14 / 117
一章
切り離せない、割り切れない
しおりを挟む
「そういうつもりでは……。その、真っ直ぐに……ええと、純粋に?想ってらっしゃるように見えたので……」
取り繕うように言葉を重ねれば重ねるほど墓穴を掘るようで、慌てて話を転換しようと模索する。
政略結婚した妻が、王妃が、不貞を疑われるなど有り得ないことだ。不貞そのものより、夫婦間の信頼関係の瓦解に繋がる。
何より、彼に誤解されたくない。
混乱のあまり、あちこちに視線をさまよわせて、私はようやく話を変えることに成功した。
「あ、もしかして聖女様は、ほかに好きな方がいらっしゃったのでしょうか?」
「……すごいね、この短時間でそこまで辿り着いたんだ?女の勘ってやつ?もしそうなら、女の勘も侮れないな」
少し驚いたようにロディアス陛下が言うので、私は笑ってしまった。
「いえ……。ただ、そうなのでは、と思っただけです。不慣れな環境で、あのように熱い想いを向けられてなお、想いを受け取られなかったということは……既に心に決めた方がいらっしゃるのでは、と」
「単純にアレンが気に食わなかっただけかもよ」
ロディアス陛下がぼそっと、辛辣なことを付け加えるので、苦笑した。
彼は私を抱き寄せて、膝の上に乗せると、そのまま私の肩に顎を乗せて話し出した。
距離がさらに近くなる。
体温すら感じる近さ。
彼と肌が触れ合うのは未だに慣れなくて、その度に心臓が跳ねる。今も、活発なまでに鼓動がうるさく騒ぎ回って、私はぴしりと石のように固まってしまった。
「ままならないものだね、ひとの感情っていうものは」
「は、はい」
あまりの近さに、その肌のぬくもりに。
あたたかさに、熱さに。
上手く言葉が紡げない。
彼は私の首筋に頭を擦り寄せて、言葉を続ける。
「アレンの妻にでも出来ればあるいは、と思ったんだけど……。まさか帰っちゃうとはね」
「ざ、残念ですね?」
彼の手が、腕が、触れている。
私の腰に、背中に。
柔く抱きしめられている。
ふわりと香るラベンダーがあまりにも官能的で、頭が上手く回らない。
自分が何を言っているのかすら、危うい。
「うん、割とね」
彼の舌がぺろり、と私の肌を舐めた。
首筋に熱が走る。
濡れた舌先が肌をなぞり、ちゅ、と柔く食んだ。
びくり、と揺れる体を、彼が抱え込む。
「ゃっ……へい、か」
「んー……こういう時まで『陛下』って呼ばれるのは、好ましくないな。気が乗らなくなるって言うか──」
「で、ではどうお呼びすれば……?」
中途半端に昂った体を放置されては困る。
彼に教えこまれてしまった体は、些細な刺激でも敏感に反応してしまう。
このまま解放されても、きっと朝まで落ち着かない気分で過ごすことになるだろう。
そう思っておずおずと尋ねると、彼は少し考え込むように沈黙した。
「……ロディアスでいいよ」
「え?で、ですが──」
「陛下、と呼ばなければなんでもい。きみを抱く時まで肩書きに縛られたら、できるものもできなくなる」
「え、えぇ?と……は、はい。分かりま、ました……。ロディアス様」
口篭りながら彼の名を呼ぶと、ロディアス陛下はよく出来ました、とでもいうように柔らかく微笑んだ。私は彼の瞳を見なかった。
感情の伴わない、冷たい瞳をしていたら、きっとまた私は、性懲りなく傷つくだろうということが、分かっていたから。
(できるものも、できなくなる──)
つまりそれは、義務でしかない、ということ。
義務だから仕方なく、私に触れる、ということだ。私は彼に触れられて、浅ましくも悦びを感じ、嬉しく思う気持ちを抑えられない。
だけど彼はそうでは無いのだ──。
それを思い知らされてしまってまた、苦しくなる。
彼のくちびるが、私の首筋を食んだ。
柔く甘噛みされて、そのまま肌を伝う。
「んっ、ぁ……」
思わず、声がこぼれてしまう。
些細な接触なのに、ただ首筋に口付けられているだけなのに。
私は、甘やかな声をこぼしてしまった。
体はすっかりこの先を期待してしまっていて、少し触れられただけで大袈裟に反応してしまう。
それが恥ずかしいのに、自分では止めることが出来ない。
「ロディアス、っさま……ぁっ」
「うん、やっぱりいいね。名前で呼ばれた方が、断然いい」
彼は私の胸元をぺろりと舐めると、結ばれたリボンの先を咥えた。
はらりと、リボンが解かれる。
胸元の白い膨らみがあらわになって、彼が肌に口付けた。それはあまりにも卑猥な光景で、目を逸らしたくなった。
……彼は、ルエイン様とも、こういうことをするのだ──。
それを、どうしてかこの時に思い出してしまった。
ルエイン様の、焦がれる眼差し。
彼を、求める熱い瞳を。
ロディアス陛下は、同じように彼女に触れるのだろうか。こうして抱き上げて、膝に乗せ、彼女の肌に触れる。
それを想像すると、笑ってしまうくらい胸が軋んでしまった。
