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一章
様々な妃としての、
しおりを挟む陛下は目が覚めてまず、ミュチュスカを呼んだ。
恐らく、拘束したものたちの報告を聞いているのだろう。
数分程度して、ミュチュスカが陛下の寝室から出てくる。思わず彼を見ると、彼もまた私を見て、私に言った。
「陛下がお呼びです」
「は、はい……!」
ロディアス陛下の私室のソファに腰掛けていた私は、勢いよく立ち上がった。淑女としてあるまじき失態だが、そんなことには構っていられなかった。
焦りながら寝室に続く扉に向かおうとすると、ミュチュスカが跪いた。
「……?」
困惑して、足を止める。
早くロディアス陛下のもとに行き、彼の様子を確かめたい。だけど、ミュチュスカを無視するわけにもいかない。
彼は、冷たい印象を覚える人だ。
私は彼が笑っているところを見たことがない。
鮮やかな金髪は、ロディアス陛下と同じ色だが、ミュチュスカの方が鮮やかな色合いだ。
ほかの色に染まらない、力強さがある。
彼のその、深い紺色の瞳もまた、射抜くような強さがあった。
初めて会った時、私は彼を苦手に思っていた。
だけどすぐに、その思いは消え失せた。
彼が冷え冷えとした態度を取るのは、私がロディアス陛下の妃だから。
彼が、ロディアス陛下に忠誠を誓っているから。
ミュチュスカは、ロディアス陛下を守る騎士だ。彼の側近だ。
だからこそ、己を律した態度をとるのだろう。
彼の冷たさは、堅苦しさは、そのまま陛下への忠誠に繋がっている。
それに気がついてからは、私はさほど彼を苦手に思っていない。
戸惑う私に、ミュチュスカが言った。
「……ビジョンから、聞きました。あなたもまた、薬を飲まれたと」
「……はい」
これは責められているのだろうか。
五大公爵家の一家である、ファルオニー家を疑ったことに。
だけど、私はあの時の行動が誤りだったとは思わない。
彼に咎められるのだとしても、それを甘んじて受け入れるつもりだった。
私のしたことは、彼らの忠誠を疑うものだ。
彼らが気分を害するのも当然。
だから、批判されても、詰られても、それは受け入れるつもりだった。
私が静かに答えると、ミュチュスカは瞳を細めた。
そして、観察するように私を見てから──彼は言った。
「……陛下の御身を一番に思ってくださり、臣下として感謝いたします」
「……え」
まさか、礼を言われるとは思わなかった。
責められることはあれど、感謝されるとは。
驚いて瞬きを繰り返していると、ミュチュスカがすっと立ち上がった。
「あまり長く引き止めて、陛下に不要な誤解をされても困ります。……どうぞ」
ミュチュスカが横にずれる。
私はミュチュスカと寝室に続く扉を交互に見てから、ようやく彼の言いたいことを理解した。
遅すぎるくらいだったが、それほどまでに彼の言葉は衝撃的だった。
恐る恐る、ミュチュスカに尋ねる。
「腹が立たないのですか?……私は、あなたがたの忠誠を疑いました」
「今のレーベルトにおいて、必要なのは周りを尊重する妃ではなく、王のために警戒を強める妃です。……私は、王妃陛下の行動に賛同いたします」
「…………」
私は唖然として彼を見てから──苦笑した。
笑おうとして、失敗したのだ。
「……ありがとうございます。ミュチュスカ。あなたの言葉を嬉しく思います。あなたの言葉を受け入れます」
私はドレスの裾を摘み、淑女の礼を執る。
そしてようやく──ロディアス陛下の寝室へと、足を踏み入れた。
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