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二章
だって、愛されていない ※R18
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ロディアス陛下は笑うと、私の手首をとって口付ける。今夜、彼はよくそこにくちびるを落としていた。
いや、あるいは──。
彼女と交わる時は、よくあることなのだろうか。
それが彼の、彼女との触れ合い方なのか。
「──」
そう思うと、ざわりと肌が泡立って、咄嗟に彼から手首を引き離していた。
勢いよく手を離したせいで、あからさまに彼を拒否したように見える。
ハッとして、取り繕うように口を開いたが、それより先に手首をシーツに押さえ付けられた。
「痛っ……!」
手首を押さえる手の力が強くて、痛みすら伴う。
思わず、苦痛に声をあげると、ほんの少しだけ力が緩んだような気がした。
「……くそ、」
彼が一言、暴言を零す。
目を見開く。
彼がこんなに乱暴の物言いをするところを、私は今まで見たことがない。
驚きに、言葉を失う。
「じっとしていて」
彼が服を乱し、熱い塊を押し当てる。
それで、この行為の終着点を今更ながらに思い当たる。
これは、子を成す行為だ。
彼が、欲を吐き出すことで、私は子を得るかもしれない。
そうすれば。
「──。…………」
その考えに思い当たり、吐きそうになった。
私は今、何を考えた?
子を、まだ見ぬ命を、まるで物のように。
道具のように、考え、て。
「ぁ、あ、──!」
何の嗚咽か分からない。
本来なら、その体温を嬉しく思うのに、今はただ、恐ろしかった。
醜い嫉妬に襲われ、歪んだ思考をした、自分自身が。
久しぶりの行為なのに、体はすんなりと彼を受け入れた。
手を握り、五指を絡め、まるで想い合う恋人同士のような交わりをかわす。
「ぁっ、あ、や……っ!ん、あ、ッ………ロディアスさまっ……!ぁアっ……!」
「好き、なんだ。きみだけが……きみ、だけ、を……」
「そ、れは……ッ、」
だめ。それを聞いてはいけない。
だってそれは、私のための言葉じゃない。
首を何度も横に振る。
彼が、は、と笑った。
「そうだね。どうせ僕は、言葉でしか──口先でしか示せない、男だ。きみと同い年だったら、対等に話せたかな。あるいは、僕がもっと大人で──きみよりずっと、年上であれば、きみの望む【大人】を全うできたのかな」
ぐちゅぐちゅと、はしたない音が響く。
私は首を横に振る。
ルエイン様は、二十三歳になられた。
ロディアス陛下とは、二個違い。
その僅かな年の差が、彼を追い詰めるのだろうか。
僅かだからこそ、もどかしく思うのだろうか。
彼とは八個も歳が離れている私には、分からない。
だって、私にとって彼はずっと【大人】だ。
汗に濡れた首に、頬に、こめかみに、髪が張り付いた。
「……言っても仕方ないね。仮定を想像するのは、愚かなものだ」
「ん、んんーーッ……!!」
噛み付くような口付けを交わし、奥をねっとりと、執拗に撫ぜられる。覚えのある明確な快楽に、腰が揺れた。
「ん、んん、ン、───!んん、ん゛ん゛ん!!」
吐息も、嬌声も、全て彼に呑み込まれる。
体が跳ねて、快楽の終わりに連れていかれる。
それは、いつかのように激しくて、容赦がないものだった。
腹の奥に、熱が注がれる。
彼のものだ。
子を成す液だ。
それがなんだか悲しくて、嬉しくて、やっぱり涙がこぼれる。
彼の指先が私の目元を拭った。
「……ごめん」
彼が呟き、交わりが解かれた。
激しい行為が終わると、寝室には静寂が戻る。
響くのは、私の荒い呼吸だけ。
目元を覆う。
とめどなく溢れる涙に気付かれないように。
行為の余韻と誤魔化すことはもはや難しかった。
手のひらに触れる涙は熱くて、痛い。
「メイドを呼ぶ。……眠っていて」
彼の声は、もう落ち着いていた。
もしかしたら酒精が抜けたのかもしれない。
だとすれば彼は今、猛烈な後悔に襲われているのだろうか。
酒から覚めて、冷静になった今、彼が何を考え、どんな顔をしているのかなんて──怖くて、見ることが出来なかった。
いや、あるいは──。
彼女と交わる時は、よくあることなのだろうか。
それが彼の、彼女との触れ合い方なのか。
「──」
そう思うと、ざわりと肌が泡立って、咄嗟に彼から手首を引き離していた。
勢いよく手を離したせいで、あからさまに彼を拒否したように見える。
ハッとして、取り繕うように口を開いたが、それより先に手首をシーツに押さえ付けられた。
「痛っ……!」
手首を押さえる手の力が強くて、痛みすら伴う。
思わず、苦痛に声をあげると、ほんの少しだけ力が緩んだような気がした。
「……くそ、」
彼が一言、暴言を零す。
目を見開く。
彼がこんなに乱暴の物言いをするところを、私は今まで見たことがない。
驚きに、言葉を失う。
「じっとしていて」
彼が服を乱し、熱い塊を押し当てる。
それで、この行為の終着点を今更ながらに思い当たる。
これは、子を成す行為だ。
彼が、欲を吐き出すことで、私は子を得るかもしれない。
そうすれば。
「──。…………」
その考えに思い当たり、吐きそうになった。
私は今、何を考えた?