取り繕うように言葉を重ねれば重ねるほど墓穴を掘るようで、慌てて話を転換しようと模索する。
政略結婚した妻が、王妃が、不貞を疑われるなど有り得ないことだ。不貞そのものより、夫婦間の信頼関係の瓦解に繋がる。
何より、彼に誤解されたくない。
混乱のあまり、あちこちに視線をさまよわせて、私はようやく話を変えることに成功した。
「あ、もしかして聖女様は、ほかに好きな方がいらっしゃったのでしょうか?」
「……すごいね、この短時間でそこまで辿り着いたんだ?女の勘ってやつ?もしそうなら、女の勘も侮れないな」
少し驚いたようにロディアス陛下が言うので、私は笑ってしまった。
「いえ……。ただ、そうなのでは、と思っただけです。不慣れな環境で、あのように熱い想いを向けられてなお、想いを受け取られなかったということは……既に心に決めた方がいらっしゃるのでは、と」
「単純にアレンが気に食わなかっただけかもよ」
ロディアス陛下がぼそっと、辛辣なことを付け加えるので、苦笑した。
彼は私を抱き寄せて、膝の上に乗せると、そのまま私の肩に顎を乗せて話し出した。
距離がさらに近くなる。
体温すら感じる近さ。
彼と肌が触れ合うのは未だに慣れなくて、その度に心臓が跳ねる。今も、活発なまでに鼓動がうるさく騒ぎ回って、私はぴしりと石のように固まってしまった。
「ままならないものだね、ひとの感情っていうものは」
「は、はい」
あまりの近さに、その肌のぬくもりに。
あたたかさに、熱さに。
上手く言葉が紡げない。
彼は私の首筋に頭を擦り寄せて、言葉を続ける。
「アレンの妻にでも出来ればあるいは、と思ったんだけど……。まさか帰っちゃうとはね」
「ざ、残念ですね?」
彼の手が、腕が、触れている。
私の腰に、背中に。
柔く抱きしめられている。
ふわりと香るラベンダーがあまりにも官能的で、頭が上手く回らない。
自分が何を言っているのかすら、危うい。
「うん、割とね」
彼の舌がぺろり、と私の肌を舐めた。
首筋に熱が走る。
濡れた舌先が肌をなぞり、ちゅ、と柔く食んだ。
びくり、と揺れる体を、彼が抱え込む。
「ゃっ……へい、か」
「んー……こういう時まで『陛下』って呼ばれるのは、好ましくないな。気が乗らなくなるって言うか──」
「で、ではどうお呼びすれば……?」
中途半端に昂った体を放置されては困る。
彼に教えこまれてしまった体は、些細な刺激でも敏感に反応してしまう。
このまま解放されても、きっと朝まで落ち着かない気分で過ごすことになるだろう。
そう思っておずおずと尋ねると、彼は少し考え込むように沈黙した。
「……ロディアスでいいよ」
「え?で、ですが──」
「陛下、と呼ばなければなんでもい。きみを抱く時まで肩書きに縛られたら、できるものもできなくなる」
「え、えぇ?と……は、はい。分かりま、ました……。ロディアス様」
口篭りながら彼の名を呼ぶと、ロディアス陛下はよく出来ました、とでもいうように柔らかく微笑んだ。私は彼の瞳を見なかった。
感情の伴わない、冷たい瞳をしていたら、きっとまた私は、性懲りなく傷つくだろうということが、分かっていたから。
(できるものも、できなくなる──)
つまりそれは、義務でしかない、ということ。
義務だから仕方なく、私に触れる、ということだ。私は彼に触れられて、浅ましくも悦びを感じ、嬉しく思う気持ちを抑えられない。
だけど彼はそうでは無いのだ──。
それを思い知らされてしまってまた、苦しくなる。
彼のくちびるが、私の首筋を食んだ。
柔く甘噛みされて、そのまま肌を伝う。
「んっ、ぁ……」
思わず、声がこぼれてしまう。
些細な接触なのに、ただ首筋に口付けられているだけなのに。
私は、甘やかな声をこぼしてしまった。
体はすっかりこの先を期待してしまっていて、少し触れられただけで大袈裟に反応してしまう。
それが恥ずかしいのに、自分では止めることが出来ない。
「ロディアス、っさま……ぁっ」
「うん、やっぱりいいね。名前で呼ばれた方が、断然いい」
彼は私の胸元をぺろりと舐めると、結ばれたリボンの先を咥えた。
はらりと、リボンが解かれる。
胸元の白い膨らみがあらわになって、彼が肌に口付けた。それはあまりにも卑猥な光景で、目を逸らしたくなった。
……彼は、ルエイン様とも、こういうことをするのだ──。
それを、どうしてかこの時に思い出してしまった。
ルエイン様の、焦がれる眼差し。
彼を、求める熱い瞳を。
ロディアス陛下は、同じように彼女に触れるのだろうか。こうして抱き上げて、膝に乗せ、彼女の肌に触れる。
それを想像すると、笑ってしまうくらい胸が軋んでしまった。
169
お気に入りに追加
894
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる