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公爵令嬢の失態 4

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「退室しましょう。あとはおふたりにおまかせした方がよいかと」

それまで影に徹していたヴィヴィが言う。
執務室にヴィヴィとアルのふたりってとても背徳的。やましいことがあったのではないかと勘ぐってしまうわね。

「でも」

「というか、これ以上ここにいたら巻き込まれかねないですし」

ちらりとヴィヴィが言う。

「……以前のあれそれは反省してるわ。本当よ。ごめんなさい、ヴィヴィ」

「……その反省はいきてないようだけど?」

アルがすかさず突っ込む。
わたくしはドレスの裾を握って、キッとアルを見た。どうしても見たい。アルのドレスを着た姿!

「なぜだめなの。アル。安心して。とっても美しいと思うわ。悔しいけれど認めるわよ」

「似合わない心配をしてるんじゃないんだよ!」

「じゃあ何!」

「着たくないからに決まってるだろ!」

「なぜ!」

「それは………っ、とにかく、俺は着ない。着せるならヴィアレトにでも着せとけ!」

突然話題を振られたヴィヴィはぎょっとした顔をして、巻き込み事故は勘弁だと言わんばかりにパフェの手を取って部屋を出ていってしまった。ああ、わたくしの緩衝材が………!!
思わずそっちを見た時、ぐいっと手首を引かれた。

「きゃ……」

「忘れてるようなら、思い出させてやろうか?俺は、男なんだってこと」

「……わ、わかってるわ……よ………」

部屋にはふたりきり。
真正面から見られるとやはり羞恥が込み上げて、思わず視線を逸らす。アルが「ん?」と言いながらわたくしの顎を持ち上げた。強制的に視線が絡む。

「きゃあ!なにするの」

「なにって、つれない婚約者を口説いてるところだけど」

「っ………」

「なあ。どうしても俺のドレスが見たいって言うなら考えてやらなくもない」

「ほ、ほんとう?」

アルのドレス姿。絶対とても綺麗だわ。
ああ大変。アルが女性の格好などしたらますます性別が行方不明だわ。性別:アルになっちゃうじゃない。道を踏み外す騎士がまた増えるわ……。

「今までヴィヴィ×アル推しだったけれど、モブ×アルもありよりのありだわ……」

「は?」

「よしよしプレイというやつね?授乳手コキで『ままのおっぱい美味しい』とか言われるのでしょう!?そんなの、そんなの………!」

「おいフラン」

その時。ぽた、と音がした。
はっとして口元を抑える。アルが驚いたように目を見開いた。指先にはヌルヌルとした感覚。どんどん溢れるそれは生暖かい。

(わたくし、鼻血を出してしまったわ………!)

公爵令嬢としてとんでもない失態である。

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