子を、まだ見ぬ命を、まるで物のように。
道具のように、考え、て。
「ぁ、あ、──!」
何の嗚咽か分からない。
本来なら、その体温を嬉しく思うのに、今はただ、恐ろしかった。
醜い嫉妬に襲われ、歪んだ思考をした、自分自身が。
久しぶりの行為なのに、体はすんなりと彼を受け入れた。
手を握り、五指を絡め、まるで想い合う恋人同士のような交わりをかわす。
「ぁっ、あ、や……っ!ん、あ、ッ………ロディアスさまっ……!ぁアっ……!」
「好き、なんだ。きみだけが……きみ、だけ、を……」
「そ、れは……ッ、」
だめ。それを聞いてはいけない。
だってそれは、私のための言葉じゃない。
首を何度も横に振る。
彼が、は、と笑った。
「そうだね。どうせ僕は、言葉でしか──口先でしか示せない、男だ。きみと同い年だったら、対等に話せたかな。あるいは、僕がもっと大人で──きみよりずっと、年上であれば、きみの望む【大人】を全うできたのかな」
ぐちゅぐちゅと、はしたない音が響く。
私は首を横に振る。
ルエイン様は、二十三歳になられた。
ロディアス陛下とは、二個違い。
その僅かな年の差が、彼を追い詰めるのだろうか。
僅かだからこそ、もどかしく思うのだろうか。
彼とは八個も歳が離れている私には、分からない。
だって、私にとって彼はずっと【大人】だ。
汗に濡れた首に、頬に、こめかみに、髪が張り付いた。
「……言っても仕方ないね。仮定を想像するのは、愚かなものだ」
「ん、んんーーッ……!!」
噛み付くような口付けを交わし、奥をねっとりと、執拗に撫ぜられる。覚えのある明確な快楽に、腰が揺れた。
「ん、んん、ン、───!んん、ん゛ん゛ん!!」
吐息も、嬌声も、全て彼に呑み込まれる。
体が跳ねて、快楽の終わりに連れていかれる。
それは、いつかのように激しくて、容赦がないものだった。
腹の奥に、熱が注がれる。
彼のものだ。
子を成す液だ。
それがなんだか悲しくて、嬉しくて、やっぱり涙がこぼれる。
彼の指先が私の目元を拭った。
「……ごめん」
彼が呟き、交わりが解かれた。
激しい行為が終わると、寝室には静寂が戻る。
響くのは、私の荒い呼吸だけ。
目元を覆う。
とめどなく溢れる涙に気付かれないように。
行為の余韻と誤魔化すことはもはや難しかった。
手のひらに触れる涙は熱くて、痛い。
「メイドを呼ぶ。……眠っていて」
彼の声は、もう落ち着いていた。
もしかしたら酒精が抜けたのかもしれない。
だとすれば彼は今、猛烈な後悔に襲われているのだろうか。
酒から覚めて、冷静になった今、彼が何を考え、どんな顔をしているのかなんて──怖くて、見ることが出来なかった。
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