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2.罪を抱えた国

王家は、冬の稀人ではない

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船に二日乗り、各国を経由し、ようやく、クリム・クライムを囲う海に辿り着いた。
クリム・クライムにはこの海を渡らなければならないという。


(ここが……【霧隠しの海】……)


船を直進させればいずれ、クリム・クライムに辿り着くはず。
それなのに、いくら船を進めても進めても、辿り着くことの無い幻の国。
気がつけば、船は最初の地点に戻されているという──。

サミュエルは、小舟を一舟用意していた。
どうやら、それでクリム・クライムに向かうようだ。手には、オールが握られている。


「手で漕いでいくの?」


「あまり目立ちたくないからね。俺は国を出る時も戻る時もこうやってコソコソしてるんだ。クリム・クライムの人間が気軽に出入りしていることが知れたら、面倒なことになる」


「そうなの……」


確かに、彼の言う通りだ。

クリム・クライムは謎に包まれ過ぎて、人間は住んでいないのではないか、とまで言われていた。
それなのに、悠々と行き来する人間がいれば怪しまれるのはとうぜんだ。

私は、ずっと気になっていたことを彼に尋ねた。


「クリム・クライムに向かおうとすれば、たちまち霧に包まれ、いつの間にか船は最初の地点に戻っている。……それは、事実?」


誰もが知る有名な話だ。

国を包む霧と海があるから。
クリム・クライムに辿り着いた人間は誰もいない。
小舟に乗り込みながら尋ねると、サミュエルはオールをしっかり握り、慣れた手つきで漕ぎ始めた。


「ほんとうだよ。あれは、兄の術によるものだ」


「お兄様……」


彼は、王族なはずだ。
なぜなら、彼の名前は、サミュエル・クリム・クライム。名に国名を冠するのは、基本、王家の人間だけだと思われる。
私の考えを察したように、彼は続けて言った。

「きみも気づいてると思うけど──俺は、クリム・クライム王家の人間だ。俺は、クリム・クライムの二番目の王子。兄は、王太子だ」


「──」


予想はしていた、けど。


(王子……)


王子、という言葉に思い出すのは、やはりセドリック様だ。
だけど、セドリック様とサミュエルはまったく似ていない、ように思う。サミュエルは、良くも悪くも王子らしくない。


(今更だけど私、彼にこんな気安く口を聞いてもいいのかしら)


いや、だめだろう。
しかし、今更改めるというのも気まずいものだ。

そんなことを考えていると、船を少しずつ進ませながら、サミュエルが話を切り出した。


「兄の使う術……神秘、というべきだな。兄の持つ神秘は、他人の眠りに関与する、といったもの。そして、本来それは──セミュエル国の【冬を司る稀人】が持っているはずの、神秘だ」


「…………え?」


冬、を司る──稀人が、持つ神秘。


単語と単語が分離して、うまく文章が繋がらない。

だって、それなら。
彼が言うことがほんとうなら。

王家は……冬の稀人、ではない?


「そんなばかな。だって、今までだって王家はセミュエルに冬を……」


「そう。あくまでクリム・クライムの王族に継承しているのは神秘だけだ。そもそも、季節を巡らせる稀人と、各個人が使える神秘はまったくの別物だ。ただ、それを公にするのはセミュエル国にとって都合が悪い。だからこそ、あえてセミュエル国は、神秘と季節を司る稀人としての力を同一視させてきた」


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