〈完結〉魔女のなりそこない。

ごろごろみかん。

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一章

それが私の【覚悟】で求めた【強さ】

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燃えるような痛みは、やがて掻痒を伴った鈍痛へと変わっていった。
今日身につけたドレスが、深い青の色合いでよかった。海よりも青い紺のドレスは血を吸ったところで、さほど目立たない。これが白やクリーム色のたぐいであったなら、すぐに私の嘘は気付かれてしまったことだろう。
銃撃があったとは思えないほどの明るさを取り戻した城下町は、先程よりも賑やかだった。
私やロディアス陛下を讃える声が、国の繁栄を願う声が四方八方から聞こえてきた。

日差しの暑さによる汗はもう流れない。
その代わり、臓腑を焼くような苦しみから、じんわりと汗が浮いた。
ロディアス陛下の視線が、先程から度々突き刺さる。痛いくらいだ。まるで、射るように見てくるものだから、いたたまれない。
きっと彼は、気がついている。
私が、負傷していることに。

それでいて、私があのように言ったから、訂正も出来ずにいるのだろう。
彼の強い視線は、なにかを訴えているようだった。
彼は今、何を考えているだろう。

余計なことを、と思われているだろうか。
出過ぎた真似だっただろうか。

だけど、こうすることがいちばん良好だと思ったのだ。
|正(まさ)しく、正妃としてあるべき姿。
私が求める理想だった。

道なりに沿って馬車が進み、曲がり角を右折する。
ここを真っ直ぐ進めば、もう王城に辿り着くだろう。

僅かに、車体が揺れる。
いつもなら、これくらいの揺れでバランスを崩すことはない。
だけど今は、射抜かれた右足に力を込めることが難しく、ぐらりと体が揺れた。

(……!!)

右足が踏ん張れないので、なにかに掴まらなければ転んでしまう。
そう思って咄嗟に民衆に振る手を下に降ろそうとした時。
ぐっと腰を引かれた。

「きゃ……!」

驚きのあまり、小さく悲鳴がこぼれた。

「楽にして。寄りかかっていい」

彼の声は、驚くほど静かで、冷たく響いた。
突き放すような声に聞こえ、体が震える。
やはり余計な真似だっただろうか。
出過ぎたことだっただろうか。
暗い気持ちが顔を出す。
それでも、貼り付けた笑みを固定して人々に手を振る。
寄りかかっていいと言われたが、そこまで甘えてはいられない。
ただでさえ、転びかけるという失態を見せたのだ。
僅かに触れる彼の胸元に、それ以上近づかないように距離を取っていると──

ぐい、と強く腰を引かれた。

「……!!」

強い力でロディアス陛下に引き寄せられ、私が驚くより先に、民衆の割れるような悲鳴を聞いた。
黄色い声、とはまさにこのようなことを言うのだろう。

きゃああああ!と割れんばかりの声に、思わず驚いて身を引きそうになる。
どうやら彼らは、国王夫妻のスキンシップに沸き立ったようだった。
しかしこれは──スキンシップ、というより私が転ばないことを懸念したものだろう。
こうなった以上、私も取り繕うことはやめて、素直に彼の胸に体をもたれさせた。

まだ少し、緊張しているためにぎこちないが、甘えたように私が彼に寄り添うと、ますます国民は興奮した様子だった。
拍手や歓声が、さらに大きくなる。

じくじくと痛む足。
足の先はあまり感覚がない。
伝う血液の感触だけが、不愉快だ。
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