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最終章
今だけは /リリネリア
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しかし、ではなぜ男色家なんて。そこではっとする。彼は私以外の女性を生涯娶らないと言った。
では、男性は………?いえ、男性って娶るものでしたっけ?確か西の国には同性同士の婚姻も認められているようだけど、とさらに思考回路を動かしていると、レジナルドが苦笑をうかべた。
どちらかというと苦々しい表情だ。苦い薬を噛んだらこんな顔をするだろう、という表情。
「男性とどうこう、とかもないからね」
「あの…………?」
「だから、そうしておけば女性と無理矢理婚姻を結ばれることも無い。男しか無理だとわかっている男に、無理矢理女を宛てがうなんてさらなる悲劇を産むだけだ。リリーナローゼのこともあるしね」
「……………」
そこで、ようやく私はレジナルドの言うことがわかった。だけどそれと同時に、それを告知することで彼がどう見られるかも安易に思い浮かんだ。この国において同性愛は未だに数少ないケースとされ、大々的に口にするものでは無い。禁忌というほどではないが、口にすることは憚られる、といったそんな現状だ。そんな国でレジナルドが男色家だとカミングアウトすることによって彼がどう見られるのか。それは想像するにあまりあった。黙り込んだ私に、レジナルドは穏やかな、優しい笑みで続けた。それは過去、私が見たものとなんの代わりもなかった。
「それか、種無しということにしてもいい。不能っていうのもいいかな。…………ああいや、それだと色々と試されそうで嫌だ。面倒なのはごめんだ」
どこか苦々しい声で呟くレジナルド。もしかしたら覚えがあるのかもしれない。とはいえ、そこを深堀りするよりも先に聞きたいことがあったので、私は真っ直ぐにレジナルドと目を合わせた。
「…………あなた、歴史に残る国王になるわよ………?」
「いいね。偉大なる王、なんてフレーズがつくのかな」
「周りから………どう見られるか、分からないの」
「同情されるのかな。それとも、案外親しみを持ってくれるかもよ」
「…………世継ぎは!あなたの後継は、どうするの…………」
「それなら、弟がいるから何とかなるでしょう。何も、王家は僕だけじゃないんだから」
その言葉に、レジナルドは本気なのだと思いしってしまった。だけどなんて声をかければいいかわからずに、私は沈黙する。黙った私に、レジナルドが小さく笑みを零した。
「もう聞きたいことはない?………ああ、このことでリリィが気負う必要は無いよ。これは僕の独断で、僕の勝手だから」
「…………男色家で、種無しで、不能な王だと謗られてももいいの」
「う、それをリリィの口から言われるときついものがあるけど。…………でも、いいよ。それで、リリィを………リリィを想う気持ちが守れるなら。僕はね、リリィ。もう、この想いを壊されたくないんだ。リリィへの気持ちは、感情は、もう、誰にも。誰にも邪魔されたくないんだよ」
「………………」
「僕は、これを守るためなら何だってする。何だって使うし、何でもするよ。僕は、それほどまでにきみがーーーこの感情が、大切なんだ。…………王太子失格だね」
そう笑うレジナルドに、今度こそ私は頬に伝うものを抑えられなかった。胸が痛くて、熱くて、苦しくて、悲しい。それなのに、彼に是を返せない自分が辛くて、悲しかった。私は、私は。
「…………あなたは、馬鹿だわ」
「そうだね。でも僕は、そんな自分が嫌いじゃない」
「………私は」
私は。言いかけて、言葉をやめた。
好きだ、なんて言っていいのか。
言っても、いいのだろうか。
きっと、まだ、多分。私はレジナルドが好きなのだから。
言える、わけない。
だって、だって私は。
汚れている。穢れている、から。
そんなことを言う資格なんてない。
それに、今更どんな顔をすればいいと言うの。散々レジナルドを詰って、謗って彼を傷つけていたのに。
今更、私が。
そんな私が。
どうすれば。
好きだと、言っていいの。
ううん。好きなんて綺麗な感情じゃない。
もっと、汚くて。大事で。大きくて。
重い、何かなんだ。
「………レジー」
今言えるのは、彼の名前だった。
感情の名前をつけることが出来ない。なにも、返すことができない。
