7 / 8
恐怖!危機感のなさ
しおりを挟むどの口がそれを言うか、という感じだが表面上私たちの仲は良好に見せておく必要がある。
殿下も妃との仲を勘ぐられて更なる側室のすすめなど受けたくないのだろう。
「それでは立ち話もなんだし、移動しようか。案内しよう」
殿下がそう声をかける。
彼に続き私がその後を追うように足を踏み出した時だった。
隣にいるアヤナ様も足を踏み出そうとして、そして盛大に足を滑らせた。
人間あんなに見事に滑るのかと言うくらい足をつるめかせて、そのまま勢いよく前に突っ込んでいく。
幸か不幸か、いや殿下にとっては災難だろう。
アヤナ様の前にいたのは殿下であり、そしてアヤナ様は殿下に向かって頭突きするような形で倒れ込んでいた。
「きゃあ………!」
アヤナ様の悲鳴が飛び、殿下の元に倒れ込む…………かと思いきやなぜか殿下は素早くそれを躱した。
そうなると当然。
殿下の後ろにいた私にアヤナ様が倒れ込んでくることになるわけで───
大事故である。
「……!?」
(ちょっと!!何で避けた!?どうして避けたのかしら!?後ろには妻がいるって分かってたくせに、なぜ!それともわかってて避けたのかしら!?自分が女性嫌いだからってか弱い私を前に出したの!?信じられない!)
そう思いつつ、アヤナ様の頭突きが私の胸元に入った。
ゴッという固い音を飛ばしながらうめき声が漏れそうになったがしかし一国の王太子妃としてみっともないところは見せられない。
私は持ち前の根性で痛みを呑み下した。
「──、───……!!」
そして当然私が、小柄とはいえ、人一人支えられるはずがない。
(ごめんね、アヤナ様!耐えきれないわ!)
ただでさえ私は本日細いヒールを履いている。
姫であった私が体幹など鍛えていたはずもなく、そのままよろけてバランスを崩した。
私は前に倒れ込み、殿下にぶつかりそうになる。
私とアヤナ様が団子になって殿下の元に倒れこむと、殿下はたたらを踏んだもののそのまま踏みとどまった。
細身に見えるが、そこはやはり鍛えた男性である。
かくして三人同時転倒は免れたのである。
「………はっ!す、すみませんファルシア王子!……………とユーアリティ様!」
慌てた様子で私の胸に倒れ込んでいたアヤナ様が顔を上げる。
そしてすぐさま誰かを探すようにしていたが、やがて目の前にいた私と目が合った。
アヤナ様は派手にすっ転んだ。
もし、そのまま地面に倒れ込んでいたら、間違いなく顔に傷ができていただろう。
そして巻き込まれた私も無事ではなかったはず。
そう思うと抱きとめてくれた殿下に感謝だが元はと言えば殿下がアヤナ様を避けなければこんなことにはなってなかった。
だけどお礼は言うべきだと思い、私はドレスの裾を直しながら殿下に微笑みかけた。
「ありがとうございます。ファルシア殿下。アヤナ様もお怪我はありませんか?」
「は、はいぃ……」
アヤナ様が目をうるうるさせている。
怪我はなさそう。何よりだわ。
(元はと言えば殿下がアヤナ様を抱きとめてくれていれば私まで巻き込まれることは無かったんだけどね!!)
そう思いつつ、殿下にも微笑めば、彼もまたにこりと完璧なまでに取り繕った笑みを浮かべた。
「ふたりとも怪我がなくてよかった」
そしてそのまま私に触れていた腰をあっさりと離す。
そう言えばこんなに密着して殿下は大丈夫だったのだろうか?
そんなことを考えているとガレット王子の声が割り入る。
「申し訳ありません、アヤナは少し危なっかしいところがあって………。まあそんなところも可愛いんですけれどね」
はは、と笑い飛ばすガレット王子だが、こちらがはは………(乾いた笑い)である。アヤナ様は可愛らしいが、夫のガレット王子にはもう少ししっかりして欲しい。
「ではガレット王子。あなたがアヤナ様を支えてあげてください。王宮内には今よりもたくさん人がいますから」
ファルシア殿下が言う。
「ええ。そうですね、ではアヤナ。手をこちらに」
「えっ!?あっ………は、はい」
どこか狼狽えた様子でアヤナ様が答える。
そしてちらりと私を見て、なぜかどこか怯えた様子を見せた。
(……?)
