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一章

白熱する議会 【ロディアス】

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「──」

小さく息を飲む。
ドゥランはここしばらく、反王政派の活動が活発で、それに比例して王国軍の摘発も苛烈になっていると聞いていた。
元々、ランフルアとレーベルトの同盟──エレメンデールを王妃に貰い受けたことで成された盟約は、不穏な動きを見せるドゥランに対して及ぶものだった。
ドゥランで革命が起き、レーベルトあるいはランフルアで影響が出るようなことがあれば、互いに援助する。そういった内容の同盟だ。

王政を守るためには、革命は何をしてでも防がなければならない。
だけど、隣国で革命が成されれば、その余波はもちろん、周辺の国家にまで及ぶ。
『かの国で革命が起きたのなら、我が国も』と考える民が増加するためだ。

(ついに成されてしまったか……)

ロディアスは短く舌打ちをした。
彼が何度となくエレメンデールに『難しい時期』と説明していたのは、世界情勢が理由だった。
既に、じわじわと余波は広がりを見せている。

例えば、最近ロディアスの暗殺が多発しているのは、ドゥランで王政に対して強い反発が起きていたためだ。
それに感化され、ドゥランの隣国であるレーベルトでもまた『新しい王を』とする動きが見られていた。

レーベルトの周辺国──エルブレムは新興国家のため、今内乱クーデターを起こされれば、間違いなく国は荒れるだろう。

そしてそれは、隣接しているレーベルトにも影響が及ぶ。
ドゥランの革命を機に、周辺国が巻き込まれ、総倒れする未来も有り得るのだ。

ドゥランの革命は何としてでも食い止めるべき問題だった。

彼は手にしていた報告書を投げ捨てるようにして机に放ると、そのまま腰を上げた。

「緊急で王侯議会を開く。ただちに伯爵位以上の当主と、議会員に招集の報せを送るように。ミュチュスカ、お前は新聞社に掛け合い、情報統制を行え。ドゥランの革命を民に知られるな」

「かしこまりました」

ミュチュスカは短く返答すると、すぐに部屋を出た。追いかけるようにして侍従もまた、慌ただしく部屋を去った。

「…………クソ」

ロディアスは抑えきれないような声で吐き捨てた。彼にしては珍しく乱暴な物言いだ。
ぐしゃ、と髪をかきまぜ、まつ毛を伏せる。
数秒、目を閉じて意図的に深呼吸を繰り返す。

──そして、目を開けた時には既に。

彼は【国王】の顔をしていた。





議会は当然のごとく、荒れに荒れた。
みな、王政が崩れ、貴族特権を失うのが恐ろしいのだろう。
いつもは我関せずとしている貴族ですら声高に議論し、場は白熱した。

「情報統制は既に敷いた。だが、ドゥランとの国境を閉鎖しない限り、時間の問題だ。いずれ、革命が起きたことはいやでも民衆の耳に入る」

ロディアスの言葉に、髭を撫で付けながら五大公爵家に属するルドアール公爵が発言した。

「我が国は信仰国家ですから、女神に仇なすことを堂々と行えるものがいるとは思えません。ここはひとつ、様子見をしたらいかがですかな」

「その油断が命取りで、我が国でも国家転覆を望むものが出始めたらどうするのだ、ルドアール公」

すぐさま噛み付いたのは、ステファニー公爵だった。
五大公爵家と反五大派は、対面に位置する場所に座している。席は特段決められていないので、自然とそうなったのだ。
五大公爵家と反五大派が揃う王侯議会では必ず場は険悪な空気となる。
それを制するのはロディアスの役目だが、頻繁に仲介に入るのも良くない。
彼は黙って貴族のやり取りに耳を傾けていた。

「ふむ……国家転覆を望むもの、とは、つまり、王政に不満を持つもの。今現在の社交界に不満を持つものは、はて……誰でしょうな」

ゆったりとした声で、五大公爵家の一家であるメンデル公爵が、せせら笑うように言った。その視線の先はステファニー公爵で、彼が何を言わんとしているかは火を見るより明らかだ。

「貴公は、我が忠誠を疑うのか?場合によっては、挑発と受け取りますが」

「いやはや、今の発言で矜恃を傷つけられたと言うのであれば、私の言葉は正しいということになりますねぇ。ステファニー公は覚えがあるので?」

「メンデル公爵!ステファニー公を愚弄するのもいい加減に……!!」

反五大派に属する貴族がいきりたって席を立とうとする。それをロディアスは片手を上げて制した。

「今は貴族内で諍っている場合ではない。メンデル公も、ステファニー公も、今は目下直面している問題に目を向けて欲しい」

ロディアスの言葉にメンデル公爵はふん、とつまらなそうに鼻を鳴らす。ステファニー公爵もまた、苦々しい顔をしている。
彼らは、ロディアスよりもずっと年上であり、かつ、父王の世代から政を担っているのだ。
まだ二十前半の若者であるロディアスの言葉は、まだまだ届きにくい。

「……ドゥランとの交易は一度、破棄されるのがよろしいかと」

静かに場を見守っていたファルオニー公爵が話を切り出す。それに同意する言葉が続くが、反五大派が反論を口にする。

「ドゥランの革命軍は、いずれ新しい国家、あるいは政府を興す。今のうちに良好な関係を築いておくべきだ」

「それが我が国にとって益となると、なぜ分かる!貴公もまた、革命軍の思想を持っているからドゥランの革命派に肩入れするのだろう。王国の裏切り者めが!」

「なんだと!?我が家を侮辱する気か!家柄しか取り柄のない、七光りが!」

「は。所詮、成り上がりには分からないだろうな!家と王家のつながりというものを!」

「貴様……!!」

いつもはここまで酷くないのだが、やはりドゥランの革命というものにみな影響されているのだろう。常ならば有り得ない暴言が飛び交い、今にも乱闘が起きそうな騒ぎだった。
それぞれの家が連れてきた護衛騎士もまた、主の激情を受け取って剣の柄に手を添えている。
国王の前だからか抜刀はしないものの、いつ何が起きてもおかしくない状態だ。

ロディアスは静かに睥睨していたが、やがて手のひらを強く机上に叩きつけた。

──ばん、という物々しい音が議会室に響く。

途端、室内には痛いほどの沈黙が漂う。
水を打ったような静かさだ。
先程まで口々に批判や意見を述べていた貴族たちはみな、その音に呑まれたように口を噤んだ。

ロディアスは各貴族をぐるりと一巡して見た後、呆れたようなため息を吐いた。

「これが我が国を代表する貴族かと思うと、嘆かわしくて仕方ないな」
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