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こ、ころされる…… 2

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ついで、びり、と紙をさく音。わたくしは覚悟を決めた。

「おい、フラン」

「エッ!?」

しかし突然呼ばれて、思わず素っ頓狂な声が出る。アルがこちらを見る。恐ろしいほどの無表情だ。

「お前、自分に結界張れるな?」

「……え?」

「震撼圧雪で内側から壁を押し壊す。それがダメならリワープだ。こんな馬鹿げた空間に一秒でも長くいられるか」

「はあ!?ちょ、待って」

「おい、ヴィアレト。お前はフランのサポートをしろ。俺の魔力が弾きかえってフランに当たるとまずい。死ぬ」

「なっ」

「分かりました」

分かりました!?!?
ヴィヴィは頷いて一歩下がり、わたくしの前に立つ。後ろでたばねた銀糸の髪がサラリと揺れた。わたくしはそれを見ながら、思わずアルに寄った。震撼圧雪とはアルの使う絶対魔法ーー不可侵領域すらも圧し潰す空白励起魔術。絶対魔法というのは、豊富な魔力に加え、魔力制御を完璧に行えた人間しか編述できない煉高魔法。つまりめちゃくちゃ難しい。し、ものすごい威力を誇る代わりにその負荷値は通常魔力の半分以上を消費するという、とんでもないしろものだ。
リワープは、死にそうになった時に一度だけ使える奇跡の生還術と呼ばれている。命が潰えるその瞬間、魔術印を刻んだ魔術学院の聖堂に転移できる。しかしそれは1度しか使えない上に、瀕死の重症にならないと展開できない。

つまりアルは、震撼圧雪で出られなかった場合、わたくしたちを半殺し以上殺害以下の状態にし、この場から脱け出すと話しているのだ。
尋常じゃない。頭がクラクラした。
もしかしてサイコパスなの?サイコパスなのね?
真面目に命の危機である。

「覚悟は出来ています」

出来ています!?
どうしてヴィヴィは落ち着いてるんだ。一蓮托生だからか。もしかしてふたりの行く末はハッピーエンドではなく心中エンドのふたりにとってはハッピーエンドってやつなのかしら!?
一蓮托生、以心伝心。唯一無二。大変。心が沸きあがる言葉並びだわ!
わたくしは混乱したまま、だけどこのままいけばわたくしも殺されかけてしまうので声を張った。
なぜなら、この空間。空間に対する物理攻撃への魔力無効化の陣を組んでいるので。そうすると次に待つのは半殺し以上殺戮以下の目である。

「この空間はわたくしが作ったの!大丈夫よ。この空間は、目標達成すれば出られるようになってるから……………から…………」

声をはりあげたわたくしは、だけどその瞬間無表情のアルと、驚いた顔のヴィヴィを見て、口を噤んだ。静寂が広がる。

「って言うと?つまり?この頭の悪い場末の宿みたいな粗末な空間を作ったのはお前って訳?」

する、とアルの手がわたくしの頬に触れる。
こ、ころされる………

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