そして先程通り殿下、私、ビヴォアール王太子夫妻と続き、王宮内を案内する。
この後案内するのは貴賓室だ。
そこで軽くお茶をし、政談を始めるのだ。
互いに手を組むメリットがあるかどうか、国政状況の確認、探り合いをするのだ。
王太子の婚姻祝いと言えど、わざわざ訪問して話すことといえばやはり国政の話になる。
ビヴォアール王国は資源が豊かでかつ植物が育ちやすい土壌をしている。恐らくそこが利点なのだろう。
だけど逆に言えばビヴォアール王国の強みはそれしかない。それを武器にどうやってこの大国………ルデン国と同盟や連盟を希望するのだろうか。ガレットの腕の見せどころである。
ちらりとガレットを見るが、朗らかに笑い、世間話に話を咲かせていた。
(うーん……とても大切な公務で訪れたようには見えないけど……。なんというか、孫が可愛い好好爺のような)
「アヤナ少し痩せたか?また誰かに何か言われたのか………」
「いいえ、そんなことないわ。皆さん良くしてくれるもの………ああ、でもルシア様は私のこと怖い目で見てくるの………。あの方レースイ様と仲がよかったでしょう?だからきっと私のことを………」
「何だと?ルシアといえばレースイの取り巻きだったな。帰ったらすぐに対処しよう」
「ガレット………!」
感極まった声をアヤナ様が出している。
ラブアピールがすごい。ハートの余波、すごいこっちに流れてくるわ。流れ弾っていうのかしらね。
ここは他国の宮殿であるので、場所を考えていただきたい。おふたりの寝室でそういうのはお願いします。
私はあえて聞こえてないフリしているが、しかし丸聞こえである。ふたりは声をひそめない。というか声が大きい。
368
お気に入りに追加
857
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了から覚めた王太子は婚約者に婚約破棄を突きつける
基本二度寝
恋愛
聖女の力を体現させた男爵令嬢は、国への報告のため、教会の神官と共に王太子殿下と面会した。
「王太子殿下。お初にお目にかかります」
聖女の肩書を得た男爵令嬢には、対面した王太子が魅了魔法にかかっていることを瞬時に見抜いた。
「魅了だって?王族が…?ありえないよ」
男爵令嬢の言葉に取り合わない王太子の目を覚まさせようと、聖魔法で魅了魔法の解術を試みた。
聖女の魔法は正しく行使され、王太子の顔はみるみる怒りの様相に変わっていく。
王太子は婚約者の公爵令嬢を愛していた。
その愛情が、波々注いだカップをひっくり返したように急に空っぽになった。
いや、愛情が消えたというよりも、憎悪が生まれた。
「あの女…っ王族に魅了魔法を!」
「魅了は解けましたか?」
「ああ。感謝する」
王太子はすぐに行動にうつした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?
水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。
メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。
そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。
しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。
そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。
メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。
婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。
そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。
※小説家になろうでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】魅了が解けたので貴方に興味はございません。
紺
恋愛
「こんなに、こんなにこんなに愛してるのに……!!」
公爵令嬢のサラは婚約者である王太子を盲目的に愛していた。どんなに酷くされても嫌いになれない、そんな感情で狂いそうになりながらも王太子への愛だけを信じ続けてきた。
あるパーティーの夜、大勢の前で辱しめを受けたサラの元に一人の青年が声をかける。どうやらサラは長年、ある人物に魅了と呼ばれる魔術をかけられていた。魔術が解けると……
「……あれ?何で私、あんなクズのこと愛してたのかしら」
目が覚めた公爵令嬢の反撃が始まる。
※未完作品のリメイク版。一部内容や表現を修正しております。執筆完了済み。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる