。
「だからね…………?それを使えばいいと思って!」
「は?……………は?」
「ふふふふ。伊達に恋愛小説読んできたわけじゃないわよ。いい?少女小説だとだいたいヒーローがヒロインに一目惚れするのよ。それで、ヒロインはそれに気づかずにヒーローにアプローチされるの。それで嫉妬を買ってヒロインが酷い目に合いそうになってそれを助けにヒーローが………」
「長い、長いですエレノア様。もっと端的に」
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