女嫌い王太子は恋をする。※ただし、そのお相手は乙女ゲームのヒロインではないようです

ごろごろみかん。

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恐怖!危機感のなさ

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どの口がそれを言うか、という感じだが表面上私たちの仲は良好に見せておく必要がある。
殿下も妃との仲を勘ぐられて更なる側室のすすめなど受けたくないのだろう。

「それでは立ち話もなんだし、移動しようか。案内しよう」

殿下がそう声をかける。
彼に続き私がその後を追うように足を踏み出した時だった。

隣にいるアヤナ様も足を踏み出そうとして、そして盛大に足を滑らせた。
人間あんなに見事に滑るのかと言うくらい足をつるめかせて、そのまま勢いよく前に突っ込んでいく。
幸か不幸か、いや殿下にとっては災難だろう。
アヤナ様の前にいたのは殿下であり、そしてアヤナ様は殿下に向かって頭突きするような形で倒れ込んでいた。

「きゃあ………!」

アヤナ様の悲鳴が飛び、殿下の元に倒れ込む…………かと思いきやなぜか殿下は素早くそれを躱した。
そうなると当然。
殿下の後ろにいた私にアヤナ様が倒れ込んでくることになるわけで───
大事故である。 

「……!?」

(ちょっと!!何で避けた!?どうして避けたのかしら!?後ろには妻がいるって分かってたくせに、なぜ!それともわかってて避けたのかしら!?自分が女性嫌いだからってか弱い私を前に出したの!?信じられない!)

そう思いつつ、アヤナ様の頭突きが私の胸元に入った。
ゴッという固い音を飛ばしながらうめき声が漏れそうになったがしかし一国の王太子妃としてみっともないところは見せられない。
私は持ち前の根性で痛みを呑み下した。

「──、───……!!」

そして当然私が、小柄とはいえ、人一人支えられるはずがない。

(ごめんね、アヤナ様!耐えきれないわ!)

ただでさえ私は本日細いヒールを履いている。
姫であった私が体幹など鍛えていたはずもなく、そのままよろけてバランスを崩した。
私は前に倒れ込み、殿下にぶつかりそうになる。

私とアヤナ様が団子になって殿下の元に倒れこむと、殿下はたたらを踏んだもののそのまま踏みとどまった。
細身に見えるが、そこはやはり鍛えた男性である。
かくして三人同時転倒は免れたのである。

「………はっ!す、すみませんファルシア王子!……………とユーアリティ様!」

慌てた様子で私の胸に倒れ込んでいたアヤナ様が顔を上げる。
そしてすぐさま誰かを探すようにしていたが、やがて目の前にいた私と目が合った。

アヤナ様は派手にすっ転んだ。
もし、そのまま地面に倒れ込んでいたら、間違いなく顔に傷ができていただろう。
そして巻き込まれた私も無事ではなかったはず。
そう思うと抱きとめてくれた殿下に感謝だが元はと言えば殿下がアヤナ様を避けなければこんなことにはなってなかった。

だけどお礼は言うべきだと思い、私はドレスの裾を直しながら殿下に微笑みかけた。

「ありがとうございます。ファルシア殿下。アヤナ様もお怪我はありませんか?」

「は、はいぃ……」

アヤナ様が目をうるうるさせている。
怪我はなさそう。何よりだわ。

(元はと言えば殿下がアヤナ様を抱きとめてくれていれば私まで巻き込まれることは無かったんだけどね!!)

そう思いつつ、殿下にも微笑めば、彼もまたにこりと完璧なまでに取り繕った笑みを浮かべた。

「ふたりとも怪我がなくてよかった」

そしてそのまま私に触れていた腰をあっさりと離す。
そう言えばこんなに密着して殿下は大丈夫だったのだろうか?
そんなことを考えているとガレット王子の声が割り入る。

「申し訳ありません、アヤナは少し危なっかしいところがあって………。まあそんなところも可愛いんですけれどね」

はは、と笑い飛ばすガレット王子だが、こちらがはは………(乾いた笑い)である。アヤナ様は可愛らしいが、夫のガレット王子にはもう少ししっかりして欲しい。

「ではガレット王子。あなたがアヤナ様を支えてあげてください。王宮内には今よりもたくさん人がいますから」

ファルシア殿下が言う。

「ええ。そうですね、ではアヤナ。手をこちらに」

「えっ!?あっ………は、はい」

どこか狼狽えた様子でアヤナ様が答える。
そしてちらりと私を見て、なぜかどこか怯えた様子を見せた。

(……?)

そして先程通り殿下、私、ビヴォアール王太子夫妻と続き、王宮内を案内する。

この後案内するのは貴賓室だ。
そこで軽くお茶をし、政談を始めるのだ。
互いに手を組むメリットがあるかどうか、国政状況の確認、探り合いをするのだ。
王太子の婚姻祝いと言えど、わざわざ訪問して話すことといえばやはり国政の話になる。

ビヴォアール王国は資源が豊かでかつ植物が育ちやすい土壌をしている。恐らくそこが利点なのだろう。
だけど逆に言えばビヴォアール王国の強みはそれしかない。それを武器にどうやってこの大国………ルデン国と同盟や連盟を希望するのだろうか。ガレットの腕の見せどころである。

ちらりとガレットを見るが、朗らかに笑い、世間話に話を咲かせていた。

(うーん……とても大切な公務で訪れたようには見えないけど……。なんというか、孫が可愛い好好爺のような)

「アヤナ少し痩せたか?また誰かに何か言われたのか………」

「いいえ、そんなことないわ。皆さん良くしてくれるもの………ああ、でもルシア様は私のこと怖い目で見てくるの………。あの方レースイ様と仲がよかったでしょう?だからきっと私のことを………」

「何だと?ルシアといえばレースイの取り巻きだったな。帰ったらすぐに対処しよう」

「ガレット………!」

感極まった声をアヤナ様が出している。
ラブアピールがすごい。ハートの余波、すごいこっちに流れてくるわ。流れ弾っていうのかしらね。
ここは他国の宮殿であるので、場所を考えていただきたい。おふたりの寝室でそういうのはお願いします。

私はあえて聞こえてないフリしているが、しかし丸聞こえである。ふたりは声をひそめない。というか声が大きい。
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