だけどせめて、彼の名前を。
レジナルドの名前を呼ぶことだけは、今だけは許して欲しいと思った。
では、男性は………?いえ、男性って娶るものでしたっけ?確か西の国には同性同士の婚姻も認められているようだけど、とさらに思考回路を動かしていると、レジナルドが苦笑をうかべた。
どちらかというと苦々しい表情だ。苦い薬を噛んだらこんな顔をするだろう、という表情。
「男性とどうこう、とかもないからね」
「あの…………?」
「だから、そうしておけば女性と無理矢理婚姻を結ばれることも無い。男しか無理だとわかっている男に、無理矢理女を宛てがうなんてさらなる悲劇を産むだけだ。リリーナローゼのこともあるしね」
「……………」
そこで、ようやく私はレジナルドの言うことがわかった。だけどそれと同時に、それを告知することで彼がどう見られるかも安易に思い浮かんだ。この国において同性愛は未だに数少ないケースとされ、大々的に口にするものでは無い。禁忌というほどではないが、口にすることは憚られる、といったそんな現状だ。そんな国でレジナルドが男色家だとカミングアウトすることによって彼がどう見られるのか。それは想像するにあまりあった。黙り込んだ私に、レジナルドは穏やかな、優しい笑みで続けた。それは過去、私が見たものとなんの代わりもなかった。
「それか、種無しということにしてもいい。不能っていうのもいいかな。…………ああいや、それだと色々と試されそうで嫌だ。面倒なのはごめんだ」
どこか苦々しい声で呟くレジナルド。もしかしたら覚えがあるのかもしれない。とはいえ、そこを深堀りするよりも先に聞きたいことがあったので、私は真っ直ぐにレジナルドと目を合わせた。
「…………あなた、歴史に残る国王になるわよ………?」
「いいね。偉大なる王、なんてフレーズがつくのかな」
「周りから………どう見られるか、分からないの」
「同情されるのかな。それとも、案外親しみを持ってくれるかもよ」
「…………世継ぎは!あなたの後継は、どうするの…………」
「それなら、弟がいるから何とかなるでしょう。何も、王家は僕だけじゃないんだから」
その言葉に、レジナルドは本気なのだと思いしってしまった。だけどなんて声をかければいいかわからずに、私は沈黙する。黙った私に、レジナルドが小さく笑みを零した。
「もう聞きたいことはない?………ああ、このことでリリィが気負う必要は無いよ。これは僕の独断で、僕の勝手だから」
「…………男色家で、種無しで、不能な王だと謗られてももいいの」
「う、それをリリィの口から言われるときついものがあるけど。…………でも、いいよ。それで、リリィを………リリィを想う気持ちが守れるなら。僕はね、リリィ。もう、この想いを壊されたくないんだ。リリィへの気持ちは、感情は、もう、誰にも。誰にも邪魔されたくないんだよ」
「………………」
「僕は、これを守るためなら何だってする。何だって使うし、何でもするよ。僕は、それほどまでにきみがーーーこの感情が、大切なんだ。…………王太子失格だね」
そう笑うレジナルドに、今度こそ私は頬に伝うものを抑えられなかった。胸が痛くて、熱くて、苦しくて、悲しい。それなのに、彼に是を返せない自分が辛くて、悲しかった。私は、私は。
「…………あなたは、馬鹿だわ」
「そうだね。でも僕は、そんな自分が嫌いじゃない」
「………私は」
私は。言いかけて、言葉をやめた。
好きだ、なんて言っていいのか。
言っても、いいのだろうか。
きっと、まだ、多分。私はレジナルドが好きなのだから。
言える、わけない。
だって、だって私は。
汚れている。穢れている、から。
そんなことを言う資格なんてない。
それに、今更どんな顔をすればいいと言うの。散々レジナルドを詰って、謗って彼を傷つけていたのに。
今更、私が。
そんな私が。
どうすれば。
好きだと、言っていいの。
ううん。好きなんて綺麗な感情じゃない。
もっと、汚くて。大事で。大きくて。
重い、何かなんだ。
「………レジー」
今言えるのは、彼の名前だった。
感情の名前をつけることが出来ない。なにも、返すことができない。
だけどせめて、彼の名前を。
レジナルドの名前を呼ぶことだけは、今だけは許して欲しいと思った。
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