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一章
国を統べるもの
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部屋に入ると、ロディアス陛下は既に起き上がっていた。
彼はベッドボートに背をもたれさせていた。
その手には紙の束がある。
彼は私に気がつくと、柔らかい笑みを浮かべた。
「ずいぶん心配をかけさせてしまったかな」
優しい声に、泣きたくなる。
私はベッドのすぐ近くまで歩くと、スツールに腰掛けた。
陛下が気を失われて、数時間が経過する。
窓の外から差し込む夕陽は、あと幾許かもしないうちに西の地平線に隠れることだろう。
私はぐっと手を握った。
ロディアス陛下の顔色は、あまり良くなかった。
「……差し出がましいことかもしれませんが、安静になされていた方が、よろしいのではありませんか」
「心配してくれてる?」
彼は、私の言葉には答えず変わらず書面に視線を落としたまま言った。
小さく頷いて答える。
「陛下は、大事なお体です。無理をされて、お体に障れば元も子もありません」
「……一理ある、かな。でも、今だけは無理をしないとね。あと三十分もすれば、諸侯会議がある。それに欠席するのはもちろん、必要な報告を確認していないのもまずい。このタイミングで急ぎの追加報告とか、全く馬鹿にしてくれる」
……会議?
私は唖然とした。
つい数時間前、ほんの少し前まで彼は毒に倒れ、苦しめられていたのだ。
それなのに、まだ回復途中の体だというのに会議に向かおうとしているのか。
目を見開く私を見ることなく、彼は紙を手繰る。
乾いた音が聞こえる。
「──」
本音を言えば、止めたい思いでいっぱいだった。
命を繋ぎとめたとはいえ、彼は毒を盛られたばかりだ。
倒れてから数時間しか経過しておらず、体は万全な状況とは言えない。
私は言葉を失った。
だって、何を言えばいい。
安易に『体を優先させて、会議は欠席するべきだ』と、どうして言えるだろうか。
国王の責務を、国を継ぐものとして、何よりも、誰よりもそれを大事にしている彼に。
きっと彼は理解している。
自分の体の状況も、そして、先に予定されている会議の重要さも。
それを天秤にかけた上で、彼は後者を選んだのだ。
考え無しに無茶をしているわけではないのだろう。
それは、この僅かな婚姻期間の中でも理解できることだった。
彼は厳しいひとだ。
一見、優しく見えるけれど、それは表層の部分に過ぎない。彼の内面は、鋼のような硬さがあり、そして、ほんの僅かにも揺るがない、強さがある。
彼は、自分にも厳しいひとなのだ。
国王としてこうあるべき、という姿をそのまま追い求めているのだろう。
それは、国王として、ふさわしい姿なのかもしれない。
民が求める、国王像なのかもしれない。
だけど、それでは。
それは、あまりにも──。
言葉では言い表せない、寂寥感を覚えた。
寂しいような、冷たいような、悲しいような。
ぽっかりと、穴の空いたような虚しさ。
彼を止める言葉も持たずに私が黙っていると、彼が言った。
「今度、蛍を見に行こうか」
彼はベッドボートに背をもたれさせていた。
その手には紙の束がある。
彼は私に気がつくと、柔らかい笑みを浮かべた。
「ずいぶん心配をかけさせてしまったかな」
優しい声に、泣きたくなる。
私はベッドのすぐ近くまで歩くと、スツールに腰掛けた。
陛下が気を失われて、数時間が経過する。
窓の外から差し込む夕陽は、あと幾許かもしないうちに西の地平線に隠れることだろう。
私はぐっと手を握った。
ロディアス陛下の顔色は、あまり良くなかった。
「……差し出がましいことかもしれませんが、安静になされていた方が、よろしいのではありませんか」
「心配してくれてる?」
彼は、私の言葉には答えず変わらず書面に視線を落としたまま言った。
小さく頷いて答える。
「陛下は、大事なお体です。無理をされて、お体に障れば元も子もありません」
「……一理ある、かな。でも、今だけは無理をしないとね。あと三十分もすれば、諸侯会議がある。それに欠席するのはもちろん、必要な報告を確認していないのもまずい。このタイミングで急ぎの追加報告とか、全く馬鹿にしてくれる」
……会議?
私は唖然とした。
つい数時間前、ほんの少し前まで彼は毒に倒れ、苦しめられていたのだ。
それなのに、まだ回復途中の体だというのに会議に向かおうとしているのか。
目を見開く私を見ることなく、彼は紙を手繰る。
乾いた音が聞こえる。
「──」
本音を言えば、止めたい思いでいっぱいだった。
命を繋ぎとめたとはいえ、彼は毒を盛られたばかりだ。
倒れてから数時間しか経過しておらず、体は万全な状況とは言えない。
私は言葉を失った。
だって、何を言えばいい。
安易に『体を優先させて、会議は欠席するべきだ』と、どうして言えるだろうか。
国王の責務を、国を継ぐものとして、何よりも、誰よりもそれを大事にしている彼に。
きっと彼は理解している。
自分の体の状況も、そして、先に予定されている会議の重要さも。
それを天秤にかけた上で、彼は後者を選んだのだ。
考え無しに無茶をしているわけではないのだろう。
それは、この僅かな婚姻期間の中でも理解できることだった。
彼は厳しいひとだ。
一見、優しく見えるけれど、それは表層の部分に過ぎない。彼の内面は、鋼のような硬さがあり、そして、ほんの僅かにも揺るがない、強さがある。
彼は、自分にも厳しいひとなのだ。
国王としてこうあるべき、という姿をそのまま追い求めているのだろう。
それは、国王として、ふさわしい姿なのかもしれない。
民が求める、国王像なのかもしれない。
だけど、それでは。
それは、あまりにも──。
言葉では言い表せない、寂寥感を覚えた。
寂しいような、冷たいような、悲しいような。
ぽっかりと、穴の空いたような虚しさ。
彼を止める言葉も持たずに私が黙っていると、彼が言った。
「今度、蛍を見に行こうか」
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