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他国の王太子夫妻
しおりを挟むそんな時、他国から王太子夫妻が国賓として訪れることとなった。
私たちの婚姻祝いのためらしい。
ルデン国の友好国であるビヴォアール国は過去、王太子妃を両国からそれぞれ輩出していることもあり、関係性もいいものだった。
(でも、最近のビヴォアールは何かと騒がしいのよね)
ビヴォアールと言えば、さいきんトップスキャンダルが起きたばかり。
なんでも、王太子ガレット殿下と、長年彼と婚約していた公爵令嬢の婚約が破談になったらしい。
それも穏便な手法ではなく、公爵令嬢はガレット殿下の恋人に暴虐の類を尽くしたとかで幽閉されたとか。
令嬢との婚約が破棄された直後、ガレット殿下は間を置かずに恋人を妃にしたと聞く。婚約期間なく、である。びっくりよね。
通常であれば貴族、王族であればなおさら、ふさわしい婚約期間を経ての婚姻となるはずが、婚約期間を置かずの婚姻。懐妊したのかと思えばそうでもないという。
何が起きたの?と周辺国家、いや、全世界の王侯貴族の大半が思っただろう。
その時、王太子妃部屋の扉がノックされる。私が返事をすると茶髪の侍女が部屋に入ってきた。
ミアーネだ。
彼女は愛らしい童顔の持ち主で、婚姻適齢期になってなお、望んで独身を貫いている。ルデンでも仲が良く、唯一ルデン入りについてきてもらった侍女だった。
「ユーリ様、失礼します」
「何かあったの?」
「そろそろお茶をいかがかと思いまして。今日は妃殿下の好きなガトーショコラですわ」
ミアーネは声を弾ませてワゴンを押しながら部屋に入った。
そう言えばそろそろティータイムの時間だわ、と私は壁時計を見て思い出す。
「ありがとう、いただくわ」
私は刺繍糸と針を飾りの美しい木箱にしまった。
「今日のガトーショコラはギルシア国の特産品のクワナを使っておりまして、香りが濃厚ですわ。味付けにホワイトシャンパンを混ぜこみ、風味を飛ばし、香葉を練り込んで、上品な味わい仕上げたとコックが言っておりました。きっとユーリ様も気に入ります」
「まあ、本当?嬉しいわ。クワナと言えばアルコール要素を含む果物よね。柑橘系の味がすると聞いたことはあるけれど……食べたことが無いわ。市場にめったに出回らない、珍しい果実なのでしょう?」
モンテナス国の王女であった私ですら口にしたことがないのだ。
尤も、モンテナス国とギルシア国はあまり国交がさかんではないことも理由のひとつではあるが。ギルシア国の特殊な環境下で、かつ栽培が難しいことから生息地すらわからないと言われている幻の果実。それをぜいたくにお菓子にするなど思い切ったことをするものだ。
驚く私に、ミアーネは自信ありげに答えた。
「ええ、そうですわ!こちらはギルシア国からルデンに献品されたもののひとつでして、これを王太子殿下がお持ちするように、と」
「殿下が?」
思わず目を瞬かせる私に、ミアーネはくすくすと笑った。
「愛されておいでですね、妃殿下」
私はそれはないと思ったが、そうだと信じ込んでいるミアーネにそれは言いにくい。どうしようかと私は頭を悩ませた。
(どうして殿下がガトーショコラなんて……?)
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